ユイ39
同級生で女同士での井戸端会議。
彼や亭主と同じ箱内で働くのに支障あるのかないのか。
私とマコちゃんは、嫌悪感が若干あるとし、リナちゃんは抵抗無いと話した。
そこへタイミング良く、彼がスカウトしたと思われる女の子と入ってきた。
「びっくり…タイミング良過ぎ…」
「まだ工事中なんだけど、ここが店なんですよ」
「キレイな店ですね。あの女の人達は?」
「うちで働く女の子達ですよ」
「おーい!ちょっと来て」
彼に呼ばれ、店のシステムなどを話した。
「ちょっといいかな?」
「はい」
「良い人達ですね」
「うん。前の職場で一緒だったんですよ」
彼女は、彼に呼ばれた。
「美人なのに、性格も良さそうだね」
「う、うん…」
私は彼女に不思議な感覚を持った。
彼を取られそうな予感が下のにもかかわらず、嫌な気分ではなかったのだ。
彼女を受け入れようとしているのだろうか。
その不思議な感情の真意が分からなかった。
その女はシズカと名乗った。
その翌日、シズカと名乗った女は、母親を伴って彼に逢いに来た。
彼と3人でしばらくの間、話すと帰っていった。
「イシハラ」
「はい」
「さっきの子、シズカで登録しといてくれ」
「分かりました」
彼がシズカに付きっ切りなのことに嫉妬した。
「ボスもボスだよね」
「確かにシズカちゃんを特別視してる感じがする」
「彼には何か考えがあるのかも…」
「ユイちゃん、冷静だね」
「そうでもないのよ?実はね」
確かに冷静を装っていた。
この場面での嫉妬は、彼が最も嫌う部分だと思ったからだ。
「おう!飯食いに行くぞ」
彼やスタッフ、私やマコちゃん、リナちゃんで出掛けた。
「あー疲れたな。イシハラ、ビール!」
「うっす!」
「コマツ、適当に食い物頼んで」
「はい」
22時過ぎ、いつものように打ち上げが始まった。
「ボス、シズカみたいな美人、よくスカウト出来ましたね」
「美容師ってのがポイントだったかもしれんな」
「以前にヘアメイクがどうのって言ってましたね」
「ああ。美容院については、いつ手放しても構わん。あの子がキラキラして見えたんだよ」
正直、彼の発言は私を嫉妬させた。
「ユイちゃん、顔に出てるよ」
「仕事の話だから、我慢して」
「そうだね。でも私の前で言わなくても…」
彼やイシハラくん、コマツくん達は、私達の内緒話を他所に続けた。
「ボスは以前から、水商売だけでは終わりたくないって言ってましたよね?」
「ああ。まずは社内部署からスタートして、分社化する」
「ベンチャーですね」
「各店舗毎に経営者を立てる。お前らがそれだ」
「なるほど」
「グループを形成して、その中で利益を共有する。これが目指すところだな」
「壮大な計画っすね」
「水商売はキッカケにしか過ぎない。これからだ」
「ワクワクしますね」
「業種も問わずだ。グループ内で回せればいい」
「それに対する許可や資格は随時ってことですもんね」
「そういうことだ。目標として5年の間に5業種をやって行きたいな」
「1年に1つ、新規事業ですね」
完全に私の勇み足だった。
彼はあくまで仕事上の対応をしていただけだった。
女というのは、つくづく損な性格をしている生き物だ。
彼のことを信じているのに、心配をしてしまう。
私は小さな小さな器の持ち主なのだろう。
新しい店では、男の子や女の子の総称を統一することにした。
男の子はスタッフ、女の子はキャスト。
それは、コマツくんの提案が通った形だった。
「もしもし…おはよう。今から?店に居るからおいで」
「どしたの?」
「シズカが友達を紹介したいって」
「へえ」
しばらくするとシズカちゃんが女の子2人を連れてやってきた。
「ボス、おはようございます」
顔、スタイルの良い美人の女の子達だった。
シズカちゃんの美容院の客であり、友人でもあるという。
さらに彼女達は、事務所に所属しているタレントということだった。
「オープンするまであそこの変な男から、連絡くるかもしれないけど電話出てやってよ」
「変な男って俺ですか?」
彼は面接を済ませ、イシハラくんに任せると出掛けた。
「ただいま戻りました」
「コマツさん、お疲れ様」
「コマツくん、お疲れ」
「イシハラさん。シズカ効果があってスカウトが捗ってますよ」
「ん?ヘアメイクのこと?」
「そうです。メイクやヘアメイクが2000円じゃないですか?しかもプロ並の美容師にやって
もらって。反響がいいですよ」
「プロ並っていうか、プロでしょ」
イシハラくん達が集めたキャストは80名以上になっていた。
全ては彼の思惑通りに、事が進んでいたのだった。
20時を過ぎた辺りで、今日の仕事が一段落した。
「お邪魔!」
「おお!」
キムラくんとコダマくんがやってきた。
「表敬訪問だよ」
「マナブは?」
「今、出てます。連絡取りますよ」
「ああ、頼むよ」
イシハラくんの電話から、10分ほどで彼は帰ってきた。
「お疲れ様。どう調子は?」
「おお!久しぶりだな」
「ボス、お腹空いたー!」
「ユイちゃんに賛成!」
マコちゃんとリナちゃんも賛同し、挙手している。
「じゃ俺も」
「じゃ私も」
「じゃキムラとコダマも来てくれてるし、みんなでパっと行くか」
店が入っているテナントビルの向かいにある居酒屋「酒乃蔵」にみんなで行く事にした。
店内は若いカップルや学生と思われる団体や、老夫婦、サラリーマンで混雑していた。
「いらっしゃい!」
「8人入れる?」
「奥の座敷どうぞ」
「とりあえず生ビール8つ下さい」
「あいよ!」
しばらく彼達は、キングやジャックの話をしていた。
「失礼します!こちらはうちの大将からです」
店の若い男が焼酎の一升瓶を持って、彼に差し出した。
彼はマスターにお礼を言いに行った。
「親分からだってさ」
「例の?」
「近いうちに俺が来るって話してたそうだ」
「御代は親分持ちだったりして?」
「そういうこと。あの人はこの辺りではずいぶん慕われてるな」
酒乃蔵。
これから、ほぼ毎日のように通う店となるのだった。