×5 廃化した少女
私は、中学生の頃からやっと自分がおかしい事に気付いた。
それは他人から何十、何百と言われて気付いたのだ。
「やっぱりおかしい!あんた変だよ!」
でもそう言う彼らは何も教えてくれない。
何がおかしいのか、何が人を嫌な思いにさせているのかも。
聞いても返事をしなかった。
ーーーー♡ーーーー
「はぁ...咲良ちゃん今日も可愛い...」
私は今日も校舎から顔を覗かせながら玄関へと入っていく咲良ちゃんを見ていた。
サラサラの、絹みたいな黒の髪に光が沢山入っている大きな瞳、そして艶々とした形の良い唇。
性格もとっても良くて、聖女のように優しい。
まるで私とは真反対のアイドルみたいなキラキラした女の子。
私はそんな愛らしい咲良ちゃんが大好き。
けれど私はそんなアイドルのような面の咲良ちゃんで好きになったわけでは無かった。
まだ中学に入ったばかりの頃から明るい咲良ちゃんは人気者だった。
咲良ちゃんが振りまく天使のような笑顔は誰もを魅了して、無意識に弄んだ。
私はそんな咲良ちゃんが少し苦手だった。
でも、ある終わりかけている夏の夕方。
私は部活が終わって、忘れ物を取りに行くため教室に向かった。
夕日が差し込んでいるけれど薄暗い廊下は少し不気味だ。
そして教室のある一階の廊下へと降り、教室に向かおうとすると、
突然甲高い、聞き覚えのある悲痛な声が耳に入ったのだ。
それは私の向かう場所とは真反対の1組のほうから聞こえてきていた。
自然と足はそのほうへと向かい、ぎりぎり見えないように開いたドアから顔を覗かせる。
すると、其処にいたのは怯えた顔をした頭から水に濡れたびしょ濡れの女の子と、
空のペットボトルを持つ、いつもとは違う怖い顔をした咲良ちゃんがいた。
「なんで、なんでアンタが一回褒められたくらいで...」
「調子に乗らないでよっ!私が一番なのっ、」
怖い。
けれどそれ以上に私の心の中には不思議な興奮と、
ドロドロとマグマのように湧き出てくる熱い愛情があった。
今の私はおかしい、やっと私はそれに気づいた。
でもそんな事はどうでも良いほど咲良ちゃんにドキドキして頭の中が溶かされているみたい。
私はそんな咲良ちゃんの努力家で可愛い一面でその日恋に落ちたんだ。
ーーーー♡ーーーー
その愛情が途切れる事無く増え続けていたある日の事だった。
私はネットで「魔法の夢」を見る方法がある事を知った。
砂糖水を飲み、ちょっとした事をするだけで見れるものらしい。
興味など毛頭無かったけれど咲良ちゃんはこういうのが好きそうだから私もやってみることにした。
「砂糖水あっま...」
砂糖の粘りつくような味が口いっぱいに広がる。
やっぱり甘いものはあんまり美味しくない。
私はスマホを遠くに置き、枕に顔をうずめる。
見るなら咲良ちゃんが魔法少女になる夢がいいなぁ...。
きっと魔法の力で頑張って夢を実現しようとするんだろうな...。
「あ」
いつの間にか寝てしまっていたのか窓からもう星が見えていた。
なんだよ...結局魔法の夢なんて嘘っぱちじゃないか。
これは咲良ちゃんの耳に渡らないようにしないとな...。
そう思った時だった。
「おっはよ~う。あっこの時間だとこんばんは、かな?」
突然後ろから声が響いた。
「...誰」
「なによぉ。もっと驚いたらどう?...まぁいいや。その様子じゃ夢は見れてないみたいだねぇ」
何言ってるんだろうこの子。
ピンク髪に星が浮かんだ青い目。人形のような表情。
まるで存在全てが人間じゃないみたいだ。
「...何言ってるのか分からない」
「えぇ...説明するのめんどくさ。はぁ...。
まぁ単刀直入に言っちゃうと君、村上夜乃は魔法少女になれまーす!いぇーい!」
魔法少女...。
もしかしてこれが魔法の夢なのか。
私は頬を抓って確かめてみる。
痛い。夢じゃない、か...。
「...断る権利は私にあるの?」
一応聞いてみる。
これで無かったら大人しく従うしか無いのだけど...。
「うーん...。夜乃ちゃんには無いかな」
女の子の目が怪しげに光る。
これが咲良ちゃんだったらすごく可愛いんだろうなぁ...。
「私にはって、どういう事?」
「さぁね」
そう言いながら女の子は紙に何か書き、私に差し出す。
其処には綺麗な字で「マジカルハート、残り3」と書かれていた。
「これは...?」
私が女の子のほうに目を移すと、そこにはもう誰もいなかった。
ただ私の中には少しだけ、ほんの少しだけだけど、これから待ち受けるものに
ワクワクしているような怯えているような嫌なものが滲み出ていた。
村上夜乃
咲良ちゃんが大好きな女の子。
依存しやすく、相手も自分に依存させようとする。
人の裏面で惚れる。