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ユイ7

キャバクラで働いていた私は、私なりにうまくいっていると思っていた。


収入も想像以上にあり、母に親孝行も出来た。

孤独感こそ取り除かれていなかったが、居場所を見付けた。

独り暮らしも始め、精神的にも安定していた。



オガタから連絡が来ていた。

相変わらず、折り返すことはしていなかった。

私に心のゆとりが出来た訳ではないが、心配になって連絡を取ってみた。


「ユイ、何してんの?」

「おお!久しぶりだね」

「ちゃんと仕事してんの?」

「あ、いや…」

「家賃や光熱費は、ちゃんと払ってるの?」

「パチンコで大勝したときに払ってる」

「借金は?」

「200万ほどあるよ…」

「前よりひどくなってるじゃない!」

「ごめん…」

「もうダメだね。別れてよ」

「もうちょっと待ってくれ!必ずちゃんとするから」

「私に好きな人が出来たらどうするの?それに反対出来るの?」

「いや…」

「本当に好きな人が出来たら別れて」

「分かった…」

「それまでにちゃんと真面目になってたら、また話は別だから…」

「ああ」


少しは変化に期待していた。

行き着く道中はどうあれ、私が結婚を決意した男だ。

このままで終わるのかと思うと、自己嫌悪になる。

私がダメにしてしまったのか、私に見る目が無いのか。


私が付き合う男は、みんなダメになる。

束縛が激しくなったり、私の浮気を心配したり。

私と付き合ってると重荷に感じるのだろうか。

全てを受け止めてくれて、愛情表現をいつもしてくれる男は居ないだろうか。

こんなことを考えていると女で居ることを忘れる。

男なんてどうでもいい。


私の名前は、この周辺では有名になっていた。

「まさかユイがねえ…」

ユミさんは感心していた。

「だってユミさんとユカさんに勝てる訳無いじゃないですか」

「だからって駅の反対側に居たなんて思わないよ」

「あはは」

「でもユイ、ちょっと元気になったね」

「やっぱ、ユミさんとユカさんのおかげかな」

直接はアドバイスをしてもらってはないが、存在自体が私を導いてくれる。


「旦那とは別れたの?」

「まだです」

「別れてくれないの?」

「ですね」

「ユイ相手じゃ、しがみつきたい気持ちも分かる」

「そんな良い女にまだなってませんよ」

「3人で良い女になろうよ」

その日は朝まで3人で飲んだ。


店で働き出してから、1年が経ち、1周年記念イベントをやるという。


その頃、女の子の間で中心となっている話題に耳を傾けた。

「ねえ、この頃みんなが話してる人って誰なの?」

「あ、ユイさん。若手なのにやり手の男前のボーイが、駅の向こうに居るんですよ」

「ユイちゃん、スカウトで声掛けられたことない?」

「うん、駅の反対側は通らないから」

「結構、その3人は人気あるよ」

「そうなんだ」


水商売のボーイなんて、見た目だけで中身は無いだろう。

うちの店のスタッフも仕事が出来る男なんて居ない。

ただ頼まれたものを持ってくる、ウェイターのようなものだ。


しばらくして、噂の3人組がやってきたのだった。

「いらっしゃいませ!3名様です」

「ユイちゃん、例の3人組が来るって…あれ?」

「ユイさんなら、指名入って接客に行きましたよ」

「残念」


『噂の3人組』は、私を含めた人気どころの3人を指名していた。

指名を掛け持っていた私は、30分ほど経ってから席に着いた。

「はじめましてユイで…す」

握手した手がビクっとした。

仲間から支配人やマナブと呼ばれる男と挨拶したとき、ドキドキした。

赤面しているのがバレているのではないかと思うと恥ずかしかった。


どれくらい経っただろうか。

私はキムラ、コダマと呼ばれる人とは少し話せた。

しかしマナブとは、話すどころか顔も見れなかった。


「ユイちゃんていくつ…」

「支配人、時間ですが延長されますか?」

彼から話し掛けられたとき、ボーイに遮られた感じになった。

「マナブ!次行こうぜ」

「でもってここは上司だから支配人のおごり〜」

「だってさ。チェックしてくれる?」


このままだともう逢えないかもしれない。

私は初めてかもしれない、勇気を振り絞って彼に声を掛けた。

「何も話せなくてごめんなさい。呼ばれちゃったから行きますね」

私は名刺の裏にポケベルの番号と自宅の番号を書いて渡した。

「マナブくんの番号は教えたくなったらそこに連絡してきてね」

「分かったよ」

客にポケットベルの番号は教える。

折り返ししなければ、無視できるからだ。

私は自宅の番号まで教えてしまった。


「ユイちゃん、どうしちゃったの?初めて見たよ?自宅の番号教えてるとこ」

「分かんない。ドキドキしちゃった」

「そんな可愛いところあったっけ?」

「茶化さないでよ。でもどうしちゃったんだろう私…」


帰宅しても彼のことを思い出していた。

じっとしていられなくなり、ユミさんに連絡を取った。

「お疲れ様です」

「お疲れ様。どした?」

「ユミさんの店の支配人ってマナブって人?」

「そうだよ?何で知ってんの?」

「今日、キムラさんとコダマさんという人と3人で店に来ました」

「そうなんだ」

「指名してもらったんだけど、掛け持ってたから何も話せなくて…」

「マナブってのは私とユカが1番可愛がってる子だよ」

「へえ」

「あの子は将来、すごい男になるよ」

「ユミさんにそう言わせるのって大変なことですよね」

「キムもコマもいい瞳してるけど、マナブは別格だよ」

「お礼言っておいてください」

「連絡先、交換しなかったの?」

「キムラさんとコダマさんは、指名した女の子と交換してましたけど…」

「マナブは連絡先教えてくれなかったんだ?」

「ですね。だから私のを教えました」

「あの子ね、女関係でゴタゴタがあったから今は仕事一本だよ」

「キムラさんとコダマさんが、だから飲みに連れてきたって言ってた」

「あはは。あいつららしいよ」

「そういえば私、水商売引退するから、最後の日でも遊びにおいでよ」

「ぜひ!」


ユミさんに逢いに行くのがメインだが、彼に逢えると思うと胸が弾んだ。

私は寝ても覚めても、彼のことが頭から離れなかった。


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