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ユイ42

迅速な判断と陣頭指揮で、店名騒ぎは一件落着となった。


夕方になった頃、コマツくんから連絡があり、全ての変更手続きをしたとのことだった。

「もしもし…分かりました」

彼に掛かってきた電話は手短に終わっていた。

「イシハラ、ソメヤさん迎えに行ってくれよ。覚えてるだろ?」

「はーい!」

すぐにイシハラくんは、ソメヤさんを伴ってに戻ってきた。

「マイカワさん!ご無沙汰です。立派な店じゃないですか」

「ありがとうございます。いろんなお店の良いトコ取りですけどね」

「素晴らしい!さすがですよ」

「どうぞこちらへ」

彼が店内へと案内しようとしたとき、私と目が合った。

「あれ?どっかで逢いましたっけ?」

「いえ」

「ソメヤさん、どしたの?」

「彼女は、店の?」

「女房ですよ」

「そうですか。ナイレポのソメヤと…ああ!」

「はい?」

「六本木のユイちゃん?」

「ユイです。マイカワがお世話になっております」

「うちの表紙出たよね?」

「はい」

「マイカワさんの奥さんでしたか…ビックカップルですな」

カップルとは何時の時代の言葉だろうか。

ここは、営業スマイルで切り抜けることに成功した。


「マイカワさん、写真いいですかね?」

「構いませんけど?」

「ユイちゃんもいいですか?取材の帰りで、一緒にカメラマンも来てるんですよ」

「いいですよ。彼女達もいいですか?」

私は、マコちゃんとリナちゃんも呼んだ。

「いいですよ。フィルムとか買出しに行かせてたんで、今呼びますね」


カメラマンが来ると、いきなりソメヤさんの取材が始まった。

「今回、お店作りのコンセプトはなんですか?」

矢継ぎ早にいくつもの質問を彼に投げ掛ける。

「オーナーは18歳ということですが、迷いはありませんでしたか?」

それらの質問に臆することも無く、自信を持って答える彼もすごい。


「最後に何かアピールは?」

「当店では一切、宣伝活動は致しません。ご来店頂いて当店の営業を感じてください」

「ありがとうございました」

一線級の2人のやり取りが終わると、やっと周囲の人間も大きく息が吸えた。


「キングと比べるのも何ですが、今回のキャストはかなり自信を持ってます」

「ほう。相変わらず強きですね」

「同業のお店が駅の反対側に多いのに対し、こちら側で出店するのも自信の表れと取って

 頂いて構いませんよ」

「マイカワさんの強きは裏付けがありますからね。期待してますよ」

「十二分に!」

「また校正を持ってきますので、目を通してください」

「分かりました」

数日後には、ソメヤさんは校正をFAXで送るという話で店を跡にした。


帰宅すると、彼はすぐに床に就いた。

やはり、疲れが溜まっているのだろう。

彼を起こさないように、私も寝る準備をした。


携帯のランプが光っていることに気がついた。

「不在着信…お母さんからだ」

留守電が入っていた。

『病院の検査結果が届いてたわよ。気が向いたら取りにきなさい』

母が気が向いたらと言っていた。

気が向いたら、その内取りに行くことにしよう。


「ボス、今日辺りスタッフの面接いいですか?」

「おお、悪い。忘れてたな。呼んでくれよ」

ここ数日、何度もイシハラくんからそのセリフを聞いていた。

ずっと近くで待たせてあるようなことを聞いた。


しばらくするとイシハラくんの後輩達がやってきた。

「ボス。右からオオシマ、ハラダ、オオハシです」

「よろしくお願いします!」

「よろしくな。身分証明書のコピーと履歴書書いてもらってくれ」

「はい」

「俺から事務的なこととボスの性格を話しておきました」

「俺の性格?」

「サディスティックで怖くて、一生着いていきたい親方だって」

「お前、極端なところしか話してねえじゃねえか」

「イシハラさんがキングに入社してから、ずっとボスのことをお伺いしてましたので、心の

 準備は出来てます」

「何だ?心の準備って」


「お前ら!もう1人重要なお方を紹介するのを忘れてた」

「忘れるくらいの人なんすか?」

「バカ野郎!黙って聞け。こちらにいらっしゃるのがユイさんだ」

「みんなよろしくね」

「よろしくお願いします!」

「みんな若そうだね。いくつなの?」

「18っす!」

イシハラくんは、いきなり後輩の頭を叩いた。

「18ですだろうが!」

「あはは!イシハラくんの言葉遣いと、そんな差はないよ?」

「そうっすか?違いますよ」


「何だ、お前ら18か?」

「はい。ボスと同い年のはずです。イシハラさんから聞いていましたから」

「イシハラはいくつになったんだ?」

「俺、20っすよ」

「コマツは?」

「私は24です」

「ふーん」

彼の得意技、『振り逃げ』だ。

最初は、興味をそそられて話に入ってくる。

イシハラくんに聞いた時点で、もうたくさんだと思ったはず。

コマツくんに聞いたときは、完全に『ついで』だ。


「よし!今日はこれで締めて蔵でも行くか」

「うっす!」

「頂きます!」

こういうときのイシハラくんの仕事は、目を見張るくらい早い。

いや、早くなったと言うべきだろう。

これも彼の教えなのだ。


「社長、いらっしゃい。良い芋焼酎が入ってるよ」

「大将、奥の座敷いい?」

「あいよ!お座敷用意して!」

何も注文をしていないのに、ロックグラスと一升瓶を持って、マスターが来た。

「とりあえず、ロックで一杯飲んでみてよ」

「香りも良いね。芋ってこんなのもあるんだ?1本ちょうだい」

「あいよ!」

グラスが行き届くと、イシハラ隊長が仕切りだした。

「お前ら、ボスは酒癖悪いの嫌いなんだから緊張してろよ」

「ボス、頂きます!」

「ユイさんにも気を遣えよ」

「はい!」

「私は、ボスが居ればいいわよ」

「ユイにはいいよ。お前らは俺の若い衆であって、ユイのではないからな」

「ありがたいセリフだ!心しろ!」

「うっす!」

「イシハラくん…うるさいよ」

「ユイさん、やっぱ最初が肝心っすから」


しばらくすると当の本人でもある、イシハラくんが酔っ払いモードに入った。

「ボスは殿でユイさんが奥方。コマツさんが軍師で俺が幕僚だ!」

「イシハラさん、俺らは?」

「足軽だろ!」

「あはは」


イシハラくんの後輩達3人が加わったチームマイカワ。

これからがスタートだ。


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