ユイ49
いよいよハイエナジーのレセプション当日となった。
彼を含むスタッフは、早い時間から店に出勤していった。
夕方になって、マコちゃんとリナちゃんが迎えに来てくれた。
「おはよう」
「おはよ」
「ユイちゃん、いよいよだね」
「そうだね」
「アタシ緊張する…」
「リナっぽくないからやめて!伝染っちゃうから」
「あはは…」
「リナちゃん、ガチガチだね」
店に着くとキャストと思われる、数人の女の子が居た。
「ユイさん、おはようございます」
「おはよう、シズカちゃん」
「緊張しますね」
「私とマコちゃんは大丈夫だけど、リナちゃんがね…」
「あはは。リナさん、挙動不審ですよ?」
「オハヨ…シズカチャン」
「リナ、ロボットみたいだって」
リナちゃんは、ボスをボーイ時代から知っている。
僅か数年後に自分の店を持つことになった。
オープンを感慨深く捉え、併せて緊張しているとのことだった。
「私、ヘアメイクがあるので更衣室に行きますね」
「いってらっしゃい」
「ユイさん、おはようございます!」
「イシハラくん、おはよう」
「ちょっといいですか。マコとリナもちょっといいか?」
「はいはい」
「あいよ」
イシハラくんとコマツくんが私達3人をVIPルームへと呼んだ。
「キャスト全員に店のコンセプトやビジョンは叩き込んであります」
「うん」
「ボスイズムね」
「それ以外でのフォローをして頂ければと」
「ボスからも言われてる。大丈夫よ」
「派閥を作ろうとする人間が居たら、すぐに教えてください。こちらで対応します」
「私達3人もあまり固まり過ぎないようにするよ」
「はい、お願いします」
「キャストは何人くらい出勤するの?」
「出勤率の良い順番で45です。今日は顔見せなんで多めです」
「すごい数だね」
「ほとんどが素人です」
「あはは。プロは私達くらいか」
その間、店内にはたくさんの花が届いていた。
店長にイシハラくん。
以下、コマツ主任、スタッフメンバーにオオハシくん、ハラダくん、オオシマくん。
その他、アルバイト2名にキッチン専門に1人。
スタッフはボスを含め、8人体制でレセプションを迎えるとのことだった。
「ボス、おめでとう!」
聞き覚えのある、ガラガラ声だ。
「大将、ありがとう!」
「悪いんだけどさ、こっちも営業だから顔出せないのよ。だからこれだけ」
「大将すいませんね。ありがたく頂きます」
酒乃蔵のマスターが祝儀袋を持って、顔を出してくれた。
その後、絶え間なく届けられる生花や花輪。
「ボス!花輪の置くところがありません」
「兄ちゃん!俺の店の前も置いていいぞ。出入り口だけ開けとけばいいから」
「大将、それは申し訳ないよ」
「いいんだよ。1週間くらいしか出さないんだろ?近所なんだから、気なんか使うなって」
「お言葉に甘えます」
「大将がそういうならうちの前にも置かせないとね」
「ぶてぃっくん!」
「昼間のうちはさすがにどけてもらうようになるけど、夜のうちはいいよ」
「ありがとう。イシハラ」
「はい」
「そういうことだ。置かせてもらおう」
「あざっす!」
シズカちゃんから遅れること20分。
お母さんもやってきた。
「ユイさん、開店おめでとう。ボスは?」
「お母さん、ありがとう。ボスはあっち」
「ボス、おめでとうございます。これは少ないんですけど、お祝いでして」
「お母さんいいのに。…すいません、頂きます」
「それではヘアメイクのスタンバイをしてしまいますので」
「今日は何人くらい予約入ってるの?」
「いきなり20人以上入ってますよ。恐縮です。ありがとうございます」
「今日はレセプションでわざと出勤も多めにしてあるからね。時間は間に合うの?」
「ギリギリですね」
シズカちゃんとお母さんは一気に4人をセットしていた。
私のヘアメイクをしてくれたときも、素早く仕上げてくれた。
さすがプロの技だと感心した。
スタッフが店内のスタンバイを終える頃、キャストが続々と出勤してきた。
このような店には、個性豊かで自己主張の強い女の子が集まる。
キャストはイシハラくんを中心に纏まっているとは言うが。
それらを纏めるのは、容易ではないはずだ。
私やマコちゃん、リナちゃんでも纏めなくてはいけない。
またキャストがエレベーターを降りてきたとき、他のキャストがざわめいた。
「おはようございまーす」
ルミちゃんとヨウコちゃんだった。
雑誌のモデルやタレント活動をしており、何人か知っていた。
私服のセンスやスタイルは抜群。
みんながどよめくのも分かる気がする。
「ユイさん、おはようございます!」
なぜかこの2人は、私になついていた。
私と彼女達の身長差は、20センチくらい。
なつくのはいいが、並ばれるといい気がしなかった。
「おはよ。2人ともスタイルが良くてカッコいいね」
「美人レベルはユイさんに負けますよ」
「とりあえず、見上げるの疲れるから座ろうよ」
「あはは。そうですね」
私達は、ソファに座って談笑していた。
「ねえ…2人ってたまに雑誌とかに出たりしてない?」
「あんまり仕事ないんだけどね」
「見たことあるよ!」
「ありがと。また何かに出るとき教えるから見てね」
2人の気さくで飾らない性格が、他のキャストとの距離を縮めた。
予約をした全てのキャストのヘアメイクが終わった。
「おはようございます!」
「おはようございます」
イシハラくんが取り仕切る朝礼が始まった。
「いよいよハイエナジー店のグランドオープンの日となりました。みんなで協力し合って、
今日の日を迎えることが出来てスタッフ一同、本当に感謝しております」
簡単な業務連絡が終わると、私とマコちゃんが紹介された。
「こちらユイさんです。フロアマネージャーをお願いしてあります。それから隣のマコさん
はフロアリーダー。このお2人に分からないことがあったら聞くようにしてください」
「みなさん、力を合わせて頑張りましょう。よろしくお願いします」
私が代表して、簡単な挨拶をした。
「それではボス、お願いします」
さすがに一国の主となった彼は、緊張しているように見えた。