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マジカル☆残機 ×10  作者: 釜戸 ルア
『1』,終わりの無い始まり
4/8

×3 望んだから





「あ、やっと起きたね!もうリホちゃんってばお寝坊さんなんだね!もうお昼だよ~」


「だから、貴女は誰!?私の知り合い...じゃないと思うけど」


そう言うとその子は一瞬だけ表情を曇らせたが、また笑みの表情に戻した。

桃色の艶々した唇が吊り上がっている。


「マノはねー、現実から離れたいって思っている子を救うドリームAIだよ!名前はマノ!!

 可愛いでしょ、ママが付けてくれたんだ!」


AI?

確かに如何にも二次元でいそうな感じの子だけれど...。

そもそも何で家の中にいるんだ。


「理解が追い付かないって顔してるね!追い付かなくても大丈夫だよ、いずれ意味は分かるから!」



マノは緑色の瞳を更に細め、にんまりと笑う。

マノが口から言葉を一つ出す度に分からない事がどんどんと増えていく。

それさえもいずれ分かるという事なのか...?


「やめてよ、も、もう意味が分からないよ!変な事ばっかり言わないで!」


マノが口をぽかんと開けて驚いた顔をする。

その顔は本気で驚いているような顔ではなく、まるで大袈裟な演技をしているかのような感じだった。


「ほえー、リホちゃん魔法少女になりたいんでしょ?

 あっ、ちょっと言い方が回りくどかった?じゃあ簡単に言うね!」


また唇を吊り上げてマノはそう言う。

まるで一個一個仮面を取り換えているかのように表情がコロコロと変わっているな...。

見ているこっちがマノの表情や一言に振り回されてしまう。



「リホちゃん。リホちゃんは小さい頃、魔法少女に憧れたりしてなかった?」


「そりゃまぁ憧れというか、大好きだったけど...」


アニメはちゃんと見ていたし、その中で出された呪文も全部覚えていたくらいだからな...。

未だに頭の片隅に少しだけ残っていたりする。


「うんうん、そうだよねぇ。

 でもさ、だんだん大きくなっていくと魔法とか信じなくなって、

 大好きだった世界も嫌いになったり、

 面倒くさくなったりしちゃってもう消えたいって気持ちになっちゃったりするでしょ?」


「.........」



その言葉に返事をしようと思ったものの、言葉が詰まって出て来ない。

確かに最近嫌なことばかり続いているから何とも言えないんだ。



「図星みたいだね。

 マノたちはね、そんな可哀そうな子たちを

 小さい頃の夢、つまり魔法少女にしてその嫌いを消してあげてるんだよ!」



「...で、私もその可哀そうな子たちの中に入るってこと?」


「だいせいか~い!ピンポンピンポーン!」



今もあまり、というか殆ど腑に落ちない部分があるが

少なくとも波留が言ってた「魔法少女になる夢」は本当だったという事なのだろうか。

それにしても「可哀そうな子たち」か...。

何となく嫌な響きだ。

他人に可哀そうと言われるのはやっぱり嫌なものだな。



「あ、でもね。リホちゃんが嫌ならマノは何にもしないよ!

 これ以上関わらないし、魔法少女にもさせない。

 一生普通の人間として生きていくようになるけどね」


「一生...普通の人間...」



頭の中でふとクラスメイトの顔と、あの日言われた言葉が過る。


《お前は一般人なんだよ!ただの!私よりちょっと褒められたからって調子乗んなクソ女》


《お前はただ狭い社会の中でずぅーっと平凡に生きるのがお似合いなんだっつーの!》


いつも優しいあの子が、皆から人気のあの子が、ずっと笑顔だったあの子が、

可愛らしい顔を歪ませて怒鳴り散らしながら私にペットボトルの水をかける。

何が起こったのかも、何が原因かも分からずに私はただ水の冷たさを感じていた。

それから何があったのかさえ覚えていない。

家に帰ってからやっと何があったのか分かったくらいだった。



けどあの言葉で私は自分が「普通」という者である事を再確認した。

アニメで見るようなヒロインや主人公ではなく、ただの凡人。

何も無い、どう足掻いてもきっと変わらない...。



「そんなの、いやだよ...」


私だって特別になりたい。

いつも優しかったアイドルのあの子みたいな、特別な子に。


今目の前にあるチャンスを逃せばきっともう一生凡人のままだろう。



「魔法少女になったら、特別な存在になるんだよね?」


「そりゃあ魔法が使えるようになるからね!」


それなら、もう...



「梨歩ー?誰と話してるの?」


決断したすぐ後、声がして扉が開いた。


「お姉ちゃん」


黒々とした双眸に、艶々の腰まである黒髪が綺麗な私のお姉ちゃん。

ずっと小さい頃から憧れな、凄く冷静な人だった。

けれどお姉ちゃんは私たちが話しているのを見た瞬間目を見開いた。


「あー、舞歩だ!似てると思ったらやっぱり姉妹だったんだねぇ」


「ねぇ...マノが何で梨歩と一緒にいるの」


マノを睨みつけながらお姉ちゃんは見たことも無い威圧的な顔をする。

マノは大袈裟に怯えた素振りをしたいる。


「もうマノのことそんなに睨まないでよ。

 パパの命令なんだもん。しょうがないじゃん」


「...梨歩。貴女はマノからの説明を聞いた?」


「うん、まぁ...」


すると、お姉ちゃんは今度はこちらを見つめてくる。


「それを聞いて、魔法少女になりたい。そう思った?」


真っ黒な目が覗いてくる。

返答はもうさっき決めたことだ。



「うん、私もなりたいって思った」


これだけ威圧的なのに言葉は喉からするっと出て来た。

お姉ちゃんは一瞬悲しい顔をしたけれど顔を戻し、目を伏せ、じっと下を向いている。

何でお姉ちゃんはマノの事知ってたんだろ...。


そんな事を考えていると、急に横からマノが飛びついてきた。

ピンク色の髪が私の頬に当たる。


「わーいっありがとっっ!

 よぉし、それじゃあ早速準備を進めるね!」


「うん...」


何をするんだろうか。

マノは何も持っていないようだけど...。


すると、マノは急に手を私の額に当てる。


「それじゃ」




「おやすみなさーい!」



その声を最後に、私の意識は無くなった。




‐‐‐‐‐




「ねぇ、舞歩。何で止めなかったの?」


ピンク髪の、AIと名乗るその少女、マノは笑いながら黒髪の少女、舞歩に問いかける。

しかしその黒髪の少女はマノのほうを向いておらず、

ベットの上で寝ている少女、梨歩をただ見つめていた。

するとマノは表情を変える。



「死んじゃう...かもしれないんだよ」


若干低いその声は、何処か悲しみを含んでいるようだった。

舞歩が肩を少しだけ震えさせる。




「梨歩が、そうなることを望んだからよ」


涼やかな声が部屋中に響き渡る。

目は相変わらず梨歩を見つめていて変わらなかったが、手が微かに震えていた。

それに、と舞歩は続ける。



「絶対に死なせたりなんかさせない」


舞歩はやっとマノのほうを向き、真っ直ぐな声でそう言った。

マノは梨歩を見ながらまた顔を曇らせる。



「...そっか」



太陽はまだ沈みそうになかった。

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