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よく解らない弟。

「姉上だけが、俺を殺せるよ」

隣に座って私にペッタリと張りついた義弟は、うっとりとこちらを見上げて言った。

琥珀に蜂蜜をかけたような稀少な金茶の瞳を煌めかせる美少年からの、謂われなき人殺し認定に、私は顔面が引きつった。

「こ、殺す?!何言ってるの?!あなたとは、さっき初めてばっかりなのに…」

そう、この異常な懐かれっぷりに感覚がおかしくなりそうだけれど、この男の子とは今日が初対面だ。

それも、ついさっき引き合わされたばかり。


彼は父の再婚相手の連れ子。

私と父。新しいお母さんになるコーフェ様と息子のイェゼ君。

コーフェ様と父と私は、一度顔合わせしてたけど、イェゼ君に会うのは今日が初めて。なのに何故、弟になったばかりの男の子に、ほぼ0距離にすり寄られてるのだろう。

ていうか。この子が、こんなキャラだったなんて、驚きすぎる。


今日から私の弟になったイェゼ・グユエン君。

私より三つ年下の9歳。

彼は間違いなく、この国で一番有名な9歳児だと思う。何せ彼は、その有り余る霊力を国から認められ、陰陽宮から冠位を授けられ、子供なのに異界層の守護警邏に就いているという、とんでもない存在だから。

彼は王都の誰もが知ってる有名人だけど、まさかそんな存在と家族になる日がくるとは夢にも思わなかった。

その証拠?に私は、去年の彼の公開任冠式を画塾の仲間達と一緒に見に行った。でも、式の行われた陰陽宮の前庭広場は人で溢れかえり、主役の彼は彼方の壇上にいたらしかったが、私達は人垣に阻まれてその姿を全く見れなかった。

彼は、いかに興味を持ったとて、遠くに見ることすら叶わない人だった。


だから。父の再婚相手が、現皇帝様の妹様と聞かされた驚きより、母になる人の連れ子が“彼”だと思いあたった時の方が、何倍もショックだった。

まさか彼と姉弟になれるなんて!


ただ、彼の名前はコーフェ様が父と結婚しても、うちの姓にはならない。彼の持つ陰陽宮の仕事云々で姓は変わらない方が面倒が無いという理由で、イェゼ君の親権者は実父のまま。なので戸籍上の私達は他人だ。


イェゼ君は世間から、天才というか、異能な傑物と言われている。

でも、目の前にいる男の子は、そんな立派な人物とは到底思えない。

だってこの子ときたら、骨を貰って有頂天になった子犬みたいだもの。

初めに受けた上品な貴族の令息の印象は、もう欠片すら残っていない。


今日の顔合わせ。名乗りあったところで、イェゼ君は優雅な動作で私の側に来た。姿勢がよくて、子供なのに頭のぶれない歩き方は、お祖父様のところで見た西のご領主様みたいだった。それがどうしてワンコになった??


私にしがみついて押し付けてくる頭は、艶々の黒髪。光の具合で紫にも輝く不思議な色の真っ直ぐな髪は、顎のあたりで揃えられている。

綺麗な顔と長めの髪で、角度によっては少女に見えなくもない。

いっそ妹だったら懐かれても、ここまで困惑しなかったかも。


会うまでは、評判から想像した“クールな出来の良すぎる弟”がちょっと怖くもあった。

私は極々普通の12歳の子供だから、特別過ぎる彼が一般人の私を姉と認めてくれるかどうか不安だった。

前にコーフェ様にお会いした時、その事をそれとなく聞いたら「きっと仲良くなれるわ。大丈夫」と微笑んでくださったけど。


新しく家族になるのだから、私も弟とは仲良くしたかった。少しずつでも親しくなれたらいいな、と思ってた。そう、少しずつで良かった。少しずつが良かった。


お互いの紹介の後すぐ、「姉上にお屋敷を案内してもらいたいな。ねぇ、だめ?」と彼に上目遣いで可愛くおねだりされた。

あざといとも取れる可愛らしさに固まっているうち、彼は強引に私の手をひいて、応対の間から引っ張りだした。

廊下で二人きり。親達の目が無い場で、彼ににっこりと笑いかけられた時は、すわ!いよいよ此処で俺様降臨?!とビビったけど、握られていた手を指を絡めるように繋ぎ直され、「姉上の部屋が見たいな。部屋はどっち?」と首をかしげて尋ねられた。


疑問形だけど、部屋公開を拒否られるとは思ってない様だ。

屋敷のあちこちが見たいんじゃなかったの?と頭に過ったが、要望のまま私の自室へ向かった。

見られて困る物もないし、扉を開けると、「お邪魔しまーす」とさっさと私を連れて入り、窓側の長椅子を目指す。

そして、長椅子に並んで腰を下ろしたとたん、いきなりギュウキュウ抱きついてきた。


「姉上の弟になれて嬉しいな」

なんか、うっとりと呟かれたけど。

そこまで喜ぶ根拠は何??

私、なんで気に入られてるっぽいの?

ともかく、とりあえず、ちょっと私から離れてほしい。

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