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「結婚式と卒業式の同時進行は大変でしょうが、頑張りましょう」


そう言って優しく頭を撫でられると、嬉しく思ってしまう。


「卒業式よりも、結婚式の方が大変だわ。いろいろ決めなくちゃいけないことは多いし」


「そうですね。お互い、権力者の家に生まれると大変なものですね」


「それがわたし達の場合、×2だもんね」


結婚式は互いの身内だけで行うものの、披露宴はそうはいかない。


もろもろの事情で、結婚式&入籍は3月中旬、披露宴は3月下旬となる。


…卒業式は3月上旬なので、3月いっぱいは本当に目が回ることが簡単に予想がつく。


なので今のうちに細々としたことは決めておかなきゃならない。


4月からは大学生&親の会社の見習い&人妻になるのだから、仕方無いとは言え…。


「何だか今から疲れてきたわ」


「なら会社のお手伝いの方は、やめた方がいいのでは? ご両親も大学を卒業してからで良いと言っていたではありませんか」


「跡継ぎとして、それじゃあ遅いのよ! いくら先生を婿にもらうと言っても、事実上はわたしの方が上なんだもの」

ウチの親の会社なのだから、実の娘であるわたしの方にいろいろ行ってしまうのはしょうがない。


いくら優秀な婿を取るからと言って、ぐうたらしていられないのだ。


「なら頑張りましょう。私もできるだけ、お手伝いをしますから」


「うん」


肩を引き寄せられ、わたしは逆らわず先生に身を寄せる。


この優しさには弱い。


先生は厳しい時は厳しいけれど、優しい時はスッゴク優しい。


コレがいわゆる、アメとムチだろうか?


わたしはすっかり先生に夢中になっているのだから、効果はあったな。


でも先生いわく、わたしは気ままなタイプなので、振り回されっぱなしなのだと言う。


自覚はないけれど、確かにダメと言われても、一度決めてしまったことは貫き通すタイプだ。


そういうところで、先生は振り回されているのだと言う。


まあお互い様、ね。


先生の体にすり寄ると、頭を優しく撫でてくれる。


何にも言わずとも、してほしいことはちゃんとしてくれる。


じっと上目遣いで見つめれば、キスしてくれる。


「んっ…」


先生の首に手を回し、膝の上に座る。


「…ふふっ。どうしました? いつもより甘えたがっていますね」


そう言う先生の表情は、甘くて優しい微笑。


「ん~。そういう気分なのかも?」


先生の微笑に酔いながら、今度はわたしからキスをする。


薄く唇を開き、より深くキスをする。


「んんっ…」


わたしを抱き締める腕に、力が込められる。


うっとりキスに酔いしれると、疲れも一気に吹っ飛ぶ。


結婚後は一緒の部屋になるわけだけど、どうせ今だって時々はお互いの部屋に寝泊りしているワケだから、あんまり環境は変わらない。


その変わらなさを、良いかとも思う。


先生にプロポーズした時から、わたしの気持ちは変わっていなかった。


15歳も年上だけど、幼かったわたしを子供扱いとして優しかったわけじゃない。


ちゃんと1人の女の子として、扱ってくれるのが嬉しかった。


だけど最近、ちょっと不安になる。


このまま結婚しても良いのかな?って。


贅沢な悩みなんだろうか?

「はぁ…」


などと悩んでいても、周囲は結婚式に向けて動き出している。


最早わたし1人が拒否しても、止まることはないだろう。


…いや、そもそも先生が止めてくれないだろう。


わたしは先生のことが好きだし、先生もわたしのことを愛してくれている。


結婚して、夫婦になって、いずれは親となる。


その想像が簡単に出来てしまうからこそ、悩んでしまうのだろうか?


3歳の頃に自ら決めてしまった将来、後悔はないのだけど…ちょっと物足りなさというか、刺激がない。


いや、彼自身は刺激的な存在なんだけど…。


15年間、ほとんど変わらず先生と過ごしてきたせいだろうか?


ちゃんとした恋愛感情はあるのに、結婚という儀式に心が浮き立たないのは…。


周囲の人達からはかなり祝福されているし、同級生からは羨ましがられている。


初恋相手と結婚できるなんて、憧れの対象となるらしい。


しかも相手がずっと側にいて、尽くしてくれたのだから、普通は文句がないはずなのに…。


「あ~もう! グダグダぁ」


ウエディングドレスのカタログを、思わず宙に放り投げた。


オートクチュールのオーダーメイドのカタログ。


わざわざパリに行って、サイズを測った。


そしてデザイナーに似合いそうなウエディングドレスをいくつか作ってもらって、その中から着るのを決めなきゃいけないのに…。


…見てもあんまり喜べないとはこれいかに…。


「お嬢様、失礼しますよ」


扉をノックし、入ってきたのは先生。


しかしベッドに腰をかけ、床に散らばったカタログを見て、眉をひそめた。


「…どうしたんですか? デザインが気に入らなかったんですか?」


「ん~。イマイチ、ときめかない」


「だからといって、投げてはいけませんよ」


先生はため息をつくと、カタログを拾い上げる。


「先生は衣装、決めたの?」


「私はお嬢様のドレスを見てから決めますから」


先生の衣装もわたしがオーダーしたところと同じところで、注文していた。


先生用のカタログもある。


「…わたしは先生が決めた衣装と合わせたいな」


「ですがお嬢様、ウエディングドレスぐらいはご自分で決めた方がよろしいのでは? 一生に一度のことですよ?」


「…だってわたしじゃ、何が良いのかよくわかんないもん」




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