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HRが終わりざわつく教室。
どこか寄り道しようと話しながら、教室を出ていくクラスメイト達の流れに逆らい、私は窓側一番後ろというベストポジションの席にいる、朱里に声をかける。
「やっと一週間が終わったね。さっさと帰ろ」
「ごめん、今日は湊先輩と一緒に帰るから優奈とは一緒に帰れない」
「ふぅん……一緒に帰るだけ?」
「先輩の家に遊びに行く」
朱里は赤くなった顔を俯かせながら小声で話す。
「照れてる朱里も可愛いね」
「ちょっと……子供扱いしないでよ」
丁度いい位置にある朱里の頭を撫でる。
可愛い。世界一可愛い。
こんな感情を私が朱里に抱いていることを朱里は気付かない。
朱里の可愛い一面を引き出しているのが私ではなく、先輩ということには若干、いやかなり不満はあるけど……。
「了解。独り身は一人寂しく帰るよ。オトナな朱里は先輩と楽しんで。色々ね……」
「……っ! 優奈のバカ! 変態!」
朱里は顔を真っ赤にして教室から走って出ていく。
「朱里は本当にからかいがいがあって可愛いな」
さて、私も早く帰って仮眠を取らなきゃ。
今日は金曜日。明日から休みだ。
どうせあの人は眠らせてくれないから。
プルルルルとスマホが鳴る音で私は目を覚ます。
スマホを見るとやはりあの人からの着信だった。
私が電話に出るつもりがないことをあの人も分かっているからすぐ切れた。
要件は分かっているから問題ない。呼び出しだ。
時刻は22時。いつもより遅い呼び出し。
遅くなった理由を考えたら少し辛くなった。
シャワーを浴びたり、身支度を整える。
気は進まなかったけどあの人の家へ向かう。
あの人の家まで10分ほど。
毎回、この10分はとても長く感じる。
着いた。着いてしまった。
インターフォンを鳴らそうとすると、それよりも先に、玄関のドアが開いた。
「待ってたよ。いらっしゃい、優奈」
私の想いは報われなくてもいい。
好きな人にはいつまでも幸せでいてほしい。
好きな人が幸せになる為なら私は何でもする。
たとえ、その人を裏切ることになったとしても。
「こんばんは、湊先輩」