JOB.6:笑ウ軽ヤカ乙女ニ。
夜のうちに這いまわっていた冷気を、陽光が徐々に暖めて行くのを身体に感じながら、
御影は歩いていた。
夜纏っていた黒い学帽と制服とは打って変わり、白の学生服を身に着けている。
手にあるのは杖ではなく、鞄だ。
御影は、この魔都〈玖刻〉の丘陵の上に建つ,
〈高天原高等学術院〉の生徒でもあるのである。
あくまでも、だが。
彼はこの街の〈鎮静屋〉だ。
裏の家業を継ぐ者に、安寧の学校生活を送る事は許されていない。
この登校は、学業が目的では無いのだ。
「よォ、淳一郎」
〈高天原〉への通学路、
〈芒原坂〉―〈高天原〉へ向かうための上り坂である―で、
声がかけられた。
振り向く。
それらしき人影はいない。
「こっちだ、こっち」
横を声が通り過ぎる。
どうやら声の主は欄干の上を駆けて行ったらしい。
器用なことだ。
とん、と御影の前に人影が舞い降りる。
白と黒のツートンカラーの女学生服を、小柄な肢体に纏い、
茶が混じった黒髪はボーイッシュ・ショート。
「おはようございます、飛鳥さん」
「ちッす」
彼女の名前は、坂上 飛鳥。
御影の仕事仲間である。
「女の子なんですから、今のような危ない事ブッ!」
鞄で顔面を強打される。
強烈なブロー。
視界が揺れる。
「差別発言だ、今の。オレだって好きで女に生まれたんじゃないっての。そこんとこ分かっとけよ」
ニヤニヤと楽しげに笑う飛鳥。
登校は、こういった同業者と情報を交換するためでもある。
「痛い…全く、荒い人なんですから」
衝撃でずれた学帽を直し、御影は歩き出した飛鳥の後を追い、再び〈芒原坂〉を上り始める。
それから二人はしばらく歩き続けて、坂を上りきる。
〈高天原〉の立派な門を潜ると、流れる生徒の波からそれるように、脇道へと出た。
その足は、指定部活動の部員たちが共同で使用する〈部室舎〉へと向かっているようだ。
そこで、生徒たちを束縛している鐘の音が鳴る。
「ま、オレらは関係ねェけど」
くつくつと飛鳥は笑い、御影の先を軽やかに進む。
〈部室舎〉の古びた廊下を進みきった角部屋に二人は入る。
扉の横には、〈玖刻夜間風紀取締機構〉と大仰な書体で記されていた。
その六畳程の角部屋は、随分居心地が良さそうだった。
革張りの肘掛長椅子や蓄音機、印字鍵盤、
古そうな書籍を納める書架を二方向からの窓から指す光が、穏やかに照らしている。
木目調の壁が落ち着いた雰囲気を醸し、窓際にある植物の放つ香りが更に加速させている。
「ふぃ―――〜」
やっぱ落ち着くなぁ、と飛鳥は肘掛長椅子にぼすんと倒れ込み、そのまま身体を沈める。
一方、御影は扉の横の書架の前に立つ。
「で、どしたよ淳一郎?アンタがここに来るなんてさ」
いつの間にかその小さな口に煙草を加え、飛鳥は御影の背を好奇の目で見つめる。
「お見通しですか」
棚から、〈魔象大典〉という奇妙な名の、古びた書籍を抜き出しながら、御影は苦笑する。
「いえね、今回はそれなりの仕事でして」
「厄介事にゃ慣れてる。話せよ」
八重歯を見せて、飛鳥は笑う――
裏話。
遂に登場、同業者(笑)
ボーイッシュ・ガールの飛鳥!
さて、これから熾烈の三角関係が…!?
…ないでしょうね、多分(笑)
彼女はそんな性格じゃ、ありませんし(-_-;)
おそらく、自分の気持ちにも気付かないと思いますよ(笑)




