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JOB.17:ソシテ、終ワリ無キ始マリ。

御影が、〈魔絡魔堂〉に潜む〈大名朧蜘蛛〉を討伐して、数日後のこと。


――深夜。

群青の空には、孤独な月に寄り添うようにして、星たちが健気に瞬いている。

柔らかな月光が降り注ぐ〈玖刻〉、その赤煉瓦の道を疾走する人影があった。

モノクロの学生服と短い黒茶の髪を風になびかせ、その人影は舞いでも踊っているかのように、軽やかかつ不規則に駆けている。


飛鳥である。


「さってと…そろそろか?」

口元には煙草。

紫煙を燻らせながら、飛鳥は楽しげに笑う。


そんな彼女を取り囲むようにして、重い闇が湧いた。


黒影紡(クロツムギ)〉だ。

四方を囲むようにして、四体。

そして、その後ろには遥かに大きい個体。

「〈闇綴(クロツヅリ)〉、かな…?」

〈黒影紡〉の、進化形態。上位種。

〈黒影紡〉が一定時間〈玖刻〉に滞在すると、こういう風に化ける。

〈怪現象〉も成長するという、生きた証拠だ。

「ま、アタシが担当するのはコイツらだけだし」

関係ない、と言った風情で〈闇綴〉から視線を逸らし、四体の歪な影に視線を巡らせる。

飛鳥の手が、腰の吊鞘(ホルスター)に伸びる。

そこに収まっているのは、二挺の拳銃だ。

飛鳥の、〈怪現象〉を討つ為の得物である。

名をそれぞれ、〈神留弥〉、〈神漏美〉、と言う。

その女神の総称という言葉を名に持つ壮麗な銃を、飛鳥は愛しげに撫で、引き抜く。

「行くよ、シスター」

僅かに眼を細める。

彼女の出番は、〈闇綴〉への道を開くこと。

ただ、それだけ。

眼前に塞がる邪魔な障害を、ただ排除するのみ。

予備動作無しで、飛鳥が動いた。


〈玖刻〉に響く、艶やかな激音。


玉虫色の嵐が、飛鳥を中心に巻き起こり、三次元の影を見事に、そして豪烈に引き裂いて行く。

飛鳥が、発砲したのである。


ほんの刹那の出来事。


一瞬で、道は開かれる。


「さあ、行きな淳一郎!」


飛鳥は満足げに頷くと、後ろを向いて叫ぶ。

飛鳥の数メートル後方には、二人の人物がいた。


一人は、どこか浮世離れした雰囲気が漂う美少女。


宮大路 静香。


その顔に、以前のような儚げな印象は見受けられない。

どこかすっきりと、何かが抜け落ちたようなさっぱりとした顔をしている。


もう一人は、闇より黒い学生服を身に纏う青年。


御影 淳一郎。


この魔都の〈鎮静屋〉にして、静香の命を救った男だ。

「助かります、飛鳥さん」

赤煉瓦を踏みしめ、短外套を翻しながら、堂々と前に進みながら御影が言う。

「なぁに、別に良いって。それより早く終わらせて。アタシ腹空いちゃってさ」

「はいはい、分かりました」

苦笑しながらも、歩みは止めず。

一歩一歩、〈闇綴〉へと向かって行く。

「淳一郎君…」

心配げな静香に、御影は一度微笑む。

「大丈夫。すぐ終わらせます」

学帽を深く被り直す。


――途端、御影の姿が消えた。


いや、いた。

しかし今までの場所ではなく、〈闇綴〉の眼前に。

その手には、何時の間にやら漆黒の洋杖、〈劉黒杖〉が握られている。


「御影流古典断怪術――」


〈劉黒杖〉が、朱の光を帯びる。

〈闇綴〉は、本能的に恐怖し、身の危険を感じ、後退する。

しかし、御影がそれを許す事は無く。


黒桜花(コクオウカ)


無慈悲にも、その杖は振るわれる。


――刹那だ。


〈闇綴〉の周囲の虚空から、怒涛の勢いで、紅黒い桜の花びらが吹き出してきた。

その花びらは凄まじく鋭利にて凄烈。

ひとつひとつが、舞う刃となる。


これもまた、瞬間の出来事であった。


〈闇綴〉は、断末魔の叫びを上げる暇も無く、黒い塵となり、無に帰された。

「っあー、圧倒的な強さだね」

いつの間にか静香の横にいた飛鳥が、感嘆する。

「さて、帰りましょうか」

気軽な口調で、戻ってきた御影が言う。

帰る場所は当然、月代 麗子が経営する〈倶楽部ビードロノヤミ〉だ。

御影が下宿しているこの〈ビードロノヤミ〉に、〈朧蜘蛛〉から解き放たれ、宮大路家から勘当されたかたちとなった静香は成り行きで住むことになった。

それを見て、何故か飛鳥もそこに転がり込んできた。

頬を朱に染めて曰く、

「先越されてたまるかッての!」

だそうだ。

この珍妙な三角関係は、まだ始まったばかりだ。

けれど、三人は、どこか幸せそう。


飛鳥は、少し女の子らしくなった。


静香は、よく笑うようになった。


御影は、少しだけだが明るくなり、前ほどの仕事人間ではなくなった。


千変万化。全ては、絶えず変化する。


この魔都〈玖刻〉でさえ、例外ではない。


――ここで、この物語はひとまず、終焉を迎える。


が、終わるわけではない。


彼らの物語はまだ、始まったばかりなのだ。


これからも、続く。


〈玖刻〉も、廻り続ける。


いつまでも、いつまでも。


そんな世の中だ。


――いつか、また出会える。


そんな日が来るだろう。


「それでは、また会う日まで」


御影は、去り行く虚空に礼をした。


「どしたぁ?淳一郎」

「いえ、別に」


まだ、終わらないでしょう。



〈鎮静屋〉の青年は、液晶の向こうのあなたに、そう呟いた――





最後の最後の章が大増量しすぎてますね(苦笑)

どうも昼行灯です。


長い間、お付き合いいただき大変感謝しております。

ご愛読、本当に有難うございました<(_ _)>

なんか、終わるのが本当に惜しいです。

皆さんは、面白かったでしょうか?

出来れば、感想なんてものを頂けると最高に嬉しいです。

泣けてきます(笑)

いや、まぁ〈玖刻〉での物語はまだまだ続けるつもりです。

これからも、灯流 昼行灯を宜しくお願いします。

皆様とまたお逢いできる日を祈って、ペンを置かせていただきます。


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