JOB.16:一ツノ終ワリ。
御影は、自由になった劉黒杖を掲げた。
そのまま、高速で振り回し始める。
鼻から息を吸い、口から時間をかけてゆっくりと吐き出す。
静かに始まる腹式呼吸。
ただひたすら全力に、得物に力を注ぎ込む。
徐々に、杖が光を帯びてきた。
深黒に、熾烈な黄金色が雅に絡まる。
抑えきれない強烈な余力が、剛風となって御影を取り巻く。
「御影流古典断怪術――」
それは真円を描く紫電で、〈怪現象〉を切り刻む古の業。
「廻天」
其れはまさに、天をも廻す威力。
轟音が〈魔絡魔堂〉に響く。
使い物にならなくなった八の脚が、黄金の紫電により木っ端微塵に爆散する。
指向性の弩級衝撃を受けた黒塊が、荒れ狂う風と共に砂利の海に沈む。
「……?」
おかしい。
脚だけではなく、何故全て消えない?
今の壮烈な一撃で、普通の〈怪現象〉ならば消滅するはずだ。
いくら〈朧蜘蛛〉とはいえ、不死身では無いはずだ。
「
まさか…此れが本体では、無い?」
御影は、疑心暗鬼ながらも、堂へと向かう。
背後の白い海では、黒塊が悶え暴れている。
行くなそこに行ってはならぬと、〈朧蜘蛛〉がのたうつ。
しかし、そんなことを気にしている暇は無い。
余計、堂が気になるではないか。
腐敗が進んだ木扉を開け放つ。
――そこには。
錆びた、像があった。
八つの手をくねらせた、神像。
「〈大名朧蜘蛛〉とは、忘れ去られた神の…成れの果て。彼もまた…犠牲者なのですね」
信仰を失い、忘れられた神は、闇に堕ちた。
信者無き神は、存在の意義を失う。
結果。魑魅魍魎の類にその身をやつすことに。
原因は、〈玖刻〉の人々にもあったのだ。
何とも、無情なことである。
「っ…全く」
御影は、錆びてくすんだ神像に、淡い光を放つ劉黒杖を突きつける。
「もうお逝きなさい」
優しげな、呟き。
夜色の光が、神像を貫いた。
オォォォォ―――――――――――
砂利の上の、〈朧蜘蛛〉が、断末魔の叫びを高々と夜空に放つ。
その声は、どこか開放感に包まれていた。
もう、殺生をしないで済む。
もう、辛苦を味あわなくて済む。
やっと、楽になれる。
一柱の哀れな神が、救われた瞬間だった。
「これで、一段落ですか」
ふぅ、と大きな溜息を吐きながら、御影は堂を後にする。
門の近くには、気を失った静香を抱えた、飛鳥の姿がある。
その顔は、にこにこと笑い、御影には燦然と輝いて見えた。
「良かったんですよね」
これからの犠牲は、もういらない。
御影は、未来の命を、幾つも救った。
そして、ここにいる少女の命も。
彼女の物語は、今、ようやく始まったのだ。
宮大路 静香が、改めて誕生したのである。
「最後まで付き合うのも、悪くないかもしれませんね」
御影の、喜びを含んだ呟きは、
魔都〈玖刻〉の、澄み始めた夜空に、
吸い込まれるようにして、消えて往った―――
製作裏話。
ほう。ようやく一段落着きましたね(^^)
本来ならば、ここで終焉を迎えるはずでした。
…ん?でした?
はい、著者が終わらせるのが惜しくなりまして(^_^;)
最後に、エピローグ的なものを書き下ろそうかと思います。あと、一話。どうかお付き合いください<(_ _)>




