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空を歩く。  作者: きよこ
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2:奇跡、パート2。

 例えば、ネットとかで『なんとか診断』をやる時、あてはまる性格はなんですか? なんていうのがあって、チェック項目が並んでいるとする。

 あたしはたぶん、『明るい』とか『元気』とか『明朗快活』なんてのに、チェックを入れていくだろう。


 でも、そんなの、性格の一部であって、全てじゃない。

 あたしだって、泣きたい時は泣くし、つらい時は落ち込む。でも、明るいあたしが『当たり前』だから、人前ではけしてそういう姿を見せない。


 負けず嫌いなのかもしれない。

 弱い自分を、わざわざ人に見せ付ける必要なんてないし、それこそ、人前で泣いたり喚いたり、落ち込んだりめげたりしてるヤツをみると、「なぐさめてくれ」ってアピールしてるみたいで、少しだけ嫌悪感を抱いてしまう。

 そういう自分を性格悪いやつだと思うけど、それも顔に出さずに、「大丈夫?」って優しい言葉をかける自分は、相当の八方美人で、腹が黒いと思う。


 だから、あたしは、あたしがあんまり好きじゃない。



 ***



「奇跡、パート2だね」

「え?」


 智美に背中をつつかれて、顔をあげる。

 黒板には席順が次々に書き込まれていっていた。

 今日のHRは席替えだ。今のところは出席番号順で座っていて、当然ながら、あたしの後ろは智美だ。


 黒板には席の順に数字がふられていて、その数字と同じ数字をくじで引いたら、そこがその人の席になる。あたしはすでにくじを引いて、窓際の前から三番目の席に決まっている。


 くじを引いたほーちゃんはひらひらと紙をはためかせて、書記の子に「ここの席」と教えていた。


「あ、うそ」


 智美が奇跡と言ったのもうなずける。ほーちゃんはあたしの斜め後ろの席だったのだ。


「よかったじゃん」

「声でかいから!」

「あんたのが声でかいよ」

「うるさい」


 ほーちゃんが好きだということを、まだ智美にしか教えていない。なんせライバルが多いのだ。おいそれと口には出来ない。

 人当たりがよくて、いつも笑ってるほーちゃんは人気がある。

 笑う時にくしゃっとしわしわになる顔とか、線が細いのに筋肉質な体型とか、女の子に好かれるのはよくわかるし、それを鼻にかけないから、男の子にだって嫌われない。

 彼がかっこよく見えるのは、欲目ってやつかもしれないけど。



 ***



「あ、後ろ、郁ちゃんなんだ」

「うん。よろしくね」


 席を移動し、振り返ると、すぐ後ろは竹永郁だった。高一のときに同じクラスだったけど、なんとなく近寄りがたい雰囲気を放っているから、そこまで仲良くはなかった。しゃべったことがないわけではないけど、うわっつらの会話しかしたことがない。


「高一ぶりだね。同じクラス」

「久しぶり」


 そう言って、郁ちゃんはにこりと笑った。話してみるとけっこう気さくな子だ。笑うと一気に雰囲気がやんわりする。

 一瞬、ドキッとしてしまった。つんつん尖ったオーラを放つ子からこんな表情を見せられたら、男だったらイチコロなんじゃなかろうか。

 ギャップというか、なんというか。


 郁ちゃんと少し話をして、ようやく席に座り、ふと空を見上げる。

 窓際の席は好きだ。特に春先なんかは、ぽかぽかの陽気が心地良い。

 あ、でも危ないかもな。受験生だっていうのに、授業中、陽気に負けて寝てしまうかもしれない。

 

 皆、自分の席に移動が終わって、めいめいに挨拶が終わった頃、斜め後ろから彼の声が聞こえてきた。ぼんやりしていた思考が、あっという間に後ろに集中する。


「竹永、古文の授業の時、俺が当てられたら、答え、教えろよな」


 聞こえてくる声に、心臓が高鳴る。

 ほーちゃんとは一度も同じクラスになったことがない。

 こんな間近で彼の声が毎日聞けるのか。その内ドキドキのしすぎで死亡してしまうんじゃないだろうか。

 死因。トキメキ死。


「嫌だね」


 郁ちゃんのさらりとした冷たい反応に「あたしだったらYESって答えるのに、ちくしょー!」と雄たけびを上げたくなる。

 後ろを振り返って、「郁ちゃん、席変わんない?」と言いたくなるのを必死に押さえる。


「冷たいやつ」

「うざいやつ」


 二人の会話に、つい苦笑しながら振り返ってしまった。なんか、なにげに会話がかみ合ってるっていうか、リズムがあってるっていうか……。


「こいつ、どうにかしてよ」


 郁ちゃんは心底嫌そうに眉間にしわを寄せて、あたしに訴えかけてきた。「じゃあ、席変わわってあげようか?」と言いそうになるのを喉の奥でとどめて、首をかしげた。


「ほーちゃんは、誰にもどうにも出来ないよ」


 わかったような顔をして、彼に「ね?」と目配せしたら、目が合った。目配せしたのだから、合って当然なんだけど。


 ふっくらした唇から、笑みが零れ落ちる。あたしのセリフに反論したそうな、苦笑交じりの笑顔。


 顔が赤くなるのを自覚して、慌てて前に向き直った。

 机の上に置いた両手をきゅっと握りしめる。

 ほんのささいな会話が嬉しい。なのに、どことなくちくちくと刺さる。


 後ろの席で、会話は続く。

 郁ちゃんみたいな、話しかけにくいタイプの子にだって、ほーちゃんは気後れしたりしない。

 冷め切った郁ちゃんの声と、楽しそうなほーちゃんの声。


 

 振り返らなければ、彼と会話をかわせない。

 あたしから行動しなければ、何も起こらない、この場所。


 芽生えるのは、ほのかな嫉妬心。ちりちりと小さな炎が燃えていることに、あたしは気付かないふりをする。



 ***



 オレンジに染まる教室の片隅で、泣いている彼を見た。

 高二の夏のことだった。

 あれは、何の涙だったのだろう。

 いつも笑っていた彼が、涙を流していたのは、なぜだろう。

 忘れられない記憶の一ページ。

 刻まれたオレンジの光。

 彼に恋をした、瞬間。







アルファポリスの青春小説大賞にエントリーしています。

こういう機会はそうそう無いので、力試しです(笑)


面白いと思えたら、ポチリと押していただけると嬉しいです!


明日も更新いたします。


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