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番ってなんぞや?

“つがい”とは、竜種と呼ばれる特定の人達に現れる特別な存在。竜種が持つ竜の魂が求める、唯一無二の運命の伴侶。


この国は竜種が造り今現在も竜種が統べる土地だから、番って概念はこの国に暮らしていれば誰もが知っている。

但し基本的には、一般人にはほぼ関わりの無いものとしてね?


今の私は、先日コーフェ様がしてくれた当事者からの説明で、一般常識で知ってた時よりもリアルな関係性として判っているつもり。

なので、ぎこちなく頷くと、イェゼ君はすうっと笑顔を消して私から体を離した。手はまだ握られてるけど、真面目な話をする雰囲気になっている。

「コーフェ様が、教えてくださったから…」

「そっか」

イェゼ君は静かに頷いてから、目許を緩めた。

「姉上。お義母さんって呼んでやってよ。でないと、あの人すぐ拗ねるから」

そしてさらっと「家族に入れてやって?」と続けた彼は、とても9歳とは思えない程、落ち着いている。


握られた私の手の甲を、彼の歳の割に長い指がゆるゆると、さ迷っている。ちょっとくすぐったくて、訴えるようにそこに目を落とすと、視線に気づいてフフっと色っぽく笑われた。

こちらの気持ちを解してくれようとしているのだろうか?


「番の事、何て聞いたのか教えてくれる?」

くすぐる指は止めずに彼が聞いてきた。

「え?」

「母さんに聞いたことじゃなくてもいいや。番を、姉上がどう思ってるのか知りたい」


イェゼ君が番と口にする度に胃のあたりが重くなる。


イェゼ君に番で知ってることを話せば、懐かれた事の答になるのだろうか?

でもその前に、彼が番によって被っただろう被害に思考が向かう。


だって、番といえば、コーフェ様がお父さんにプロポーズした原因だったから。


「教えて?」

イェゼ君に促され、私は観念した。

「如何なるものにも覆せない愛、と言えば耳に甘いけど、実際は異常までの執着と独占欲、だって…」

コーフェ様に聞いてから、何度も何度も思い返した言葉を口にすると、彼はうんうんと聞いていた。予想通りの答えだったらしい。

「あとは『相手への愛しさに支配され、番の存在が生きる上での最優先になる』…も、聞いた?」

イェゼ君からの補足に私が頷くと、彼は目を細めて、視線を下げた。

「うちでそれをずっと言っていたのは、親父なんだけどね」

懐かしむように呟かれた情報に、私は返事ができなかった。


父親のグユエン様を親父と呼ぶ、その砕けた呼び方も声音も、彼らの新密度を現していて、私の胃がぎゅっと引き絞られる。


コーフェ様には、離婚の事は気にするなと言われている。

でも、気にしないなど無理な話だった。

『あなたのお父様に出逢い、私は自らの産まれた意味を知った』と、幸せ一杯の笑顔で言うコーフェ様の前で、私は顔が引き吊らないよう耐えるのに、どれだけ苦労したか。


それでも、あの時のコーフェ様の笑顔は輝いていたから、一応は納得して、自身の戸惑いや混乱には蓋をした。

でも、切欠さえあれば、燻った感情は簡単に表に出てきてしまう。


イェゼ君と同じく、私が一方的に有名人として知っていたコーフェ様。


私からすれば、皇妹として、ご立派に国を支えていらっしゃったコーフェ様。


その方の、今生のあてがい扶持が、うちの父なの?!と、声を大にして天に問いたい。


コーフェ様が結婚なさっていらしたグユエン様は、皇族で陰陽宮のトップで、お姿だって本当に素敵で、性格もお優しいらしいのに。

そして、お二人には優秀なお子様もいらして、グユエン様の御一家は、皆の憧れだった。


天に愛された幸運な理想の家庭、国の誰もが規範に思うような皇族所縁の御一家。


その家族の枠が、コーフェ様が番を見つけたことで壊れてしまった。


父と再婚の為にコーフェ様はグユエン様と離婚されたという。

それを聞いて、お父さん、一体どこの何様よ?!と思ったのだ。

コーフェ様を別れさせたのが私のお父さんだなんて。


私は父が大好きだ。優しくて真面目で、世界一のお父さんだと思う。

でも、コーフェ様の夫には相応しいような凄い人ではない。


コーフェ様はとっても美しくて、自信に溢れていて、その方がそれ程に望まれるのだから、と再婚に賛成したけど。

後からやっぱり、私は怖くなった。


私が思ったことを、きっと世間も思うだろう。新しい家族は、後ろ指を指される未来しか浮かばない。


私達父娘は、お母さんこそ早く亡くしてしまったけど、穏やかに慎ましく平穏な暮らしをしてきたというのに。

神様、何故うちと分不相応な義母の縁を結ばれたのですか?

何の罰ゲームですか?!


天に向かって大声で叫びたいけど、実行したって唾が自分に落ちてくるだけ。


そして、気づかない振りで無いことにしたかったけど。

すでに、更に深刻な爆弾はすでに、投下されてしまっている。

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