×6 姉と妹の溶けあう関係
「ん...」
「おはよう」
見慣れたいつも通りの天井にシーツの動くときに聞こえる擦れた音。
そしていつものお姉ちゃんの花みたいな匂い。
でも私を見てきているお姉ちゃんの瞳はいつもの優し気な柔らかい眼差しを持っていなかった。
声も淡々としていて、まるでいつもとは違う。
それに、マノの姿はもう無かった。
「梨歩、さっき何があったか、誰と話して、どんな内容だったか、
貴女はそれに何を答えたか、覚えてる?」
「うん...。なんとなくだけど」
そう、とお姉ちゃんは冷たく答える。
「ね、ねぇお姉ちゃん何なの。いつもと違う、怒ってるの?私何かした?」
お姉ちゃんは下を向き、スカートの裾を握る。
分からない。お姉ちゃんは今何を考えているのか。何で怒っているのか。
私には何も分からなかった。
私にはお姉ちゃんを見つめて返答を待つことしか出来なかった。
「...っ、後で話す。ちょっと放っておいて、話しかけないで」
お姉ちゃんはそう言って部屋から出て行った。
何故かその背中は寂しそうに見えていた。
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梨歩。
それは私の妹の名だ。
誰よりも優しくて、でも負けず嫌いで、夢に向かって走れる子。
そんな梨歩は私の大切な人で、守りたい人で、大切な家族だった。
それは私が死んでもきっと何も変わらない。
「はぁっ、はぁっ...」
あの日、私は不思議な夢を見た。
噂にあった魔法少女になる夢を見てみたくなったからだ。
でもその夢は私が殺される夢で、
ナイフを刺されたときの熱い感覚が今も胸に残っている気がした。
そして目が覚めたとき、隣にはマノがいた。
星が浮かぶ目は狂気が見え見えで、どうにも一緒にはいたくない子だ。
そしてその子に言い渡された魔法少女化成功の報告。
その時説明された魔法の発動方法、その原理、他にどんな魔法があるのか、
そして私たちの存在する意味。
私はそれを説明されたとき体が凍り付いたようだった。
そうその報告は私、いや魔法少女にとっての死刑宣告のようなものだったから。
だから、梨歩は巻き込ませたくなかった。
しかし、流行りというのは恐ろしいものだ。
梨歩は夢の噂を聞き、実際にやってしまった。
本当はこの夢は必ず見れるというわけではない。
成功しない場合が多く、この夢を見る割合のほうが極端に少ないのだ。
けれど、梨歩はその夢を見た。
自分が死ぬ夢、そして残機の言い渡し。
だからマノが近くに来たのだ。
でも、絶対に梨歩だけは生き残らせる。
他を殺すことになったとしても絶対に生き残らせる。
たとえそれで梨歩の心を傷つけてしまうとしても...。