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ユイ9

ユミさんの強引な指示で彼は、私の隣に座った。

「ごめん。遅くなっちゃって」

「忘れてどこかに遊びに行っちゃったと思った」


今日の私と彼は、意外と前回とは違い普通に話せた。

意識した訳ではないが、自然にテーブルの下で彼の手を握った。

心地良い、胸の痛みが増幅していく。


「ユイ、俺と付き合おう。振らないでね」


ドキドキしていた。

意中の彼に告白された。


「うん、よろしくね」


女の勘なのだろうか。

私は彼と今日、こうなるような気がしていた。

彼と出逢って2回目。

もう何もかも彼が分かるような錯覚をする。

生まれて初めて味わう、幸福感に浸っていた。


「ユミさんユカさん!マナブが告白してユイちゃんと付き合っちゃった!」

「俺も聞こえてたーユミさんが主役なのにさー怒ってやってー」

「おめでとー!じゃあ飲めー」


彼はユカさんに勧められるがまま、何杯もイッキ飲みしていた。

私は彼の手を握ったまま、恥ずかしくてずっとうつむいていた。


ユミさんやユカさんが、私達の両サイドに座るともっと詰めろと言った。

「コラ!カップルなんだからもっと引っ付け」

「キム、コマ!この2人、ずっと手を握ってるよ」

この後、店を出るまでずっと、みんなに冷やかされた。


「大丈夫?」

「俺、金払った?」

「とりあえず、私が立て替えといたよ」

「明日払うね」

「ねえ、マンションどこ?運転手さんに言わないと」

私はマンションの場所を聞き、運転手に告げた。


店の中でもタクシーの中でもエレベーターに乗っても、手をつないでいた。

こんな満たされた気持ちを味わったことがない。

気持ち、愛情、友情、信頼、信頼…。

彼と一緒に居るとそんなことは、どうでもいいと感じる。

私は、彼の前だと素直になれた。


部屋に入ると、2人でソファに倒れこんだ。

「俺ね…」

彼は初めて逢ったときから、忘れられない存在になったと教えてくれた。

私もドキドキしたと告白すると、俺もだと言った。


誰かが見ていたら、バカにされるくらい私達は『イチャイチャ』していた。

彼とこうしているともうずっと前から一緒に居るような錯覚をした。


2人で1つのカップで飲み物を飲んだ。

2人で一緒にシャワーを浴びた。

そして2人は1つになった。


彼に抱かれている私は、幸せという以外の表現が見付からなかった。

生まれてきた中で1番愛する人に愛されている。

何度も何度も絶頂を迎えた。


翌日、目が覚めると彼は起きていた。

昨夜のことを覚えているか、試してみた。

所々、記憶が欠損していたが、重要なところは覚えていた。

これからずっと誰にも渡したくない、愛してると言ってくれた。

私にとって、最後の男になって欲しいと告げた。


休みだった彼に不動産屋まで付き合ってもらった。

「今月末でマンション解約してきた。転がり込んでいい?」

「もちろん」

道のど真ん中でも、彼は笑顔でキスしてくれた。

唇が離れた瞬間に私のポケットベルが鳴った。

「旦那だ…マナブくん、話があるの。帰ろ」

私は彼の手を握って、スタスタと歩き、彼の部屋へと向かった。


「実はね、私結婚してるの。もう1年くらい前に家を出てから逢ってないんだけどね」

「そうなんだ…え?今何て言った?」

「ちょっと電話借りるね。話してる間、手を握ってて」

彼の前では、良い女で居たいし、そう思われたい。

私は彼の女として、認めてもらいたい。

だから全てを話そうと思った。


「ユイ!」

「ユイ、俺さ…」

「好きな人に出逢ったから、約束どおり離婚届出して。じゃあね」

「分かった…」

あの声のテンションじゃ、オガタはダメなままだろう。

もうどうでもいい。

私には彼が居る。

彼と一緒に入れれば、お金も時間も何も要らない。


私とオガタのことを話した。

さすがに彼は驚いていたが、話を分かってくれた。

「本当に届け出すと思う?」

「明日、役所に行って届けが出てなかったら刃物持って刺しに行くわ」

「ナヌ?」

「私は本当に刺すって、あの人知ってるはずだから大丈夫」


翌日には、ちゃんと離婚が受理されていたことを彼に伝えた。


同棲をしてしばらくした頃、彼が女の子から相談されたといって、遅くに帰ってきた。

内容は、彼がキャバクラで働いていることをヤキモチ焼くといった話だった。

「私だってヤキモチ焼くよ。今回の2人だけで話をしてたってのも本当は嫌だもん」

「ごめんな。これからちゃんと連絡するようにするよ」

「知ってる?私マナブくんの連絡先知らないの?」

「ウソ?」

「私の教えた時、何て言ったか覚えてる?」

「教えたくなったら連絡してって」

「教えたくないから今まで連絡してこなかったんでしょ?」

「2回目逢ったときに付き合って、その次の日から一緒に住んでたから、うっかりしてたよ」

「ウソ」

「ホント」

「じゃキスして」

「いいよ」

「愛してる?」

「愛してるよ」

子供みたいな会話だった。


男と女は、それぞれ異性に対して、ヤキモチを焼く。

本当に愛されている異性からのヤキモチというのは、心地が良い。

そう思ったのは、彼が初めてだ。

私も彼には、初めてヤキモチを焼いた。


彼が浮気されたと想像すると、気がおかしくなりそうになる。

これが女が持ってるヒステリックな部分なのだろうか。

何分、こういう気持ちになったことがなかったので、私は素人だった。


しかし彼の仕事中の顔とプライベートの顔には、ギャップがかなりある。

仕事中は、近寄り難いくらいのオーラが出ている。

帰宅すると表情が一変し、言葉尻も柔らかくなる。

女はこのギャップにクラっと来る生き物なのだ。


彼をこれほど愛しいのかと思う気持ちに気付いた。

極力、他人との接触を避けてきた私。

他人が嫌いだった訳じゃない。

裏切られるのに疲れただけ。

でも彼は、ノックもしないで私の気持ちに入ってきた。

愛情というものを持って入ってきた彼。


もう彼と離れることはない。


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