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ユイ25

区役所に用事があった私は、帰りに銀行へ寄った。

彼の通帳に記帳をしに行く為だった。


彼より私の方が日中に出歩くことが多い。

昼間に行動するのはとても苦手だ。

彼が色白が好きということもあって、日焼け予防は異様なほどしている。

長袖に手袋、帽子にサングラス。

これらは必需品だ。

サングラスを掛けていても横断歩道が眩しい。

まだ雨が降っていれば、眩しさが半減される。


彼はほとんど通帳記帳をしない。

機械からはき出されるまでかなりの時間を要した。

「残高…4600万?振込まれてるわ」

私は自分の通帳も記帳すると帰路についた。


「ねえ、起きて」

彼は寝起きが悪く、なかなか起きない。

「おはよ。ちゃんと振込まれてるよ。4000万」

彼とソファに座るとタバコを渡した。

「もうやるしかないね。私お店辞めようかな?愛する人をそばで支えて行きたいと思うの」

「出資者と話がまとまるまで、ちょっと待ってて」


彼の夢や目標をそばで見守りたかった。

例え事業が失敗したとしても、2人でどこか遠くで暮らせばいい。

私が稼げばいいと思った。

彼はやっちゃんと話し合いをする為、身支度すると出掛けた。


私は急にユミさんに逢いたくなった。

「ユミさん、おはよ」

「ユイ?久しぶりだね。どうしたの?」

「ご飯一緒にどうですか?」

「いいよ」

早々に身支度を済ませ、駅でユミさんと待ち合わせた。


「どうした急に?マナブとケンカでもしたの?」

「ううん。彼ね、キング辞めるの」

「あ!独立決まったの?」

「うん。迷ってた彼に、最後は社長が背中を押してくれたみたい」

「そうなんだ」

「私も店辞めようと思って」

「それが良いかもね。若い衆は?」

「イシハラくんってのが彼にぞっこんで」

「一緒に行きたいけど義理があるからダメだって?」

「うんうん」

「あの子らしいわ。じゃ誰も居ないの?」

「出資してくれた人が彼の下で働きたいって」

「その人もぞっこん系なんだ?」

「だと思う。だって彼の方が6つも年下だって話」

「そっか。もう独立するのか。想像より早かったな」

ユミさんは感慨深げだった。


「ユイ、もしかして不安なの?」

確かに数千万の借金からスタートする。

全てにおいて不安であるが、彼がそれを感じさせないことを話した。

「不思議だけど、マナブを知ってる人間は、みんなそう思うだろうね」

「ユミさん、女として私は何をすればいい?」

「何かすることあると思う?」

「え?無いの?」

「ある訳無いでしょ。あの子の場合、女なんか足手まといになるだけだよ」

「そんな…」

「ユイは仕事どうすんの?」

「今の店はもう辞めるのね。で、彼の店で働く」

「じゃその店でフロアリーダーみたいなことすれば?」

「それだけでいいのかな…」

「マナブは経営者だとしても店に出るはず。内部で協力してやればいいのよ」

「そうですね」

「私もレセプションには行くから」

「ありがとう」


ユミさんと別れると店へと向かった。

「ユイさん、おはようございます」

「おはよ。店長、オーナーと連絡取れる?」

「どうしました?」

「今月でお店辞めるって話をしたいの」

「ええ!」

オーナーはすっ飛んで来た。


「ユイ、どうしたんだ?急に辞めるなんて」

「彼が独立するの。だからそれについていく」

「キングの店長だっけ?独立するんだ?」

「大丈夫。他の女の子を連れて行く行為はしないから」

「店としては、ユイが居なくなる損失が大きいよ」

「そんな訳で、オーナーよろしくね」

「何か店側がすることで、残ってくれるようなモノはないかな?ギャラとかでもいい」

「彼の店じゃなかったら、辞めるなんて言わないから。それは理解してね」

「しょうがないな。連絡くれよ。ユイ宛で花輪くらい出すから」

「ありがと」


オーナーとの話が終わるとリストへ向かった。

「店長、そういう訳だから今月末で」

「残念です」

「客にも女の子にも言わないで。もちろんイベントとかもしないで」

「どうしてですか?」

「客も女の子も私の移動先に流れたら損失でしょ?」

「すいません。そこまで気を使ってもらって」

「いいのよ。仲のいい女の子、数人にだけ話すようにするから」

彼ならここまで説明しなくても、理解していただろう。

やはりこの店のスタッフは、ただのウエイターだ。

まるで仕事が出来ない。

出勤してきて、時間が過ぎれば帰る。

その繰り返しなのだろう。

出世欲やギャラ欲の欠片も見当たらない。


その日の営業が終わって、彼とラーメンを食べに行った。

「今日さ、店のみんなに辞めることを話したんだけどさ」

「うんうん」

「社長がイシハラも連れて行けだってさ」

「そうなんだ。良かったね」

「確かに引っ張りたい気持ちはあったけど、義理が先だからな」

「社長も分かってたんじゃないのかな」

「あの人なら…気がついてたかもしれんな」

以降、彼やイシハラくん、やっちゃんと多忙な日々が続くことになる。

「それからキングの店長にコダマが内定したよ」

「引継ぎしにきてるの?」

「明日からね。キムラとは一緒の箱に居たことあるけど、コダマは初めてだな」

「楽しみだね」

「ある意味そうだね」


引継ぎ業務と営業管理。

それに加えて出店する店選び。

彼は多忙を極めており、店選びが難航していた。

「いやしかし…参ったな」

「どうしたの?」

彼の店選びが難航していた。

同業が集まるような激戦区は、避けたいとのことだった。

「でも人の集まるところの方がいいんでしょ?」

「もちろんだよ。ただ系列店を持っているようなところには勝てないんだよ」

「まさか離れ小島的なところに出す訳もいかないしね」

「もうちょっと探しに行って来るよ」

「いってらっしゃい」

店を辞めることが決まってから、彼は睡眠不足になっていた。

私も同じ時間帯で生活しているので、かなり辛い。

しかし彼の前で、それは表現できる訳がなかった。


そのとき、私の体に異変を感じることとなる。


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