釈明
この国に多数おられるイェゼ・グユエン君のファンの皆様、大変申し訳ありません。
私、トゥーミル・エッカが、ボンヤリと呆けている間に、どうやらイェゼ君は、初めてできた姉を好意的に受け止める内、自然と発生した親しさを、番ゆえの好ましさだと勘違いしてしまったようです。
でもどうかご安心ください。
彼の番が私なわけがありません!!
今からきちんと、彼に思い違いを説いてまいります。しばし、時間を頂きたく願います。
え?ええ、イェゼ君は誰のものでもありませんよ~。
私は姉なんです。そのうち家は出る予定ですし。イェゼ君はいずれ真の番、彼に相応しい伴侶を見つけて家庭を持つでしょう。
そのへんでなーんとなく、凡な私とは疎遠になっていくんじゃないですか?ほほほ…。
はぁ~、また脳内小芝居しちゃった。
ともかく私は、平凡で退屈で争い事のない、穏やかな世界に身を置き続けたい。
望みはそれだけ。
そして、こちら現実では。
勘違いしちゃった貴い血筋の美少年に、抱きつかれて頬と頬を、スリスリされてる真っ最中。
幸せだろうって?
それは屈託がなければの話。
今の私は、断頭台で待機中の気分だから。
普通に姉と弟として、仲良くなった結果なら嬉しかったな。
「イェゼ君ー?ちょっといいかなー?」
しがみつく彼の背中をトントンして注意を引く。
彼は少しだけ体を離し「?」と顔をこちらに向けた。
「イェゼ君は、私を自分の番だと思ったんだよね…?」
まずは確認。これ以上墓穴掘らないように慎重に進めなきゃ。
イェゼ君は大きく頷くと、笑顔で顔を寄せてきて、私の頬に、ちゅっ、って……ぇえええ?!
「!!ちょっっ!なにしてんの?!!」
慌てて彼を押し戻す。
チロっと舌先を出して悪戯の成功に目を細める顔は9歳の子供のもの。
油断も隙もない。
輝かしい彼の生涯を汚す黒歴史を、これ以上作らせてはいけない。
「イェゼ君、誤解してる!私は君の番じゃないから!」
彼はキョトンとした。
その隙に私はたたみかけた。
イェゼ君が仲良くしてくれる訳を考えていた筈が、番について思う内、コーフェ様の番が父だった事の諸々に意識がいってしまった事。
親達の為に、イェゼ君とは姉弟として仲良くしたいと望んでいるなど、時につっかえながら話した。
話し続ける頭の端で、この話が終わったら、がっかりさせた私をもう姉とは呼んでくれないかも、と寂しく思った。