ホワイトクリスマス
12月24日、街ではクリスマスムードいっぱいだ。そんな中で私、「リアルサンタ」は今年も大金持ちのお客さんの子どもに、この「リアルサンタサービス」を提供しようとしていた。ちなみに「リアルサンタサービス」といのは、本来なら存在しないハズのサンタになって、実際に子どもの元へプレゼントを届ける、というものだ。
まずは1軒目、薬品会社の社長さんのご子息への依頼だ。「煙突からお願いします」とのことだったので、私は、用意していた折りたたみ式のハシゴを使って、家の屋根へ登った。雪がまばらに降っていたので、何度か足をとられる。「おお〜っと、危ない」、もう少しでプレゼントを落とすところだった。
そして、煙突に入る。暖炉の火は消していてくれるので、私自身が燃えてしまう心配はない。両手両足を使って暖炉の中の壁をつたいながら、なんとか下まで着地した。そして子どもの黄色い歓声。
「わぁーーっ、サンタさんだー!!本当にいたんだ!!ママとパパの嘘だと思ってた!」
それは8〜9才の子どもだった。
「メリークリスマス、奨太くん」
子どもの名前を覚えておくのも、サンタの仕事なのだ。
「ありがとう、サンタさん」
ーーーと、1軒目はなんなく終えた。
そして、2軒、3軒とこなしていって、とうとう最後の仕事だ。
かの、大財閥、大宮家への仕事である。
私が名前を知っているくらいだから、それはそれは偉大な名家である。
正面玄関から入ってきてくれ、との提示だったので、ここはそうすることにした。
そして私が足を進めると、
「ガルルルルル」
唸る声が聞こえたと思った瞬間、私は犬に飛びかかられた……。
どうやら大宮邸の番犬、ドーベルマンのようだった。
おしりに噛みつかれて、私は心の中で「こんなの聞いてないよ〜」と半ば泣きそうな思いだった。
そして、私は持っていたプレゼントの入った袋で、何度か、尻に噛みついて離れない番犬に叩きつけた。
しかし、何度叩きつけても、番犬は離れない。
そして、何度も抵抗した末、袋で叩いているうちに番犬は尻を離した。
その代わり、大切なプレゼントが入った袋に噛みつき、つかんで離さない。
「おい、それはだめだ!!」
私は何とか袋を取り返そうとしたが、中のぬいぐるみがぐちゃぐちゃになっても番犬は袋をボロボロにするのに夢中だ。
私は「プレゼントもダメになったことだし、大宮家の両親にワケを説明して、あきらめてもらおう。話せばわかってくれるはずだ…。」
と、袋に夢中の番犬を置いて、大宮家のチャイムを鳴らした。
「はーい」
中から声がして、30代くらいの綺麗な女性が出てきた。
「サンタさん、服がボロボロ、何かあったの?」
ーー私は事情を説明したーー
「それは大変だったわね、いいわ、サンタさん、今回の依頼は番犬のことを伝えなかった私達に非があるのだから、あなたには何の罪もないわ。報酬は払いませんが…」
当然だった。いくら番犬がいたからといって、サンタの仕事をまっとうしてないのは自分なのだから。
「話は聞いたぞ」
奥から旦那さんと思われる男の人が出てきた。髭をたくわえていて、凛々しい。40代半ばくらいか…。
「この度は「リアルサンタ」のサービスをまっとう出来なくてすみませんでした」
旦那さんは一言言った。
「いや、気にしとらんよ、我々が、悪い。でも、せめて子どもに会ってやってくれないか?」
「でも、プレゼントが…」
「いいんだ、会えるだけで子どもは喜ぶ」
「それではお言葉に甘えて…。」
そして、玄関から大宮家のリビングへと入った。
「あーーー!!!サンタさんだー!!ワーイ!!」
「プレゼントは?」
「それが、犬に食べられちゃってね、あのぬいぐるみ」
「そっかー……」
子どもの落胆する声を聞いて私は寂しくなった。
しかし、ここで予想外の言葉が私に降りかかってきた。
「じゃー、サンタさん、ママとキスして!そうしたら許してあげる」
「なっ」
私とこの子の両親は呆然としていた。
「ほっぺでいいよ、そんな歌を幼稚園で習ったんだ。」
私は両親の顔を見た。
奥さんは顔を赤らめ、旦那さんはやれやれ、といった感じで首を横に振っている。
「いいよ、したまえ」
と旦那。
「私も」
と奥さん。
そして私は、サンタはママにキスをしていた。
本当にそうだよ。
ーーENDーー