レヴのツッコミの攻撃力~そして、俺の名は~
-え?人が死んだって?
-誰が?
-ああ、レヴがツッコミを入れたあいつが…
どうやら壁にぶつかった時に後頭部を強く打ち付け、当たりどころが悪く亡くなったらしい。
「で、そのパーティーはお前さん方にもう関わらないし、関わらないでくれればそれでいいと言われている。ここまではいいな。」
と、ギルドマスターのゼレギスからピリピリした感じで念押しされている。俺は優雅に食後のカプチーノを飲み、レヴは別に人間一人死んだくらいで何をそんなにカッカするのか、と言わんばかりの態度で無関心に椅子に座って髪をいじってる。そして、俺はカプチーノ片手に答える。
「ん、ああ、別にいいよ。」
このゴリラに対しては初対面のはずなのに上から目線で強気にいける。何故だろうか、記憶の思い出せない部分が関係しているのだろうか。
ゼレギスは額に青筋を立て、強く、強く握り拳を作りテーブルを叩く。
「で!ここからが肝心だ!ギルド内の不祥事とはいえ、当人同士が良いと言ってるいるとはいえ、お前等がまだ登録前とはいえ、ギルドの建物内での死亡者はまずい。評判が悪くなる。依頼者が減る。これはまずい。…よって、お前等には罰を受けてもらう。」
ゼレギスの後ろ隣に立っている秘書さんがゼレギスに紙の束を渡す。その束をパラパラとめくって何かを確認したのち。俺を睨み付けながらテーブルの上に叩きつける。
「この依頼を全部受けてもらう。期限無しで報酬も少ない面倒くさいくて誰も依頼を受けないやつだ。」
秘書さんから今度はブレスレット2つを受けとり、依頼書の束の上に置く。
「こいつは装備したやつの位置情報を発信する魔道具だ。一度装備すれば持ち主登録されて、外しても装備主の元に勝手に戻ってくる。『カギ』を使えば登録は解除はできる。…まぁ、お前等が解除する時はこの依頼を全部消化した後だ。」
ここまできてというか、話の流れ的に俺は疑問に思うところがある。
(なぜ、俺は警察(?)…この世界では衛兵だったか?に、俺たちを引き渡すとかしないでこんな話になるんだ?)
とか思っていたら勝手にゼレギスが事情を話始めた。よーしゃべるゴリラだな。独り言のように呟き始める。
「はぁ、普段なら即衛兵ものなんだがな。今は状況が違う。魔族との戦争のせいで冒険者もかなり減ってお前さん方みたいな実力者はもう少ない。…ちーとばかし素行が悪かろうが高レベルのゴミ依頼を消化してくれるんならまぁ、仕方ない…か。」
いや、実際に後半は独り言だった。ゼレギスは自分に言い聞かせ、勝手に納得する。ってか、お前が依頼をゴミとか言っちゃだめだろ。
「レヴ、命令だ。これを装備しろ。」
ゴリラがあんな説明をしたが俺は半信半疑だ。もしかしたら腕輪を着けた瞬間爆散するかもしれないし、着けたら2度と取れない仕様かもしれないし、『位置情報だけ』ではないかもしれないからレヴに試させる。実際に『位置情報だけ』とは言ってないしな。
「え、…はいはい、わかりましたよマスター。」
レヴは話し半分で聞いていたのか最初は突然の俺の命令に反応する。ブレスレットを眺めたのちにもう反抗期は終えたのか、いつものようにわーきゃー言わずにブレスレットを装備した。
「これでいいんでしょ。マスター。」
レヴは片腕に着いたブレスレットを俺に見せながら言ってくるが、俺は追加の命令をする。
「いや、ダメだ。もう1個着けろ。なるはやで。」
「………え!?ちょ、おま、やめ…」
ゼレギスが目を丸くさせ、慌てて止めさせようとするがもう遅い。レヴの両腕にブレスレットが着けられる。ゼレギスが頭を抱え、ため息をつく。
「はぁ…、それ、いくらすると思ってるんだ。」
「さぁ?高いの?これ。」
もちろん高いことは知っている。図書館通いしていたときについでに魔道具についても調べていたから。
この世界に人工衛星は無い。当然、GPSというのも無いから位置情報を知るというのは貴重品になる。
貴重品ではあるがこのタイプは用途が限られてくるし、この魔道具は外しても持ち主に戻ってくるという『呪い』が掛かっている。
そしてその『呪い』は『カギ』がなければ解除…もとい解呪はできないし、『カギ』の正体はそれぞれ違うもので、解呪したらもう一度呪いをかけ直してカギも新たに作らなければならないため、めんどくさいし何より金がかかる。
このブレスレットは冒険者ギルドにそう何個も何個も置いておけるような代物じゃない。さぁ、どうするよ。ゼレギスよ。
「…着けちまったもんはしょーがねぇ。まぁ、お前さんの奴隷でそいつを売らなければお前さんと一緒にいるか。…そいつを絶対売るなよ。」
ゼレギスが渋い顔しながらレヴを売れと言ってくる。今のところ金に困ってないから別に売る予定は無いがこう売れと言われると…な。
「え!?マスター、私売られるの?」
さすがギャグ担当、勘が鋭いな。俺は残りのカプチーノを飲み干し、依頼の束を手に取り立ち上がる。
「今のところは売る予定は無いよ。これ明日から消化していくからもう帰っていい?…今日はダンジョンマスター倒してきたから疲れてるんだ。んじゃ、レヴ行くか。」
「え!?ちょっと!『今のところは』って部分は何よ!…って、聞け、マスター!待ってよ、マスター。」
俺は時間的に魔石鑑定が終わった頃合いかなと思い、話を切り上げる。
-バタンッ
扉が閉められゼレギスと秘書だけが残り、ゼレギスは俺のセリフを秘書に聞き返す。
「…あいつ今、『ダンジョンマスターを倒してきた』って言わなかったか?」
「はい、言いましたね。」
「ほんの数時間前に冒険者登録したやつが?」
「…はい。そのようですね。」
「この辺のダンジョンといやぁ…ツィオークか?いや、でも、まさか…。」
「ツィオークダンジョンならここから一番近いです。ただ…。」
「そう、ただ、50階層のダンジョンなんだよな。俺が現役の頃で4人パーティー3チームで3ヶ月掛かってダンジョン踏破できたけどよ、あそこのダンジョンマスターは何度挑んでも倒せなかったし、俺たちを殺さないよう手加減されていた。」
ゼレギスはソファーの背もたれに体重をかけ、天井を仰ぎ見る。
「…ああ、それで上には上がいるとわかって、諦めて前から誘われてたこのギルド職になったんだったっけな。」
「それ、もう何度も聞きましたよ。マスターさんはそのさらに上ってことですね?」
「そうだな。…ところでなんであいつのハンター名が『マスター』なんだ?」
「さあ?なんででしょうね。」
二人して小首を傾げ、秘書が手元の資料を何気なくめくる。
「あ!」
「ん、どうした?」
「申し訳ありません。どうやら間違って『魔王城制圧の依頼』もあの依頼の束の中に紛れこんでしまったようです。今すぐ取り返しに行きます。」
慌てて扉を開けようと駆け出す秘書。ゼレギスが止める。
「いや、別にいい。普通のやつならおかしいと気づいてむこうから依頼書持ってくるだろ。そんな依頼。」
確かにそうだ。あの依頼の束の中で一番常軌を逸している。軍やギルドという大部隊に依頼するならまだしも、個人がやれるような依頼じゃない。普通に気付いて「変な依頼があった。これは無理だろ。」とかなんとか言ってくるに違いない。なら、まぁ、大丈夫かな。と、思い追いかけるのを止めた。
-第3章・魔王城蹂躙の始まり-
次話9/27(金)17:00投稿
コードヴェインが楽しみだ




