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ユイ48

イシハラくん達が企画してくれたサプライズ披露宴。

彼にバレることもなく、無事に成功した。


感動的なプロポーズを受け、婚姻届を出した。

披露宴やパーティをし、みんなに妻として紹介された。

それもまたマイカワマナブの妻として意識させられた。


彼のマンションの固定電話。

『マイカワです』と電話に出ると、私は赤面した。

嬉しくもあり、照れもあり、1人顔を赤らめた。

郵便物等の受取りで配達員に『奥さん』と呼ばれるのも嬉しかった。


「お母さん!」

「はいはい。いつもアンタが帰ってくるときは唐突だね」

パーティの写真が出来上がり、母に見せる為、帰宅していた

「この前ね、オープン前の店でパーティしたの」

「開店前のやつね」

「ううん。彼の従業員が内緒で企画してくれたの」

母に披露宴パーティの経緯を話した。

「彼はずいぶん良い仲間に囲まれてるのね」

「違うわよ。彼の下についてから、みんな真面目になったの」

「そうなの?」

「私もそうでしょ?」

「そうね」

「彼は、今の仕事に出逢ってから変わったみたい」

「それまではヤンチャ坊主だったの?」

「かなりね。でも今は『男は仕事だろ』って感じになってる」

「ストイックなまでの仕事への情熱が見えるわね」

「お母さんもそう感じた?」

「仕事には厳しいような感じがしたわ」

「それより、写真持ってきたよ」

引き伸ばして額に入れた、ツーショット写真。

彼はタキシード、もちろん私はウェディングドレス姿だ。

パーティ内でのスナップを数十枚と集合写真を渡した。


「アンタ、良い顔してるじゃない。こういう表情が出せるようになったんだね」

「旦那に愛されてるからね」

「ユイは?」

「もちろん愛してるよ」

「お母さんは、出戻りさえしなきゃいいわよ」

「前回と今回は、全く別物」

「ユイの顔見てれば分かるけどね。写真は飾るようにしとくよ」

「旦那はね、親を呼ばなくていいのかって話してたの」

「彼の方は?」

「来てないよ。仲間内のパーティにしようって企画した人が提案したの」

「ちゃんと気を回してくれてたのね」

「あくまで彼をビックリさせようって企画だったから」

「はいはい。分かってますよ」

その日がチャンスだったのだ。

実家に帰ってきており、病院からの通知に気が着くチャンス。

私は披露宴のことで、体調のことなんて思っていなかった。

もちろん体調はすこぶる良かったからだ。


20時頃になって、店の方へと戻った。

「ただいま。あれ、みんなは?」

「上ったよ」

「仕事残ってんの?」

「今、終わったとこだよ。腹は?」

「お腹空いた。どっか行く?」

「蔵でも行くか」

「そうだね。店内の電気とか消してくる」

「ああ。こっちも締めちゃうよ」


久しぶりに2人でご飯に行った。

いつも彼の取り巻きが居るからだ。

「ボス、いらっしゃい!今日は?」

「女房と2人。カウンターでいいや」

「暇だから奥の座敷使っていいよ」

「ありがと」

「はい、座敷に2名様!」

酒乃蔵のマスターがお勧めの肴を数品持ってきてくれた。


「ユイ」

「ん?」

「フロアのことは頼んだぞ」

「マコちゃんもリナちゃんも居るから大丈夫だよ」

「特にユイってのは、オーナーの女だって目線で見られるからさ」

「分かってるよ。何事も見本になるようにするよ」

「俺がプライベートでフォローするから」

「頑張っちゃおうっと」

「マコとリナも態度次第では、辞めてもらうかもしれんからな」

「厳しいね」

「マコは自覚があるだろう。リナは気分屋なところがあるからな」

「そうだね」

「あと会社組織としては専務にするけど、何もしなくていいから」

「うん」

「俺らも詳しいこと分かんないから、コマツにやらせるよ」

「元銀行マンだっけ。コマツくんが居て助かったね」

「まさに適材適所だ」

「いろいろ大変だとは思うけど、頑張ってくれ」

「うん、分かった!」

「辞めたくなったら早めに言ってな」

「妊娠したら辞める」

「そっか。早く出来るといいな」

私が子供を欲しがっていることは知っている。

彼もそれを望んでいてくれている。

本当はもう少し、2人っきりの時間も欲しい。

しかし私が彼の子供を産むことは夢なのだ。


「ちょっと明日、出掛けて来るね」

「あいよ」

「朝、出掛けて昼には戻るから」

「こっちは大丈夫だ。時間は焦らなくていいから」

「うん、ありがと」


翌日、1人出掛けたのは、水子の供養に出掛ける為だった。

彼との子作りは、幾度と無く行っていた。

だが今のところ、子宝に恵まれていない。

ネガティブな私が思いついたのは、中絶のせいではないのかと。

もうかなりの年月が経っているが、供養はしていなかった。


以前、ユミさんやユカさんに聞いたことがあった。

赤坂に水子供養が有名なところがあると。

供養の方法などは、全く分からなかった。

私は、現地に着くと水子地蔵を水で洗った。

そして今後、生まれてくるであろう子供の無事を祈った。

『あのときはごめんなさい』

『供養するのが遅くなってごめんなさい』

『あなたの分まで、愛情を込めて注ぐから許してね』

念じるように私は謝罪した。

当時の私は、中絶するしかなかった。

母となるはずだった、私に抱かれることもなかった。

もちろん父からの慈愛に触れることもない。

遺骨の遺品も無ければ、名前すら無いのだ。


もう2度と同じ過ちを犯さないよう供養した。


自由が丘への道中。

これで気分が晴れた訳ではない。

勝手な判断だが、謝れたことにほっとした。

事実を放置せず、祈りを捧げられたことで前向きになろうと思えた。


その夜、帰宅してから彼にこの事実を話した。

隠している、嘘をついている相手が彼だというのが嫌だった。

彼はよくぞ話したと優しく抱いてくれた。

私は涙が止まらなかった。

亡くしてしまった命のこと。

受け入れてくれた彼の優しさに涙が止まらなかった。

『若気の至り』では、済まされないことは多々ある。

「ユイ、もう泣かなくていいんだよ」

「うん…」

「その子の為にもこれからが大事だ」


これからは、彼と生きていく。

そして生まれてくるであろう子供と一緒に。

それが私の夢。

ずっと3人で手を繋いで歩いて行きたい。

ずっと…。


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