とても平和な魔王城②
ズゥ…ーン。ゴロゴロ。カラカラッ。
「おやおや、もう朝かい。」
魔王城地下1階に上の階の音と振動が伝わってくる。フラスコ・ビーカー置いてあり、中ある液体が色とりどりに発光していて、他には実験器具と思われる機材がある。それらが上階の振動で震え、音をだす。そこに一人、白衣を纏ったシワだらけのお婆さんがいた。背を2回叩き、杖を手に取る。
「あたたたたぁ、もう体がきついさねぇ。…さて、もう行かないとルビちゃんにまた怒られちゃうさねぇ。」
-カツ、カツン。
背中をさすりながら部屋の入り口近くのソファーまで歩く。そこにだらしなく口を開け、ヨダレを垂らしながら寝ている少年がいた。
「ほれ、もう朝さねぇ。起きんさ。」
「っあで。………いっっつー。」
杖で軽く頭を小突き、少年はデコを抑えながら起き上がる。
「ルーナばあちゃん、その起こし方止めてくれって言ってるじゃんかぁ。」
少年はルーナミュレジェに向かって涙目で訴えかけるが、ルーナは特に気にした様子もなく、優しく微笑んでいる。
「ほっほ、この程度の攻撃に反応出来んとはまだまだ未熟さねぇ。」
「み、未熟って、さすがに寝てる時に殴られたら反応も何もできないよぉ。」
「空気の流れを感じとることさねぇ。空気の揺らぎが肌でわかるよぅなれば、後は身体に反応させればいいことさねぇ。」
「ルーナばあちゃんは魔術師なのにやっぱすごいや。それに比べてまだ俺は気配どころか空気の流れを感じるってのもわかんないや。」
「アー坊はまだまだこれからさねぇ、焦らず頑張りんさねぇ。…と、そろそろ朝ご飯の時間さねぇ、顔洗ってきんさねぇ。ルビちゃんが待っとるさねぇ。」
「うん。わかった。」
アースは寝ぼけ眼を擦りながら洗面所へ行き、アースは駆け足で来るだろうから杖をつきながら先に向かってもすぐ追い付くため、ルーナは先に1階の食堂へ向かう。
ルーナミュレジェは魔術師だ。それも中距離から超遠距離に対しての魔法のレベルが高く魔法の種類も豊富で、味方への支援魔法も使える。この世界でルーナミュレジェの魔法戦で右に出るものはいないといわれている。
なぜなら固有能力『四死四重』が使えるから。この能力は単純に言うと魔法を強化する。使う魔法が四重(あるいは四種類)同時で、四分の一の魔力で、四倍~四十倍の火力で放て、そして何より『四つの魔法が相手に当たれば相手は死ぬ』というデタラメな能力である。
そのためルーナと戦う場合は暗殺か魔法が当たらない速度動いて近接戦に持ち込むしかないが、ルーナはその対策として近接用カウンター技を極めている。
カウンター技は魔法でも剣術でも武術でも何でも対応して何でも使って、カウンターを決めることができる。
ルーナに魔法戦では勝てない。近接戦では全てカウンターしてくる。そんな強者。
だが、それでも老いには勝てなかった。身体がいうことをきかず、完璧なカウンター技はもう繰り出せない。と言っても魔法戦では未だルーナを超えるものはいないだろう。
今は魔王城で魔王に頼まれたある研究をし、その傍らで魔王城を守り、若者を育ている。
魔王城を攻めるということはルーナミュレジェと対峙する…魔法戦をするということに他ならない。攻め落とす戦力もなければ攻める気力もどこの国もないだろう。
魔王城を攻める。そんな国、いや、そんなやつ、この世界には…-。
次話は金曜17時




