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JOB.3:白キ竜の腹ニテ。

時計の針が十一を越え、三日月が輝きを増す刻。

御影は大きな屋敷の前に立っていた。

「でッか…」

漆喰、黒瓦の壮麗な和門。

「よ、よし」

気を取り直し、御影は門に据え付けられている、竜頭を模した鉄鐘を鳴らす。

するとすぐに門の側にある小さな扉から燕尾服を纏った召使らしき男が現れた。

「どちら様でしょうか?」

「夜分遅くに申し訳ありません。月代 麗子からの紹介で遣って来た――」

「御影 淳一郎様ですね?ようこそ、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

自ら名乗る前に言い当てられ、中に入るように促される。

どうやら随分待ち侘びていたらしい。

召使いの男に案内されて、綺麗に舗装された石畳を大分歩いた後、ようやく本低に辿り着く。

和と洋が混在したカオティックかつ神秘的雰囲気も漂う壮麗な館。

「これが…宮大路の白竜館」

「高名な英国建築技師の作品であります。それでは、御影様。――どうぞ」

男が、黒光りする重そうな木製扉を開き、招き入れる。

「少々お待ちください」

男は奥へと姿を消す。主に言伝に向かったのだろう。

御影は、大理石を敷き詰めた広い玄関広場(エントランスホール)に、一人ぽつねんと残される。 

「しかし広いですね」

贅の限りを尽くした内装――壁に掛かる絵画、白く滑らかな彫刻(オブジェ)、天井に吊るされた眩いばかりの装飾電灯(シャンデリア)、調度類――を眺め、御影は半ば呆れ気味に呟き、一応の礼儀作法として学帽と短外套を脱ぐ。しばらくすると男が戻ってきて、御影を奥へ促した。

玄関広場の大階段の左奥、客間。

その中央にある(ニレ)材の机の周りに置かれた茶革張り肘掛長椅子(ソファー)には、二人の人物が腰掛けていた。

「貴方が御影 淳一郎殿か。夜分遅くによく来てくれた。心より歓迎する」

うち、一人が立ち上がる。

スーツを着こなす堂々とした体躯、少々白髪が入り始めた髪は穏やかに切り揃えられ、口元の髭は威厳を付加させている。

「お初にお目にかかります宮大路 竜玄様。御会いできて光栄です」


――宮大路家六代目当主、宮大路 竜玄。


この街に、西洋の風を吹き込んだ者。

〈玖刻〉繁栄の、一端を担う古強者である。

御影はついでに、その竜玄の隣で静かに佇む、もう一人の人物を見やる。

見た所、御影とそう変わらないであろう十代の少女。

均整の取れた顔立ち、体型。日の光を受けたことが無いかのように透き通った白い肌。対比して、そのショートスタイルの髪は深黒。どこか儚げ、世捨て人のような雰囲気が彼女をぼんやりと覆っている。

一通りの観察をコンマ数秒で終え、御影は竜玄に視線を戻す。

「本日はどういったご用件でしょうか」

慇懃に、御影が聞く。

「うむ、君がこの〈玖刻〉の〈鎮静屋(しずめや)〉と耳にしたものでね。是非、頼みたいことがあるのだ」

己の口髭を擦りながら、竜玄は良く通る声で言った。

「余計な詮索は無し。その事を前提に話を進めるが、良いかな?」

嫌な予感がむくりと首を擡げたが、御影は冷静に、構いません、と返した。

「宜しい。それでは早速本題に移ろう」

そう言うと竜玄は、隣にいた少女の肩に手を置いた。少女の硝子細工の如き瞳が微かに揺れる。

「翌日の逢魔ヶ刻にこの娘、宮大路 静香を、街の東端にある〈魔絡魔堂(まらくまどう)〉へと連れて行って欲しい」

静香と呼ばれた少女が、軽く頭を下げる。

「宜しくお願いします」

その口から、まるで壊れ物を叩いたような時のような、酷く心配を煽る声が紡がれる。放って置けば、そのまま壊れてしまうような、そんな感覚。

これは、まさか…

宮大路 竜玄。この人は、この少女を――

「余計な詮索は無し、と言った筈ですぞ?〈鎮静屋〉御影 淳一郎殿」

口を開きかけた御影を遮るように、竜玄が言葉を発する。

その言葉は酷く重く、有無を言わさぬ口調。御影は酷い圧迫感を覚え、渋々口を閉じる。

「この依頼、頼まれてくださるか」

竜玄の瞳は、鋭い光を帯びている。

「…承知、致しました」

苦々しい口調で、ようやく御影はその台詞だけを口から搾り出した―――





裏話。


竜玄じいさんの、名前は本当は「竜玄斎」にするはずでした。

なんか「斎」がついたら、威厳がついてなんかよくね?と思ったのですが、

固すぎてもどうかなと熟考した末に、今のおじいさんがいます。

まったく。実の孫娘を放るなんて、酷いじいちゃん!(笑)

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