序章2
「みんな、もし、えーと、た…なか君?だったわよね、が言ってたようにあの旧校舎に冴子が現れたって言うなら私はその真相が知りたい。生きているにしろ、…死んでいるにしろ、もし幽霊として出たとして、そこまでして冴子が何を伝えたいのか私は知りたい。」
放課後の教室。白石と特に仲のいい子達が真剣に聞いている
そこには先程の悲しんでいた白石はいなかった。
凛とした表情に戻った白石は決意をその目に宿して宣言した。
「だからみんなに協力して欲しい。真相を知るために旧校舎に真夜中に行こうと思うの。少しでもいいわ。七不思議に詳しい人はいない?いたら協力して欲しい」
この学校の七不思議は実害があったものまである。
走る人体模型に襲われガラスで手を切ってしまった生徒がいたり、この七不思議で1番危ないと言われる首吊り女教師は見たら死ぬと言われているほど危険と噂は流れている。ただあったものはいない。死んでいないからだ。
肝試しに使っていた七不思議だったが実害がでてから誰もやらなくなった。
そんな七不思議の謎を、いくらマドンナが宣言したとしてもすぐにはいとは言えるものでなかった。
「あー、彩女。気持ちは分かるけれど本当に七不思議はやばいんだって。危険だよ。」
山野遥は椅子の上に足をのせマニキュアを塗り終えてから危険性を提示した。
「遥、分かってるの。でも私は知りたい。誰でもいい。七不思議に詳しい人はいない?」
沈黙の中、手を挙げた人物がいた。
気弱そうな三つ編みの女の子だ。
丸いメガネが特徴的で、弱々しく見上げる瞳は薄いスカイブルーの色をしていた。カラーコンタクトらしい。
「アリス!来てくれるの?」
アリスと呼ばれた女の子はその黒の三つ編みをこれでもかと振りまくった。
「わ、私は、無理。だ、だけど、華月くんなら、知ってると思うわ」
ザワザワと周りが騒ぎ出したのを黒目は感じた。
あー、あいつか。と、華月、四ノ宮華月を思い浮かべた。
「四ノ宮君ね!って、あれ、四ノ宮くんは?」
「四ノ宮なら今日は休みだ。というか…ずっと来ていない」
委員長は少し目を伏せる。赤松の脳裏に昔の四ノ宮華月が思い浮かんだ。
四ノ宮華月。彼は大人しく目立たない男子生徒だった。別段体力があったり頭が良かったりする訳では無いが、いつも気遣う優しさが彼の特徴と言えるだろう。そんな彼はある日を境におかしくなった。それは高島冴子失踪事件だ。
ひそかに噂されているのは高島と四ノ宮は付き合っていたんじゃないかと言われている。
そんな噂がたつには理由がある。火のないところに煙が立たないのと同じだ。
高島が失踪してから数日、四ノ宮は授業だろうと、部活や帰り道でも構わず叫び始めたり、意味の分からないことをブツブツとずっと喋っているのだ。こうなれば高島が失踪したショックでおかしくなったと思うしかない。でも、それはあまりに異常であった。
四ノ宮自身もよく高島の名前を連呼していた。
これが起因してそう言われているわけだが、ある日を何かきっかけがあった訳じゃないがパタリと学校に来なくなった。死んだとか不謹慎な噂は経つのだが普通に道端で発狂している四ノ宮を見た学生はいるのだから死んだなんてことはないと言える。だが…
「それに、四ノ宮は聞いても無駄だと思うぞ。
もうまともに話せない。」
「どうして?」
「正確な所は分からないが高島さんが失踪したショックで、その、なんて言うか。少しおかしくなってしまったんだ…。」
「…」
「なら、俺がついて行くよ!」
手を挙げて高々と宣言したのはバナナを食べる猿だった。
「田中くん。」
「怪談はよくわかんねぇけど、白石さんは俺が守るぜ!」
キメ顔を見せていたが既に白石さんは見ていなかった。ショックを受けているよそで山野が遮るように発言する。
「彩女。四ノ宮くんに逢いに行くの?」
「ええ、まずは七不思議を知る必要がある。そのうえで七不思議と関わっているかもしれない冴子の謎を解く。」
そんな決意を山野は受け止めたのかしずかに頷いた。
「危険だから止めたいけど、もし危なかったら黒目君が守ってくれるわ。」
黒目は突然名前を呼ばれて飲んでいた牛乳を吹き出し、目の前でバナナ片手に撃沈しているさるに吹きかけた。
「なんで俺が?」
「だって黒目くん柔道とかテコンドーとかキックボクシングとかやってるでょ?それを活かす時がきたのよ!」
「いや、幽霊にそんなの効かないと思うけど。」
「黒目くん。ありがとう。」
ものも言わさぬキラキラした目で見つめられる。
「…はぁ、まあ、良いけど。四ノ宮の所には自分で行けよ。俺はその七不思議だけついて行くよ、」
「ありがとう。助かるわ。今夜1時に校門で会いましょ」
黒目は成り行きでついて行くことになり、多少不服そうだがそこまで悪い気はしなかった。
「じゃあ、田中くん。行きましょうか。」
「よっしゃー!」
2人は四宮の家に向かうことにした。
「俺は帰ってひと眠りするか…」