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ユイ5

予想はしていたが、結果が出たとなると急に自己嫌悪になる。

オガタが私に対して、求婚してきている状態での妊娠。

母はオガタのことを信じてみればとアドバイスをしてくれた。


超人気ロックバンドのボーカルと関係を持ったからと浮かれていた訳でもない。

ただただ、流れに身を任せていた結果がこれだった。


圭介に連絡を取るも、リアクションは想像通りだった。


翌日、堕胎費用として50万が入った、現金書留が送られてきた。


産婦人科で堕胎手術を受けるのに、保証人となる人のサインをもらってくれと言われた。

「あなたは未成年だから、成人の同意がなければいけません」


途方に暮れそうになった。

どこの誰がこんなバカな行動をした女の保証人になってくれるのか。


メグミが心配して、家に来てくれた。

「そっか。でもユイどうするの?」

「もうどうしていいか、分かんないよ」

「でも圭介って最低だね」

「こんなもんでしょ。対応の手際が良過ぎるよ。慣れっこって感じしたもん」

「成人の保証人か…」

「メグ、ありがと。ちょっと探してみるよ」


探しようにもオガタ以外に居る訳がなかった。

しかしオガタには言えない。

こんなことをしているうちに、時間だけが経過してしまうのだけは避けたかった。

ニュースで目にする、新生児の置き去りはこうして起こるのかと想像した。


「ユミさん、相談があるんですけど?」

「今日、休みだからうちに居るよ。来る?」

「はい」


私はユミさんのマンションを聞き、尋ねることにした。


「相手に話せないの?」

「たぶん、無理だと思います」

「私がその彼に言ってあげようか?」

「それはちょっと…」

「アンタね、女がそうだから男がつけあがるのよ?」

「次からは、無いようにします…」

「ちょっと待って」


ユミさんは誰かのポケットベルを打っているようだった。

しばらくすると電話が鳴った。


「私の彼がサインしてくれるって」

「すいません」

「いくらユイでも、こういうのは、これっきりだよ?」

「はい」

このサインをしてくれた人は、ユミさんやユカさんが働いているキャバクラの社長だった。

私はこの社長に将来、違う形で出逢うことになる。


中絶手術を受けた後、私は1人病室のベッドに横になっていた。

私は何をしてるんだろう。

たった1人の家族である、お母さんに心配を掛けてばかり。

高校も途中で辞めてしまった。

熱中できるものを見つけたと思った挙句、果ては17歳で妊娠、中絶。


今まで何かと寂しさと孤独感のせいにしてきた。

でも今は、自分が情けないと思った。


私は考えた。

オガタにこの事実を話し、それでも受け入れてくれるようならオガタに尽くそうと。

それが叶わぬことであれば、致し方ないと諦めようと思った。


この産婦人科には退院後、何度か子宮内の洗浄等で通院した。

最後の通院が終わったとき、オガタから連絡が入った。


「ユイ、話がある。今晩、時間取れるかい?」

「いいよ」

「19時には、そっちに行けると思う」

「車で来る?」

「もちろん」

「じゃ時間になったら下で待ってるよ」

「ん?分かった」


19時を数分回った頃、オガタがやって来た。

「久しぶり!」

「久しぶりだね。少し痩せた?」

「いや、日に焼けたからそう見えるのかな?」

私はオガタの車に乗った。

「ちょっと走ろうよ」

「ああ、いいよ」


湾岸線で千葉方面へと車を走らせた。

「もうそろそろ完成みたいだな」

「船橋のスキードーム?」

「ちょっと見に行ってみるか」

「うん」


少し離れた位置からでも、異様な形をした建造物が見えた。

「すごい大きいな」

その建造物の近くにある、大きな駐車場に泊まった。


「仕事は何してるの?」

「あれからすぐ、トラックの運転手やりだしてさ」

「うん」

「やっと慣れてきたところだよ」

オガタは4トントラックに乗っているとのことだった。

近場の配達や長距離の配達をしており、給料も35万ほど稼いでいるという話だった。


「私もね、話があるの」

「どうした?」

メグミとファイのコンサートに行くようになった話をした。

「ファイ!俺も大ファンだよ」

オガタは目を輝かせた。

「今年の4月には解散しちゃうね」

「俺なんか海賊版のライブテープとか持ってるよ」

「でね、ファンミーティングに行ったの」

「あれって抽選だよね?」

「私とメグミも当選した」

「メグミか。懐かしい名前だな」


次に私が発したセリフに、オガタの表情は一変する。

「ファンミーティングの後、私とメグがメンバーに誘われてバーに行ったの」

「まさか…」

「ごめんなさい…妊娠されられた」

オガタは絶句した。


「結果的には、中絶したの。その費用と慰謝料は出してもらった」

「そう…」

「隠したままは嫌だったから、どうしても話そうと思って」

オガタは下をうつむいたまま、言葉を失っていた。


「こんな私で良かったら、プロポーズを受けさせて欲しい」

オガタは微動だにしない。

「もちろん、フラれてもしょうがないから、断ってくれてもいいの」


「いや…よく話してくれた」

「え?」

「今までのユイから成長が見えたよ」

私はオガタの言葉に何も言えなかった。


「どうして話そうと思ったの?」

「あなたを信じてみようと思ったの」

教員という仕事を捨てて、すぐに仕事を始めようとしたこと。

それはもちろん、私とのことが噂になったことで今後のことを考えたのだろう。

そしてその仕事が安定するのを待って、私を迎えに来ると言ったこと。

それを信じて待とうと思ったことを告げた。


「そうだったのか」

「でも信じることが不安になったから、このようなことになったか分からない」

言葉通り、私にも分からなかった。


「話して、受け入れてくれるなら、尽くそうと思ったの」

「少し見ない間に大人になったんだな」

「本当にごめんなさい」

オガタは私の謝罪に何度も頷いた。

するとオガタは、指輪を渡してくれた。


「正直、このことについては驚いたが、気持ちは変わらない」

「ありがとう。これからよろしくお願いします」


その後、私達は帰宅して、母に報告した。


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