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ユイ38

彼と付き合ってから永いようで短くもあったが、プロポーズされた。

それは私にとって、感動の夜だった。

翌日、すでに合格していた彼の車の免許交付と婚姻届を提出しに役所へ行った。


出店準備で忙しい最中、彼の18歳の誕生日に合わせてくれたこと。

プロポーズにいろいろサプライズをしてくれたことが感動を増幅させた。

しかし翌日から浮かれることも出来ず、彼は出店準備へと切り替えていた。


「イシハラ、スカウトの調子はどう?」

「いわゆるプロって言うタイプは居ません。現在のところ20人ほどストックはあります」

「コマツは?」

「私の方もド素人が10人ほどです。私もイシハラさんも主婦、学生が多いですね」

「リーダー的存在は居ないってことか」

「私の友達でも連れてこようか?」

「いや、それはいいや」

以前にも彼は言っていた。

スタッフ以外は、全て新しいものにこだわりたいと。

あくまでこだわりであり、否定をしている訳ではないとも話していた。

私が彼の性格を察するに、社長に義理立てをしているのだろうと思った。


「ボス、ちょっといいっすか?」

「どうした?」

「マコがうちに来たいって言ってるんっすよ」

「マコが?」

「ジャック辞めて1ヶ月経っているんですが。同じ時期に辞めたリナと2人で来たいって」

「1ヶ月経ってれば大丈夫か」

「って言うか今日来てるんですが、いいですか?」

「そうなの?いいよ」

マコ、リナ。

私の中学生の頃の同級生に居た名前と同じだった。

「今呼びますね」


「私、ジュースでも買ってくるね」

「ユイさん、私が」

「いいのいいの。コマツくん座ってて」

イシハラくんの彼女は、彼の元カノ。

彼からイシハラくんに彼女が出来たときに聞いた。

気分が優れなかった。

自分の器量の無さに嫌気が差す。


せめて笑顔だけでも取り繕う。

「ほーい!みなさんお茶の時間ですよ」

「ユイちゃん…?」

「マコちゃんとリナちゃん?久しぶり!」

さっき彼達から聞いた2人の名は、私の友達で合っていたのだ。

「ここでお世話になることになったの。ユイちゃんはどうしてここに?」

「主人が店のオーナーなの」

「ええ!マナブ?ユイちゃんと?いつ結婚したの?」

「つい最近ね」

「マコちゃんとリナちゃんが働くなら私も働こうかな。いい?」

「別に拒否する理由は無いけど?」

「じゃ働くことにした!」

「コマツ」

「はい」

彼はコマツくんに店のシステムを私達に教えるように指示をした。

「イシハラ、スカウト出るぞ。ユイ、あと頼む。」

「うっす!」

「はい」


コマツくんから、ギャラ形態やシステムについて説明があった。

「そこまで決まってたんだね」

「99%がボスの案です」

「この短期間でここまでコンセプトを明確にするとはね」

「ボスならこれくらい朝飯前ですよ」

マコちゃんやリナちゃんは、頷くしかなかった。

「ユイちゃん。彼…私から言うのも何だけど、立派になったね」

「初めて見たときから、他の男の子達と違うものはあったけどね」

「そうなんだ。私はすごいところしか見てないから」

「暑くない?」

「ああ、ユイちゃん達がね」

「ちょっとー!」

「それでは私もスカウトに出てきますので」

「はい。いってらっしゃい」


2人に逢ったのは、本当に久しぶりだった。

「最後に逢ったのいつくらいだっけ?」

「一緒によく遊んだ訳じゃなかったからね」

「私、中学、高校って友達居なかったからさ」

「孤高な存在だったんだよね。ちょっと近寄り難いみたいな…」

「同級生とは思えないくらい、大人のオーラ持ってたよ?」

「そんなことないよ」

「ユイちゃんのファンクラブもあったしね」

「うんうん」

「ウッソ?」

「地元でも超有名人とばっかり付き合ってたりしたしね」

「さっきもね、2人で話してたんだけど…」

「ユイちゃん、キレイなのは変わらないんだけど、可愛くなったねって」

「ありがと」

「すごい話し易いし」

「そんな笑ったところ見たことなかったから」

「旦那に逢ってからかな…」

「マナブ?」

「そう」

「不思議な魅力と力を持ってるよ」

「リナもそう思う?私も」

「そうだね。私の場合は、人生が変わったというか、生き方を教えてもらったみたいな」

「大袈裟じゃないと思うよ。私もマナブと逢って良い女になったと思うもん」

マコちゃんにしか、言えないセリフだ。

彼と付き合っていたのだから。

ここは敢えて、知らない振りをした。


「ユイちゃん、結婚したんだから言うね」

「ちょっとマコ!」

「アタシ、マナブと付き合ってたことがあるの」

このカミングアウトには、正直、面食らった。

「もう数年前の話なんだけどね…」

さすがにリナちゃんは場都合が悪そうに話した。

「いいよ。もう過去の話だから気にしない」

「仕事が1番だって。私、振られたの」

「そうだったんだ」

「振られたときも彼と付き合うときも、優しく応援してくれたの」

「うちの旦那はそういう人よ」

「イシハラくんもマコとマナブのことを知った上で付き合うって」

「イシハラくんも良い男になったよね」

「ユイちゃん、ありがと。でもね、いつもボスがボスがって」

「あはは。仕事離れてもそうなんだ」

「私がマコの家に遊びに行ってもそうだよ」

「あはは」

マコちゃんのカミングアウトの後は、女の井戸端会議をしていた。

同級生の誰が誰と付き合っていたとか、誰々が結婚したとか。

それはまるで同窓会のようだった。


「ねね。ちょっと聞きたいんだけど?」

「リナ、どしたの?」

「彼や旦那と同じ店に居てさ、男も女も嫉妬とかしない?」

「彼はしないかな」

「うちも旦那の方はしないはず」

「2人は?」

「営業中は、プロ意識を持てって言われてるから気にならないね」

「私もかな」

「営業以外は?例えば、今2人ともスカウト出てるじゃない?」

「そうだね」

「うんうん」

「親しそうに話しながら、そのエレベーターから知らない女と降りてきたら?」

リナちゃんはそう言いながら、エントランスを指差した。

「ごめ。私…ヤキモチ焼くかも」

「私もユイちゃんと同じかな」


良過ぎるタイミングで、エレベーターのドアが開いた。

「まだ工事中なんだけど、ここが店なんですよ」

『げっ!』と思った。

うちの旦那がスタイルも良く、すごく美人な女と親しそうに話をしていた。

「ユイちゃん、まさにこんな感じのとき」

「びっくり…タイミング良過ぎ…」

マコちゃんが何とも言えない顔で、私の表情を伺った。


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