JOB.2:憩イハ硝子玉ノ中。
時刻は、時計の針が十を過ぎた頃。
〈玖刻〉の街は、さながら不夜城。
洋風酒場や倶楽部が軒を連ねる歓楽街を、例の青年は堂々とした足取りで歩いていた。
目的地があるらしく、人ごみを上手く躱しながら、しっかりと進んでいる。
ふと、青年が姿を消す。
どうやら路地に入り込んだらしい。
洋杖を揺らす青年は、歓楽街の隅にポツリと佇む一軒の店に入っていった。
〈倶楽部ビードロノヤミ〉
樫材のカウンター、棚に羅列されている酒精類、
観葉植物、仄かな明かりを発する洋灯、シックな内装、流れる外国音楽。
随分と近代的な洋風酒場だ。
「こんばんわ」
青年がカウンターに腰を下ろし、店の主に挨拶する。
「いらっしゃい御影君。お疲れ様」
カウンターの奥の薄闇から現れたのは、妙齢の女性だった。
喪服のような黒いドレスをしなやかな肢体に纏っている。
「調子はどう?」
群青色の洋盃に清涼飲料水を注ぎ、差し出しながら、
青年が脇に置いた洋杖を意味ありげに見やり、女性は言った。
御影、と呼ばれた青年は黒い学帽と短外套を脱ぎながら、まぁまぁです、と返す。
それから、グビリと一口炭酸水を煽ると、御影は人形のような表情を緩め、柔和な顔になった。
「麗子さん、今宵は何か在りますか」
御影が、洋盃の中の氷をカラリ、と転がしながら聞く。
「あるわ、万屋さん。大きな依頼がね」
麗子は静かに笑みを漏らすと、御影に一通の書状を手渡した。
上質な羊皮紙に、紅蝋で烙印が押されている。
「まずは其処に書かれている住所に行って頂戴。くわしくは依頼人が話してくれるわ」
「この印…宮大路のモノじゃないですか」
門と道とを抽象化し組み合わせた簡潔な印。
――宮大路家。
玖刻に古くから存在する資産家の一つである。
「そう。だからきっと大きな依頼よ。頑張ってね御影君」
麗子が、パチリと大きな瞳でウィンクする。
「はいはい」
麗子の嬉しそうな表情に苦笑しながら、
御影は〈倶楽部ビードロノヤミ〉の席を立った――
製作裏話。
あの異国から来た物には、漢字を当てていますね。
あれは、それなりの雰囲気が出るかなぁと思いつきでやってみたんです。
…そりゃあ思いつきですから。
漢字はもうほとんど適当ですよ?(笑)
ま、遠からず、という感じもしますが(^_^;)




