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ユイ44

店に戻るとエレベーターホールで、みんなと偶然合流した。


「お疲れ。マコ、万事オッケーか?」

「もちろん!」

「じゃすっ呆けて店に戻るか」

「自然に振舞わないとね」

「ちょっと待てよ…ユイさん達は時間ずらしてもらえませんか?」

「うん?いいよ」

「相手は難攻不落のボスっす。念には念を」

「そうだね。って言うか私だけずれるよ。マコちゃん達はイシハラくんと」

「らじゃ」

「じゃ私も時間をずらします」

「コマツさん、そっちのがいいね」

「分かりました」

私は時間つぶしの為、自由が丘の商店街へと向かった。


この辺りは、古い町並みと新しいビル郡が同居している。

古き良き下町を感じさせる情景だ。

彼がこの街を選んだ特別な理由はない。

景観がどうだとか、町並みがどうだとかはないはずだ。

確かに商戦的には、いろいろな情報を集めたかもしれない。

私は独り、ウィンドウショッピングではなく商店街の町並みを楽しんだ。


商店街の端から端を歩いた。

もうそろそろいい時間だろう。

彼の携帯に連絡を入れた。

「ユイ!もう店閉めちゃった?」

「おお!どこ居る?まだ何人か残ってるけどもう閉めるってよ。蔵に居るぞ」

「分かった!」


彼との電話の後、すぐにマコちゃんから連絡があった。

「蔵に居るって」

「何か言われた?」

「ううん」

「問題は今晩、ユイちゃんが帰宅してからだね」

「大丈夫。彼は私のこと信じてるから」

「おおお、カッコ良いセリフだわ」


私達がちょうど酒乃蔵に着くと、コマツくんもやって来た。

「すいません、遅くなっちゃって」

「こんな時間までやらなきゃいけない仕事があんの?忙しいのか?」

「スタッフのみんなに仕事の説明をしてました」

「マコやリナも?」

「そうですよ?」

「ふーん」

彼は腑に落ちない表情を見せた。

私達の微妙な変化を察知しているのだろう。

観察力の鋭い、彼ならではの読みだ。

「おつかれさま、ダーリン」

「どこ行ってた?」

「仕事に決まってるでしょ」

鋭い彼は、何かに気が着いている。

嘘や隠し事をすることに少し後ろめたさがあった。


帰宅後は、私の方が意識してしまっていたかもしれない。

「ユイ」

「ん?」

「何かあったか?」

「何かって?」

「様子がいつもと違うだろ?」

「ユイが?」

「そう。俺が思うにみんなで何か企んでるように見えたぞ?」

「みんなで?気にし過ぎじゃない?」

「そっか」

彼がそれ以降、問い詰めてくることはなかった。


翌日、昼頃に店に集合した。

「じゃボス、俺達は残りの招待状を渡しに行って来ますね」

「おう」

「私は許可関連を回ってきます」

「おう」

「私達は制服のチェックをしに行って来るね」

「ぶてぃっくんのところ?」

「うん。系列店の原宿だって言ってたよ」

「分かった」

「ボス、ぶてぃっくんが店に来て欲しいと連絡がありました」

「ユイ達と一緒の話じゃないの?」

「はい。修正は原宿の店の方みたいです」

「分かった。1階でいいんだな」


それぞれが仕事と称して、店を出て行った。

正確に言うと出て行くフリをした。

彼はうまく誘導され、ぶてぃっくんの店に向かった。


「おし!急いで準備に取り掛かっぞ!」

「うっす!」

「じゃ私達はユイちゃん連れて行くね」

「マコ、頼んだぞ」

「あいよ」

「イシハラさん、1人手伝ってください」

「あ、いいよ」

「オードブル、寿司がたくさんあるんですよ」

「ハラダ!コマツさんとこ手伝え」

「うっす」

イシハラくんの号令の下、一斉に支度に取り掛かった。


私達はシズカちゃんの美容院へ向かった。

わざわざ店休日にシズカちゃんが出てきてくれていた。

「おはよう。シズカちゃんよろしくね」

「おはようございます。もう段取りは出来ていますよ」

「時間無いからお願いね」

さすがプロの手付きだ。

シズカちゃんは手際良くヘアメイクをしていく。

イシハラくんの予想で、タイムリミットは2時間半から3時間。

それ以上、ぶてぃっくんが彼を連れ回せる訳がないと判断していた。


イシハラくんが描いた作戦はこうだ。

ぶてぃっくんがわざわざ、少し離れたところまでご飯を誘う。

ここでぶてぃっくんが、彼を少し酔わせる必要がある。

しばらく飲み食いをしてから、自由が丘に戻る。

ここからが問題だ。

彼にタキシードを着せなくてはいけない。

ぶてぃっくんの店で難癖付けて、タキシードを着せる。

その時点でぶてっぃっくんから、イシハラくんへ連絡が入る。

そこへイシハラくんが彼にトラブルの連絡を入れるという段取りだ。

この間に出席してくれるみんなを案内し、店内の準備を整える。


「こんな感じでいかがですか?」

「良いね」

「ユイちゃんキレイだよ」

「ヘアメイクの腕が良いからでしょ」

「いやいや…」

マコちゃんとリナちゃんが驚いていた。

「ユイさん、素敵ですよ」

「ありがとう、シズカちゃん」

「ユイさん、お時間がありません。私も店へ向かいます」


美容院を跡にした私達は、貸衣装屋へと向かった。

「お待ちしてました。こちらへどうぞ」

ここでもすでに私を待ち構えていた。

店内に入ると、係りの人が2人でドレスを着させてくれた。


「おおお!」

「ユイちゃん、すごいキレイだよ」

ヘアメイクをバッチリ決めて、ウェイディングドレスを着た。

鏡に映るその姿を見た私は、自然と涙がこぼれた。

「ユイちゃん…」

「あはは、ごめんね。今から泣いちゃったらしょうがないよね」

私の涙にマコちゃんとリナちゃんがもらい泣きしていた。

「さあ時間が無いから急ごう」


マコちゃんの運転する車は、急いで自由が丘に向かっていた。

駅の近所まで来ると渋滞に巻き込まれてしまった。

「嫌だ…急いでるのに」

「マコ、時間は?」

「今まですんなり来たから、少しは余裕あるけど」

「ボスがどういう動きするか分かんないからね」

その後10分を経過しても、数メートルしか前に進まなかった。

「作戦が失敗したら困る」

「ユイちゃん…走ろう!」

「えええ!この格好で?」

リナちゃんに手を引っ張られると車から降ろされた。


「ユイちゃん、スカート持って。行くよ!」

白昼にウェディングドレスを着て、自由が丘の駅前を走った。

「あはは!ユイちゃん、ドラマみたいだね」

「笑いごとじゃないよ。すごい恥ずかしい」

幸せと続く道を走っているような気分だった。


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