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マーメイドは地上に夢を見る  作者: karoha
幼少期編
2/3

卵の中にて

 

 温かい感覚だけがあり、身体を持った生き物として意識があることを認識する。

 ただ、目の前は真っ暗だ。

 先ほどの白い空間とは違い、身体に抵抗がある。

 その感覚に安堵しつつ、目が開けられないことに焦りを感じる。

 身体の感覚はあるのに、視覚で捉えることができない。

 目を開けられないというより、そういう器官がないといった感じだ。


 もしかして、目がない生き物という事もあるか。


 不安が増幅する。

 てっきり、虫とかになったとしても目は見えるだろうと思っていたため、この可能性は考えていなかった。

 目が見えない生き物だった場合、記憶がないほうがよいのではないだろうか。

 逆に生前の記憶が邪魔をしそうだ。


 とりあえず、身体の感覚はあるため、動かそうとする。

 しかし、周りになにかあるようで、思うように動けない。

 くるくると回るようになにかの周りを動くことしかできなかった。


 これは、なんだ?


 人間だったらへその緒もあるため、ここまで自在に動けないだろう。

 これは、殻か?

 現状からはそうとしか考えられなかった。


 何に生まれ変わったんだ?

 両生類?爬虫類?鳥類か?昆虫ということもありえる。

 ただ、人のような哺乳類ではないとわかり、愕然とする。

 記憶があっても文明のある生き物でないと快適に過ごすというのは難しいだろう。


 前途多難であった。


 -----


 あれから三日くらい経った。

 卵の中はそれなりに快適だった。

 初日にしばらくすると口のような器官が動かせるようになり、そこから卵の中にある栄養素を吸ったり吐いたりできた。

 これがかなりおいしい。

 舌があるわけでない無いので、味がしているというわけではないが、脳に直接旨味が広がるような感覚だった。


 栄養素を取り入れ続けていると、身体の変化は早かった。

 相変わらず目は見えないが、手のように動かせる器官と足のように動かせる器官ができた。

 卵は柔軟性があるようで、身体が大きくなるのに合わせてゴムのように伸びた。

 この時点で鳥類や爬虫類といった卵殻が固い生き物が除外された。


 一度寝て、目覚めた時には神経が身体中に行き渡ったようで、細かな揺れを感じられるようになっていた。

 ここまで成長した時点で自分が漂っていることがわかった。

 ふわふわと時たまくる流れに揺れている。

 流れの速い振動を感じないため、池や湖のようなあまり流れがない場所のようだ。


 両生類か魚類に生まれ変わったようである。

 身体は成長するが、ほかにすることもできることもないため、寝て、起きてを繰り返していた時だった。

 唐突に一つの神経がつながった感覚があり、真っ暗であった世界に灰色が混ざってきた。

 そして、淡く輝く光が目に飛び込んできた。


 生まれ変わって一番の安堵であり喜びの瞬間だった。

 目ができた。

 世界を自分の目で見れることがこれほど頼もしいことだと思わなかった。

 目が馴染んでくるのを待ち、辺りを確認する。

 感覚としてはわかっていたが、やはり丸まるように卵の中にいた。


 卵は半透明なようで外が覗けた。

 ぼやけたものではあったが、やはり水中にいるようだった。

 周りに何もない広場のような場所に卵が何個か置かれている。

 すぐ隣に同じような卵がある。

 その卵にも自分と同じ生き物が入っているのだろう、離れて見ると卵はイクラを大きくしたもののようだった。

 半透明の中で動く隣の卵には、大きな目があり、発展途上のアンバランスさがあった。

 そして、自分の下にも生えている足だと思っていた部分には沢山の鱗と尾ビレがついていた。


 生まれ変わりが魚だと確信した瞬間であった。

 想像するに前世の人間としての記憶はほぼ役に立たなそうであった。

 自在に動かす手足がない生き物で文明を作るのは絶望的だろう。

 出来そうなことといえば、昔見た魚が主役のアニメ映画のようにカメと友達になる事ぐらいではないだろうか。

 なんにしてもここから出なければ始まらないが、まだ身体が出来上がっていないようだった。


 卵の中で呼吸を繰り返す。

 栄養分が身体に届き、成長の糧になっていくのを感じる。

 早く外に出れないだろうか。


 -----


 それからさらに何日が過ぎた。


 身体が卵の外に出るための準備をしているようで、卵もそのサポートをしているようだった。

 大きくなってきた身体に反比例して卵の殻は薄くなり外の風景がよりハッキリと見えるようになってきた。

 外を観察していて気づいたが、ここは海のようだった。

 魚としての能力なのか、感覚が鋭くなっていくにつれて水の動きを身体で感じることができた。

 激しい海流が前後左右を行き来しており、卵はこの海流に守られるように置かれているようだ。

 早く出たいと気持ちがはやり、卵を破るように押すが、良く出来たもので筋肉のような力を込めるための機能は成長の中で後回しになっているようだ。

 動けども、上手く力が入らずブニブニとしている殻に押されて出ることはできない。

 薄くなった殻はそれでも一定の強度を保っていた。


 ここ数日の日課は隣の卵を観察することだ。

 自分の生まれ変わりがどんな生き物なのかを知るうえで隣の卵は重要な情報源だった。

 しかし、あまり魚類に詳しくないため観察してもなんの魚かはわからなかった。

 鱗は美しく、光に当たると様々な色に反射している。

 透き通るような薄い桃色の鱗で、その奥にコスモスのような美しいピンク色の表皮が見え隠れする。


 美しい魚だった。

 同じ魚なのか疑いたくなるほどだった。

 実際ちょっと疑っている、見える範囲での自分の身体は黒っぽかった。

 鱗はクリアブラックのような色で反射する色も寒色系だ。

 表皮も紫に近い色で全体的に暗かった。

 個体によってここまで差があるのだろうか。


 ますますどんな魚かわからず、混乱するばかりである。


 -----


 それからさらに数日経過して、身体に驚きの変化があった。


 首ができたのだ。


 本格的に自分の知らない生物に変わり始めていた。

 海には未発見の生物が多くいるだろうとは思っていたが、まさかの未発見生物に自分がなろうとしているようだ。


 ぐるりと首を回すと自分の身体全体を見渡すことができた。

 そこにはなじみのある手のようなものが生えている。

 ここから変わるのかもしれないが、水かきのある手のような物体は河童を連想させた。

 まだ筋肉が発達していないため、手を閉じるだけでもかなりの膂力を使う。

 全身が鱗に覆われたままではあったが、見慣れた上体になりつつあった。

 下半身が尾ビレなこと以外は。

 これはRPGのゲームとかで見る魚人なのではないだろうか。

 成長を続ける自分の身体を眺めつつ、そんな思考に至る。


 あの白い部屋で声は一つ下の世界に生まれ変わるといった。

 文明の度合いが元の世界より低いという事以外、生態系の違いなどに思いは至らなかった。

 しかし、世界が違うということはそういう事もあるのかもしれない。


 魚人って喋ったっけ?


 子供の頃のゲームの知識を思い起こすが、ボス以外の敵キャラと会話イベントなんてなかったことを思い出す。

 もし話すことが出来るなら、文明を作ることは出来るのではないだろうか。

 鱗に覆われているが手もある。

 生まれ変わりの生に希望が出てきた瞬間だった。


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