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さえこさん  作者: 古木花園
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序章

黒目秋人は久しぶりにみた女性に目が釘付けになっていた。昔、この学校のマドンナとも言われていた女性は、親の突然の転勤でh県に引越しになってしまった。その日からもう会えなくなるだろうと思っていたのに、突然、舞い戻って来たのだ。

舞い上がる気持ちもあったが、別段表には出さず内側の気持ちだけ高ぶらせていた。

そんな気持ちをよそに、猿顔の男がにやけづらで黒目の机に無作法にすわった。


「おい、な、なんだよあの美人は!?皆知ってるのか?」


「そうか、田中は白石が転校した後にきたんだったな。前まで中学も一緒で高校に入る前くらいに転校しちゃったんだよ。」


間抜け面をさらす丸坊主の男、田中 洋一は転校生だ。よその県から引越してきた、一言で言うなら「馬鹿」だ。

そんな田中は興味津々に白石を見る。

なぜ彼が白石に直接話に行かずわざわざ黒目の所にきて白石について聞いているかと言うと、いま、白石の周りには近寄れない人集りが出来ているからだ。

それは仕方ないことでもある。昔のマドンナが転校したときショックを受けた人はとても多かったが、戻ってきたことのショックはそれの数十倍であろう。もちろんいい意味でのショックではあるが。


「白石さん!おかえり!」

「マドンナが戻ってきたァァ!」

「な、夏だけど、春が来た…」


野太い声援もあるなか、女性の声も勿論おおいい。

彼女は美人なだけではなく誰とでも仲がよかった。それは彼女の性格に起因しているのだろう。裏表がなくすごくさっぱりとした女性だからだろう。

いまの彼女を囲む人集りがそれを証明しているのだろう。


「みんな元気そうで何よりね。遥、背が伸びたんじゃない?」


「ふふ、でしょ?私だって成長するのです。」

背が伸びたことを言われて胸をはる小さい女の子は金髪で少し濃いぎャルメイクをしているが、その実、彼女はギャップ萌を推しているため、ギャルっぽいのに優等生のというギャップを目指しているらしい。

ちなみに張った胸は無いに等しい。


「それでもみんな相変わらずで良かった。少し安心したかな。」


「そんなに変わったりしないよ。みんな前のまま」


その言葉を皮切りに白石は周りをクルクルと見回した。そして、そのプルんと濡れた唇を開く。


「…冴子、冴子は休み?教室にいないけど。」


それは言ってはならい禁句を口にしたかのような重たい空気が場を飲み込んだ。

先程までの騒がしさは嘘のように静寂を讃えている。

黒目は立ち上がり白石の近くまでよる。


「白石さん。君は高島さんと仲が良かったからもう聞いていると、思ってんだけど。知らないなら教えよう。」


白石は大きな瞳を少し震わせた。


「高島は2年前、高一の時に失踪したんだ。…なんの前触れもなく、突然ね。」


「失踪?冴子が?…なんで。」


ショックを隠しきれないのか揺れる瞳が動揺を見せていた。彼女が動揺するのも無理はない。

何せ彼女と高島冴子は親友と言えるほど仲が良かったからだ。

2大美人とも言われるほど高島冴子も綺麗な女性だった。白石がかっこよく綺麗な美人だとすれば高島は愛らしい可愛い系の美人だった。

そんな高島の突然の失踪。

白石はそれまでの彼女の経緯を質問し、答えたのは黒縁眼鏡が良く似合う赤松浩平だった。

整った顔立ちでイケメンだ。

そんな彼は高島のことを学級委員として、よく気にかけていたからとそれまでのことを丁寧に答えて言った。


白石が転校した日をきっかけに彼女は太陽を失った花のようにだんだんと衰弱していったのは目に見えてわくるほどだった。余程ショックだったのかご飯もろくに食わず少しずつ痩せていくのは痛々しかった。それでも気丈に振舞っていた彼女は体とは別に元気なのだと錯覚させられるほどでもあった。

だけど、突然の失踪。

学校が終わり高一の冬休みに入る1日前に家に帰っておらず、両親が捜索願を警察に出したところ学校の旧校舎の裏にある山の入口に彼女の上履きが揃えて置いてありその上には紙が1枚置いてあった。

そこには「探さないで」の文字。

小規模な町だが山はその日吹雪が吹き荒れて、連日町の人と警察で探したにも関わらず痕跡すら見つからなかった。この話は大きくない町だからこそ、すぐに広まった。そして、みんなが言っていた。白石さんを探しにh県に行ったんじゃないだろうかと。

そして、今年、高島の両親も捜索を取りやめにしたという。


聞き終えた白石は溢れ出る涙を押さえきれずポロポロとこぼしていく。その肩を女生徒達が支えてあげる。

こぼれでる涙を抑えながら。白石は何事かを呟いた。

きっと高島の身をあんじているのだろう。

そんな暗い雰囲気は田中の一声で急激に終わりを告げる。


「おれ、その高島さえこさん。見たぞ?」




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