プロローグ
「ヒーローは、悪者を倒して言いました。「・・・!」と。」
「わぁ!かっこいいね!お母さん!僕もこのヒーローみたいになれるかなぁ!」
「そうね。きっと、樹ならなれるわ。だってこんなに可愛いんですもの!!」
そう言ってお母さんは、膝の上に座ってニコニコしている僕を強く優しく抱きしめた。
(――僕は、このヒーローみたいになりたい!!!)
ドンッ
鈍い音と強い衝撃に閉じていた瞼を瞬時に開かされた。
「おい、イツキ。何寝てんだよ。さっさと俺のコーラと焼きそばパン買って来い。」
ボーっとした瞳に映っているのは、茶髪の男とその取り巻き。
「寝ぼけてんじゃねえよ。五分以内に買ってこなかったら、腹パンの刑だかんな。」
「は、はい…。」
僕は、急いで京介に頼まれた品を買いに購買と教室を往復した。
(恐らく、五分は経っていないはず…。)
「き、京介君。お待たせ…。」
買ってきた物が入っているビニール袋を京介君の机の上に置いた瞬間。腹部に息ができなくなるほどの強い衝撃が走る。
「な、なんで…。」
「あぁ?あー、そういや五分以内につったっけ。まぁ、俺の体感で五分経ってるから別にいいだろ。」
「京介君、ひっでぇー!ww」
京介君とその取り巻きがゲラゲラと笑っている前で僕は痛みに耐えきれず、うつ伏せになる。あまりの痛さに僕の中に少し残る反抗心が瞳に現れる。
「おい。なんだよその目。喧嘩売ってんのか?」
その目を見逃さなかった京介は、うずくまっている樹の腹部めがけて右足を振り上げた。
(まずい!こんな苦しいのにもう一回蹴りを喰らったら本当に死んでしまうかもしれない。)
しかし、身体は樹の言うことを聞いてくれない。
「やめなさい!!」
そこに現れたのは綺麗な茶髪を靡かせる綺麗な少女。幼馴染の涼香だ。
「ちっ。またお前かよ涼香。」
京介は、そうつぶやいていつものように退散していった。
「樹、大丈夫?」
「あ、うん。ありがとう…。」
涼香は、僕がイジメられている時にすかさず現れて、京介君達を追い払ってくれる。そのうえ僕のことを心配して看病だってしてくれる。僕のヒーロー…。
ヒーローになりたいと望んでいたはずの僕は、誰にも逆らえない弱者。
そう僕は、高校三年生になった今『いじめ』を受けている。