ゼロの追憶~女神との出会い~
「俺は………死んだのか?」
明後日の誕生日に俺は世間体で言うところの魔法使いになる歳のはず…。って、何むなしいこと思い出してんだよ俺。もっとこう、あったろ、例えば…『名前は田中太郎で、歳は35、2コ下の嫁がいてかわいい娘がいる。んで、職業がリーマンで会社帰りに道路の真ん中で立ち往生していたお婆さんを助けていたところをトラックに跳ねられた』みたいなやつ。
いや、俺は『田中太郎じゃなくて坂下三弦。歳は…さっき言ったろ。んで、デスクワークを派遣でちょこちょこして、会社帰りに「うー、目がしょぼしょぼするー。」って目尻を手で押さえていた時に足元で何かを蹴躓いてスッ転んだところまでは覚えてる』…うわ、ダサ。思い出す程のものでもねーわ。
「で、あんたは?」
さっきから杖を持ったお婆さんがじっと俺のことを見ていた。周りを見渡すがこの空間は真っ白い。上を見上げると真上から光が降り注いでいるようだ。このお婆さんが『神』だの『女神』だの言ったらババアと呼んでやろう。
「私は神よ。いや、女神と言った方が良いのかな?」
見た目とは裏腹にやけに若い女の声で話始めたババア。
「まぁ、女神と言っても信じられないだろうし、毎回毎回、何かしらの神パワーを見せなきゃ信じてくれなくなったから今から見せるわね。…これが神の力よ。」
そう言い終わるのと同時にババアが発光する。ババアが発光って文字ヤバイな。で、皮膚も服も徐々に剥がれ落ちていき、最終的にはシーツ1枚纏っただけの美少女が現れた。
化け物か。こいつ…。
恥女の化け物が現れた俺は恐れおののき、後ずさる。
「へ?何その反応!?」
『赤ずきん』の話は知っているだろうか?狼がお婆さんに成り済まして近付いてきた赤ずきんを襲うというあれだ。この場合、俺が赤ずきんで狼が恥女の変態だということだ。
HP1、MP1、攻撃力1、防御力1っぽい見た目のお婆さんが実は露出狂の若い恥女だったとしたら普通に引くだろ?恐いだろ?んなやつ化け物だろ?
俺は死んだかも知れないというこの状況でやけに冷静だった。冷静に状況観察できていなければ今頃、『女神』ってのに納得してしまい自称女神という恥女に俺は襲われていた。いやー、伊達に履歴書に『何事にも動じず冷静な性格なため、正確な判断が出来ます。』と書いてあるだけあるわー、俺。
って、んなこと考えてる場合じゃねぇ。どうやってここから逃げるかを考えるのが先だ。と、ここで恥女が動く。
「ね、ねぇ、なんか私のこと怖がってない?こ、怖くないよー。ほーら、怖くないよー。ただの美少女女神よー。」
予想外の反応をされた女神は動揺しておかしな口調になる。俺は急におかしな口調でしゃべり始めた露出狂にビビり思わず声を上げてしまう。
また同様に赤ずきんで例えるならお婆さんに化けた狼が狼の姿を現し急に口調を変え赤ずきんに、にじり寄る。そんな情景だ。赤ずきんも流石にビビる。
「ひっ。」
「え!?ちょっ。その反応はちょっと傷付く…。あ、もしかして女神ってのが信じられない?それとも武器か何か隠し持ってるとか思ってたりする?あなたが用心深い性格なのは知ってるわ。この下には(武器とか危ないものは)何もないわよ。だから、ね?安心して。」
はい、シーツの下、何も着てない宣言来ましたー。もう予告してきましたー。着てないのが安心出来ないんですー。もうヤバイですー。
俺はすぐに後ろに向かって全力疾走で逃げられるよう膝を軽く曲げ、腰を落とし、重心を後ろに傾ける。
俺はやつの隙を伺う。…だが、やつは隙の無い変態だった。
「ほら、(武器とか危ないものは)何も無いでしょ。」
俺はやつがシーツをはだけさせるその瞬間に後ろに向かって駆ける。決して後ろは振り返らない。きっとこれが正しい判断だろう。やつが俺を追ってきている足音がする。だが、出だしが遅れたのかだいぶ慌てた声がした。
「………へ?なんで逃げんのよ!」
そりゃ、逃げるよ。どうせ今頃、全裸なんだろお前。俺はあいにくお前の性癖に付き合う程変態ではないんでな。
…-あとどれくらいあるんだろう。
この真っ白な世界は一直線上に走っても景色が何も変わらない。
俺は恐らく死んだ。それは走っている内に体が思い出した。死ぬ直前の体はこんなにも体が動かないものなのかと思ったけど今はこんなにも走れる。そしてどんなに走っても疲れない。体感でいうと10分くらいか…。その時間、全力疾走し続けても体がどこも痛くならないし、息一つ乱れてない。
死後の世界だからか?
もう一度、辺りを良く見てみようと思い、周囲を確認する。が、俺はそこで後ろを振り返ってしまった。
「ぜぇ、は、ぜぇ、は、うぇっ、…ん、は…。」
なん…だと!?無言で今まで俺の後を付けて来ていたとでもいうのか。そこには息を切らし、ワンピースを着た変態がいた。
シーツの下はワンピースだったのか。にしても、薄い生地に汗で肌が貼り付いて体のラインがくっきり見える。下には何も着けていないようだ。やはり変態…。
「ね、ねぇ…、に、にげな-…。」
俺は走り出す。まず、冷静に考えてみてもとりあえずこの変態から逃げるのが最優先事項だろう。深く考えるのは逃げ切ってからだ。
俺は念には念を入れ、数時間程全力疾走した。やはり疲れない。息が上がらない。死後の世界だからそういった肉体的疲労は感じないのだろう。後ろを振り返っても誰もいない。この死後の世界(?)が地球と同じ球体だとしたら、その地平線からは何も見えない。
ほっとして前を向くとあの変態がいた。
「だから、逃げないでって!は、話を聞いて!」
ごめん、毎週金曜日17時投稿になる。
週2は無理だ。忙しい。
と、言うことで次話は来週金曜17時。




