×1 夢
夜の11時。
私は眠たくなって下がってくる目を擦りながら波留からもらったメモを見る。
メモは女の子らしい丸っこい字でこう綴られていた。
(魔法の夢を見る方法)
1,5㎝くらいの正方形の紙切れをベットに置いておく
2,スマホの充電は切って自分から遠ざけておく
3,砂糖水を少しだけ飲んで寝る!
「これだけ...?」
こういうオカルト的なものはもっと手順を踏むものかと思っていたが、
その「魔法の夢」を見る方法は安易なものだった。
こんな簡単な方法で見れるものなのだろうか。
というか明日寝不足になっていたらどうしよう。
レム睡眠とかノンレム睡眠とかで聞いたことがあったけれど...。
まぁ寝不足になったら休み時間とかに寝ればいいだろう。
私はそんな事を思いながら書かれている通り紙切れをベットに置き、
スマホは充電を切ってリビングへと置いた。
そして砂糖水を用意し、一気飲みをする。
「甘っっ」
虫歯になりそうな甘ったるい液体が喉を通っていく。
後でうがいしておこう...。
私はベットへと戻り、もう一度メモを確認する。
「...よし、これで全部の工程が終わったな」
本当に魔法少女になれる夢が見れるのだろうか。
もうあまり興味は無いといえど、やっぱりなってみたい気持ちは少なからずある。
まぁ私は嫌な夢さえ見なければそれでいいのだが。
そんな事を考えながら私は部屋の電気を消し、布団の中に潜った。
ー☆ー☆ーーーーー
「ん...」
ここは一体何処だ。
気が付くとパイプがむき出しになっている廃工場のような所に立っていた。
辺りには瓦礫やコンクリートが散乱している。
しかし、それ以外変化は無く私の服装も顔もいつも通りだった。
強いて言うならば少しだけ目の下の隈が濃くなっているような気がする。
そしてこれは明晰夢というようなものなのだろうか、
私は今の状況がすぐ夢の中だと気付いたし、自由に動くことが出来た。
「誰かいますかー?」
試しに聞いてみる。
私の声が工場の広い部屋に響いた。
しかし特に返事は無く、ただ静かな空気が辺りを包んでいた。
「はぁ...」
少しだけ力を抜いて私は地面に座る。
コンクリート特有の硬さと冷たさが何だか心地よい。
結局魔法少女になるという噂は嘘だったのか...。
確かにいつも見ない感じの夢を見ているけれど、
全然キラキラしていなくて魔法少女とはかけ離れているだろう。
少しだけ期待していた自分が何だか馬鹿らしい。
「魔法少女...なってみたかったな...」
その時、後頭部に何か硬い物が押し付けられた。
そしてカチャッという音がして、
私は一瞬の激痛を味わい、意識を失くした。
「ごめん、ごめんね...。」
ー☆-☆ーーーーー
「ひっっっ!!」
私はベットから勢いよく起き上がり自分の後頭部を触る。
何も無い。
はぁ...と溜め息を出し、私は一気に体の力を抜いた。
体は汗ばんでいて、目からは涙が出ていた。
こんな悪夢を見たのはいつぶりだろうか。
しかも夢の中で経験したことのない痛みを味わってしまった。
ベットの上に置いていた紙切れは何も無く少しグシャっとなっているだけだった。
波留は何てものを教えてくれたんだ...。
私はその日体調不良で学校を休む事にした。