JOB.5心地良イ闇デノ揺ラギ。
翌朝。
窓の外では、早起きの小鳥たちがぴちぴち囀り、
陽光が窓掛布の隙間から差し込んでいる。
「あら、もう日が昇ってしまっている」
白い頬に手を当て、静香が驚いたように言った。
彼女が座る机には、幾つもの紅茶碗、空になった小皿が累々と置かれている。
「つい、話し込んでしまいましたね」
モーニングコーヒーとなってしまったブラックを傾けながら、御影は苦笑する。
「物好きな人たち…」
カウンターの奥の肘掛椅子では、麗子が力なく呟いている。
その瞼は今にも閉じられそうだ。
「ほ、本当に申し訳ありません、こんな時間になるまで」
そういう静香も、時の流れに気付き、眠たそうな表情だ。
「麗子さん。部屋、お借りできますか?」
御影の質問に、麗子はコクリと頷く。
黒い女礼装には皺が寄っている。
「上の階なら、何処でも使って良いわよ」
「どうも。さ、静香さん。こっちに」
目をしょぼしょぼさせている静香を引き連れ、御影はカウンターの奥に入り、軋る階段を上る。
階段から、一番近くの木扉を開く。
中には必要最低限の調度類と寝台のみと、いたって簡素なつくり。
東側に面した窓からは柔らかな光が漏れている。
その部屋は、どこか気品を漂よわせ、落ち着きと癒しをもたらす。
「心地の良さそうな部屋」
静香が嬉しそうに呟く。
「全くです。では、静香さん。ここで少しお眠りになってください」
「…良いんですか?」
「眠いんでしょう?」
しばらくして、恥ずかしげな声で、はい、と返ってくる。
「正直で宜しい。では、おやすみなさい。また後ほど」
静香を残し、御影は部屋を出ようとする。
その腕を誰かに掴まれた。
誰に?
――静香しかいない。
御影が困った様子で後ろを振り向くと、静香は慌ててその手を放した。
「ご、ごめんなさい…!」
頬が紅潮している。
「どうしたんですか?」
「いえ…」
――あなたが戻ってこないような気がして。
静香が俯きがちに言う。
その予感を現実にさせてはならない。
御影は、親類から見捨てられた少女の心細い胸中を察した。
「御心配無く。所用が在って出かけますが、しっかりまたここに、あなたがいる場所に戻ってきます」
それが、御影の仕事だ。
「約束ですよ」
…情に流されてはいけない。
一時の感情になど、決して。
安堵したように微笑む静香を見ながら、御影は心の中でそう呟く。
「では、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい御影さん」
ぺこりと頭を下げた少女を残し、部屋を出る。
廊下には、まだ夜の冷たさが絡み付いている。
そんな冷たい空気が漂う中、階段の近くの窓辺には、
意味ありげな視線をこちらに送る麗子が凭れかけていた。
「…分かっていますよ。これは、仕事です」
感情を抑えた声で言いながら、麗子の横を通り過ぎる。
麗子が何か呟いた。
御影は眼を見開く。
その虚ろな瞳が悲しげに光った。
「それでも…仕事は、仕事です」
裏話。
朝まで語り明かした御影と静香。
…麗子はカウンターでずっとその様子を眺めていただけだそうです(笑)
二人が朝までに飲み食いしたものは、「紅茶15杯」「サイダー14杯」「コーヒー6杯」「烏龍茶4杯」「蜂蜜たっぷりホットケーキ6枚」「ジャガイモの薄揚げ(要するにポテチ)200グラム」「鳥の軟骨の唐揚80グラム」「爽やかレモン風味クッキー26枚」、だそうです(^_^;)
麗子さんは、「赤字だわ…」とぼやいていましたとさ(笑)
もちろん、御影君は「ツケで」と頼んだそうです。




