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ユイ34

ユミさんと2人で昔話に花を咲かせていた。


「何だか、つい先日の話みたい」

「まだそんな新鮮なんだ?」

「うーん…新鮮なようで懐かしくもあり、不思議な感じかな」

「将来は結婚するの?」

「私は今すぐにでもお嫁さんにして欲しいよ。彼の子供を産んで育てるのが夢かな」

「ユイの夢は、意外と平凡なんだね」

「当たり前のことを結果に出すことって難しいよね」

「そうだね」


「ああ、よく喋ったな。行っこか」

「ですね」

「ベンツどうすんの?修理出すの?」

「どこか知ってる?」

「同級生が修理工場やってるよ。そこ行ってみる?」

「うん」

「あ、アタシ出掛けるんだったわ…連絡入れといてあげるよ」

「一緒に行ってくれないの?」

「地図書いてあげるから。マスター、チェックしてくれる?」


私が財布を開けて払おうとした。

「アンタに出してもらうほど、老け込んじゃいないわよ」

「ありがとう。ごちそうになります」

店を出るとタクシーが停まっていた。

「彼のところに直接行っちゃうから、ここで」

「うん、分かった。ありがとう」

「またね」

「はい」

ユミさんは、颯爽とタクシーに乗り込んでいった。


私はユミさんに教えてもらった修理工場へと向かった。

書かれている場所は、私が通った中学校の近所だった。

車を走らせる時間が長くなるにつれ、懐かしい景色が目に映った。

そこは、中学校から少し離れた場所にあった。


「すいません。修理をお願いしたいんですが」

「ユミさんの友人の方ね。聞いてま…ユイ?ユイか?」

「シュウ…?」

シュウとは、私が初めて付き合った男だった。

「久しぶりだな。いつ以来だ?」

「もう数年経つね」

「ベンツなんて乗ってんか。仕事何やってんだ?」

「無職」

「まさか、どっかの社長の愛人でもやってんじゃないだろうな」

「そんな訳無いでしょ」

「とりあえず、修理しちゃうよ。事務所でコーヒーでも出すから」

「分かった」


シュウは、ユミさんの高校時代の同級生だった。

私が入学した頃には、学校を辞めていたそうだ。


私と付き合っていた頃、シュウは無茶苦茶だった。

今思えば、最低な男だった。

一緒にシンナーをやらされたり、集会に連れて行かれたり。

ヤキモチや束縛は、半端じゃなかった。

自分は浮気をする男というのは、女の浮気は絶対に許せない。

男友達ですら、ヤキモチを焼かれた。

だらしない男だが、私も若かったせいかそれが当たり前と思っていた。


ただ唯一の共通点は、孤独で寂しがりだった。


暴走族の総長という地元でしか通用しないネームバリューがあった。

告白され、興味本位で付き合った。

感情が一時的に高ぶっていただけの付き合いだ。

次第にシュウから逃げるようになり、逢わなくなった。

そして高校に行きたくなった私は、シュウと別れたのだった。

「ほい、コーヒー」

「ありがと」

「良い女になったな」

「今の彼にそうしてもらったの」

「お前がそう言うなんて、よっぽどなんだな」

「私の全てよ」

「淡々と話す口調は変わってないけど、話す内容が変わったな」

「そうね」

どうして男というのは、昔の女を今でも自分の女のように話し掛けるのだろう。

分かったような口振りだが、分かっていないから別れているのだ。

偶然に再会したことを契機に、隙在らばとでも思っているのだろうか。

「どれくらいで修理終わる?」

「よくある修理だから、部品のストックがある。もう20分くらいかな」

「そう」

私がタバコに火を点けるとシュウもタバコを燻らせた。

「お前、セブンスターなんて吸ってんのか。キツイだろう?」

「彼が吸ってるから、同じの吸いたいだけ」

「彼、彼って…俺のときもそういうのあった?」

「無いね」

さすがにイライラしてきた。

シュウが何が言いたいのか、分かってきたからだ。


事務所の奥のドアから、別の従業員が入ってきた。

「お待たせしました。修理完了です」

「分かった。車を事務所前に出しといてくれ」

「はい」


「おいくらですか?」

「いいよ」

「そういう訳にもいかないでしょ。いくら?」

「昔のよしみだよ」

「商売やってんだからダメだよ。借りも作りたくない」

「そんな冷たいこと言うなよ」

「いいから早く」

「じゃ9000円でいいよ」

「はい」

「もう帰るのか?事務所閉めるから飯でもどうだ?」

やっぱりそう来たかという感じだった。

私は失意混じりの溜息をついた。

「ねえ、私に何か求めてる?」

「あ、いや…別に」

「悪いけど今後、アンタとは何も無いからね?」

「そういう意味じゃねえよ」

「あっそう。はい、お釣りいらない」


事務所を出て、車に乗り込むとシュウが追い掛けてきた。

「悪かった。機嫌直して飯付き合ってくれよ」

「昔にそういうことが言えてればね。でも無理」

「ちょっとくらい時間無いか?話もあるし」

「私は話すことない。さっきも言ったでしょ?彼が私の全てなの。じゃあね」

強引にドアを閉めるとエンジンを掛けた。


かなり気分が悪かった。

信号待ちで停まったとき、彼が同じ立場ならどういうリアクションをするだろう。

「別れる訳無いか…」

まだ信号が青にならない内に、後方からクラクションを鳴らされた。

シュウが運転席に座っているのがバックミラーで確認出来た。

ハザードを点灯させ、車を寄せた。

「何なのよ!」

「ユイ!再会して思った。やっぱりお前が好きだ!やり直してくれ」

シュウは私を車から引きずり降ろすと自分の車に乗せた。


「やっぱり昔のスタイルか…」

「何!」

「アンタにどうこうされるなら、舌噛み切ってやるわよ!」

シュウは私の覚悟に、車を走り出させることは出来なかった。


「嫉妬するよ。ユイにそこまで想われてる男がこの世に居るなんて」

「彼に何かあれば、刺し違えても彼を守るわ。それほどの男よ」

車を降りると自分の車に乗った。


みんな人なんて、大事なものは失わないと気がつかないもの。

気がつかないのは、思いやりが足りないから。

私と彼に失うという言葉は無い。


マンションへと戻る道中、携帯が鳴った。

「ユイ、今どこ?」

彼の声が聞こえた。

「どしたの?今移動中だけど」

「羽田に帰ってきたんだけど、拾いに来てくれよ」

「分かった。すぐ行くから待っててね」

有頂天だった。

信号無視を繰り返して、彼に逢いに行った。



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