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ユイ40

キムラくん、コダマくんが尋ねて来た夜。

私達は、酒乃蔵に来ていた。


シズカちゃん絡みでヤキモチを焼いた私だったが、表面に出なくて良かった。

全ては彼のイメージの中にあり、それらが結果となり、成果を挙げていたのだった。


「キムラさんやコダマさんは、ボスが籍入れたの聞いてます?」

「聞いたよ、電話でな。式とかはやらねえの?」

「今こんな状態だから、予定出来ないよ。ユイはやりたいの?」

「そりゃ、女の子から言わせるとやりたいけど、2回目だからね」

「ええ!ユイちゃんってバツイチなの?」

もちろんここに居る彼以外には、一切この手の話はしていない。

「俺も付き合った日に聞いたのよ。聞いた次の日には、離婚してたけどね」

「謎めいててカッコいいでしょ?」


昔の私なら、黙っていただろう。

もちろん彼に言うこともしなかったはず。

みんなの前でこのようにふざけるなんてことは絶対にしなかった。


彼に逢ってから、自分のウィークポイントをさらけ出すようにした。

それは彼が私に対して、正直にしてきた行動だからだ。

それまでは、親密な関係、助け合って愛情を深めるなんて思っていた。

敵心的に尽くすことだけで、私は十分なのだ。

多少の嫉妬はするが。


「マナブ、ちょっといいか?」

みんなが談笑する中、コダマくんが彼を店の外へ呼んだ。

続いて、キムラくんも外へと出て行ったのだった。

しばらくすると3人は戻ってきた。

彼達は、戻ると何事も無かったかのように飲んでいた。

「ねえ?雰囲気変わったけど何かあった?」

「隠してもしょうがないだろう。キング時代に世話になった社長が入院してるらしいんだ」

「え!そうなの?」

彼はみんなに聞かれないように耳打ちしてきた。

キャストである女の子が看護婦で、院内で社長を見掛けたという。

病気については、緘口令が出ている為、2人は確かめることは出来ない。

そこで今や部外者となった彼に、確認して欲しいとのことだった。


「それなら明日、行ってくれば?こっちは何とかしとくから」

「明日、許可関係で店内をチェックしに来るんだよ。それには俺が居なきゃいけない」

彼は今にでも飛んで行って、駆けつけたい気分だろう。


その夜、彼はしばらく寝付けないでいたようだった。

「起きて。検査官が店に来るんでしょ?」

「ああ…今起きる」

8時には、彼を店に連れて行かなくてはいけなかった。

彼の睡眠が少ないことは明らかだった。


店に到着したのは、8時を少し回った頃だった。

「よう!暴れん坊、元気か?」

「おはようございます!」

初めて逢う人だったが、彼の様子から『社長』であることはすぐに分かった。

「何だお前のそのシケた面は?どうせ噂でも聞きつけたんだろう?俺が病気なんかに負ける

 と思ってんのか?」

「いえ!思ってま…せん」

「何だ?」

「正直…心配はしますよ!俺の社長がです。社長が入院したって聞けばそりゃ…」

「例えばこれが不治の病だったとしても諦めんよ。お前が成功する日まではな」

「ありがとうございます」

「だからと言って急ぐなよ」

「適当にやって成功するのを日延ばししますんで」

「あはは。俺はお前やキムラ、コダマという希望を持って生きている。大丈夫だよ」

男同士というのは、本当に面白い。

自分は病気で入院しているのだ。

心配掛けまいとして、勇気付ける言葉を掛ける。

彼は涙ぐみ、それを見て社長は抱擁した。


「店、見せてくれよ」

しばらく2人は店内で話し合っていた。

内容は全て仕事の話で、社長が全項目に感心していたのが印象に残る。

社長は、彼の成長を親のように喜んでいるように見えた。


「こんにちわ。マイカワ社長いらっしゃいますか?」

「はい」

検査官達が来た。

「じゃ俺は帰るぞ」

「もう帰るんですか?」

「俺はこれでも病人なんだ。オープンの日が決まったら連絡をくれ」

「分かりました」

「今、抗がん剤を打っている。しばらくの間は入院だ。見舞いなんて気を使うなよ」

「どれくらいですか?期間は?」

「3日間くらいだと思うぞ。今頃は俺が居なくて病院は大騒ぎだろうな」

「抜け出してきたんですか?」

「ああ。いい歳こいて脱走だ」

「あはは」

「マイカワ、紹介しろよ」

「あ、はい。妻のユイです」

「いつもマイカワがお世話になっております」

「2人ともいい目をしているな。じゃあな」

社長は手を上げると、振り向かずにエレベーターに乗り込んだ。


「あの人は全然、諦めていなかったな」

「マナブくんのことが可愛くてしょうがないって感じに見えたよ」

その社長は元ユミさんの彼。

ファイのボーカル、圭介に妊娠させられたときに保証人になってくれた人だ。

まさかこんなところで逢うとは、思ってもいなかった。

社長はそのことを知らないのだろうか。

全くその素振りはしなかった。


まだ彼が入社したばかりの頃、部長にキレて追い掛け回したことがあったという。

結果的には、部長ではなく、酔っ払いを殴ったとのことだった。

彼達の前に社長が急に現れると、寿司屋に連れて行ってくれたという。

そこではただ飲んで食べてただけだった。

社長は仕事の事、俺の右手のケガの事、何も話しはしなかったし、聞きもしなかった。


店から出たときに言った社長の言葉が、彼は今でも忘れられないという。

『お前達は俺の後継者なんだからな。頑張れよ』

彼は社長の言葉を糧に、出世街道を突き進む。

結果として、入社してから2年余りで退職、独立ということになるのだった。


「何か良いね。男同士って」

「ああ」

キムラくんやコダマくんのような友情もある。

社長のような付き合いもあれば、イシハラくんやコマツくんのような付き合いもある。

「男同士の付き合いってのは、無償だよ」

「私もそうだけど?」

「そうだな。俺もユイには無償だ」

彼は同性にもよくモテる。

年上ばかりだが、本人は年下だと思われていない。


自慢の旦那は、今後、事業で飛躍的に結果を出すことになる。



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