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空を歩く。  作者: きよこ
26/29

25:暴力反対。

 ボーリングも終わって、皆でご飯を食べた後、解散となった。

 ほとんどが駅に向かうから、適当に分かれて談笑しながら歩き始める。


 三人で並んで歩いたら、後ろからぐいっと腕を引っ張られた。歩道をさえぎっていたことを、見知らぬ誰かに「邪魔だ」とどやされるのかと思って、ヒヤヒヤしながら振り返ると、智美がいた。


「なんだ、智美か」

「ちょっといい?」


 険しい表情をした智美が、そのままあたしの腕をぐいぐいと引っ張る。


「やばいよ」


 クラスの皆と距離を取って、智美はぼそりとささやく。


「さっき、駅行かない子達と別れた時さ」

「うん」

「愛美と朝子が、郁ちゃん捕まえてた」

「え?」


 愛美も朝子も学校の近くに住んでいるから、駅を使わない。郁ちゃんは駅を使うから、あたし達の集団の中にいるはずなのに、姿が見えない。

 てんてんばらばらで歩いていたせいで、全然気付かなかった。


「どうする?」


 どうするって、探した方がいいに決まってる。

 カラオケに行った時の、愛美の鋭い視線を思い出してぞっとする。嫉妬に燃えた女の目ほど、怖いものはない。


「行こう」


 あたしがうなずくと、智美は「あんたのそういうところ、好きよ」と笑った。


「あっちの道に入っていったの見たよ」


 智美の指差す道を小走りで進みながら、狭い裏道や店の裏側を丹念に見ていく。


 少し進んで、猫の額ほどの小さな公園を見つけた。生垣で覆われ、中の様子はよく見えないが、生垣の隙間から制服のシルエットが見え隠れしていた。

 

 回り込んで入り口を見つける。夕暮れすぎの公園には子供の姿は見えず、女の子三人が向き合う形で対峙していた。


 仁王立ちする愛美と朝子。二人ににらまれる形で郁ちゃんがいた。



 郁ちゃんは片手で頬をおさえていた。その手の隙間から、頬が赤く染まっているのがわかる。

 郁ちゃんの前に立つ愛美が、右手を震わせていることから、愛美が叩いたのだと悟った。


「馬鹿にすんな!」


 唾が飛ぶ勢いで、愛美が叫んでいる。郁ちゃんはまっすぐ愛美を睨んで、微動だにしない。


「ふざけんなよ! 尻軽女!」


 また飛びかかろうとする愛美の肩を朝子がつかんで押さえている。

 暴れる愛美を押さえるのは朝子一人ではきつそうだ。


「何が好きになっただよ! さんざんほーちゃんのこと冷たくあしらってたくせに! 今頃になって好き!? なにそれ!? 馬鹿にすんじゃねえよ!」


 腕を振り回した愛美の爪が、朝子の頬を引っかく。一筋赤い線が走って、すぐにみみず腫れになる。愛美はそんなこと一切気付かず、罵声を浴びせ続ける。


「何してんだか」


 智美が呆れたようにため息をついた。


「あたし、行って来る」


 図々しいことをしようとしてる。女のケンカの仲裁なんて初めてだ。しかも、こんな思いっきり揉めてるところに乱入するなんて。


 公園の入り口から堂々と三人の場所まで進む。

 あたしの姿を見つけた朝子が、目を見開いてあたしを見た後、救いを求めるように声を出さずに口を動かしている。


 輪の中に割って入り、愛美の前に立った。いきなり現れたあたしに愛美は驚いて、一瞬黙る。


「なにしてんの?」


 極力明るい声色で声をかけたけど、場が和むはずもない。ちょっとまぬけ。


「なんで晶子がいんの!?」

「なんでだろう。女の勘?」


 どうせケンカするなら、もっとわかりにくい場所ですればいいのに。こんなあけっぴろげな場所じゃ、見つからない方がおかしい。


「やめときなよ、こういうことは」

「……あんたには関係ないじゃん」

「関係ないけど、見て見ぬふりは出来ないよ」

「なに正義感ぶってんの? 気色悪っ」


 首の後ろをぼりぼりと掻いて、「ああもう」とため息をつく。


「あのさあ、郁ちゃんにあたってもしょうがないじゃん」

「はあ? 晶子に何がわかるの? うざい、まじ消えて」

「こんなやり方したって仕方ないって言ってんの。郁ちゃんに不満ぶつけてすっきりすんの?」

「あんた、むかつく」

「あたしはあんたにむかついてるよ」


 バッと風が起こる。スローモーションのようにはっきりと愛美の動きがわかった。でも、あたしは動けない。


 振りかざされた愛美の手。広げられた手の平があたしの頬にむかって落ちてくる。

 痛みを先に想像して、口の中に鉄臭い匂いが広がった気がした。

 噛みしめた奥歯がギリッと音を立てた時、頬に衝撃が走った。

 痛みよりも先に、目の前が白く光った。頬全体に広がる熱がジンジンと疼く。


「正義の味方気取りかよ! まじうざい!」


 歯の隙間から息を吸い込む。奥歯を噛みしめたおかげで、口の中は切れたりしてない。

 唾液を飲み込み、足に力を込めた。

 そのまま一歩踏み出し、愛美に迫る。愛美があたしの勢いに押されて一歩退こうとするから、襟をつかんだ。


「暴力反対」

「離してよ!」

「離さない」


 人の胸倉を掴むなんてこと、初めてする。でも、温和なあたしだって、さすがにキレそう。

 なんで叩かれなきゃいけないわけ?


「郁ちゃん、帰っていいよ」


 後ろにいる郁ちゃんにそう声をかける。

 愛美の胸倉を掴んだ上に睨んだままだから、郁ちゃんがどんな表情をしているのかはわからない。

 だけど、郁ちゃんが動き出す様子がないのは、後ろの気配でわかった。


「智美。郁ちゃん、連れて帰って」


 公園の入り口にいたはずの智美は、いつの間にかあたしの近くまで来ていた。

 目配せしてニッと笑いかけると、あたしの真意を悟ってくれたのかうなずいて、郁ちゃんの元に寄っていく。


「郁ちゃん、行こう」

「嫌」

「ここは若い者同士でどうぞ、ってことでさ」


 お見合いかよ。


 緊迫した状況だっていうのに、智美はのん気だ。そこが智美のいいところだけど。


「でも」


 渋る郁ちゃんに、あたしは「若い者にまかせてよー」とおどけて見せた。おどけてるけど、胸倉は掴んだままだから、おかしな光景になってしまっている。


「朝子も行こう。ほら、二人だけにしてあげようぜ」


 歩き出した朝子と智美。郁ちゃんも観念したのか、すっと足を動かしたが、すぐに振り返ってきた。


「愛美」


 郁ちゃんの少し低めの声が公園に響き渡る。


「あたし、間違ったことなんかしてない。だから謝らない」


 愛美の顔色がさっと青白く変わり、口がへの字に歪んでいった。


「あたしだって、謝らない!」


 声を震わせて叫ぶ愛美に向かって、郁ちゃんは苦笑する。


「それでいいよ」


 愛美の瞳から涙が次から次へとこぼれていった。


 郁ちゃん、かっこいい。

 敵わないな、と思ってしまった。




女同士でこんなケンカしたことありますか?

私は無いです(笑)


でも、思いっきりケンカするくらい言いたいこと言い合うのはよいことだと思います。たぶん。

言いたいことを言えない世の中はポイズンですから(笑)

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