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9.討伐隊編成

目を覚ますとそこは村長宅の俺が使っている部屋だった。

傍らにはルーナがベッドに突っ伏して寝息を立てていた。

その奥には椅子に腰掛けたまま寝ているニルの姿。

どうやら倒れた俺を看病してくれていたようだ。


力を使った反動で体中が筋肉痛だったが、痛みを無視して上体を起こす。


筋肉痛以外の痛みがないか確認するが、どこも異常はないようだ。一応目視でも確認するが、目立った外傷は見られなかった。

俺は安堵のため息を漏らした。


それに気づいたのかニルが耳をピクリと動かすと、静かに瞼を開けた。

俺の姿に気づいて笑みをこぼす。


「ハヤト。目が覚めたんだね。体は大丈夫かな?」

「ああ。どこも異常はないみたいだ」

「それは良かったよ。ワーウルフを追い払った後いきなり倒れるから、てっきり毒をもらったのかと思ってヒヤヒヤしたよ」


意外だ。ワーウルフは毒があるのか。

一先ず毒をもらってなかったことに安心しておく。ニルには後で詳しい話を聞いておこう。


「俺が倒れてからどれくらいたったんだ?」

「半日くらいだよ」


大体の察しはついていた。

前回力を使って倒れた時も、目を覚ますのはそれくらい経過した後だったからだ。


「結局ワーウルフは逃げて行ったのか?」

「うん。ハヤトが追っ払ってくれたからだよ。ありがとう」

「いや。勝手にあいつらが逃げてったんだ。俺は何もやってない」

「そうだとしても、僕がハヤトに助けられたのは確かだよ。だからお礼を言うのは何もおかしくないんだよ」


ニルの好意を無碍にするのも悪いので、俺はありがたく礼を頂戴しておく。


しかし突然のことで考えてる暇がなかったが、結局ワーウルフは何故村を襲ったのか。

このタイミングだ。先日の誘拐事件と何か関係があるのかもしれない。


「可能性は高いと思うよ。でも今までこんな前例はないからね。なんとも言えないんだ」

「そうなのか。でも関係あるとしたら、ワーウルフを追えば誘拐された子供達も見つかるかもしれないって事だよな」

「そうかも知れないね。今回の件では村人にも数人犠牲者が出たんだ。教会もこの事を重く見て、討伐隊を編成する話が上がってる。今日到着した教会の応援部隊に村人達を加えた混成部隊で、早ければ今日にでもワーウルフを討伐に出かけるそうだよ。またいつ攻めて来るか分からないからね。対処するなら早くってことになったんだ」


俺が寝ている間に随分話が進んだようだ。

教会の人間はすでに到着していたか。

しかしあのワーウルフに勝てるのだろうか。

直に相対してみてワーウルフの恐ろしさを体感した俺には難しいように思えた。


とは言えニルの言う通り、このまま放置しても次攻めてこないとは限らない。

ニルもまともに戦っていたところを見ると、この世界の人間の戦闘力は相当なものなのかも知れない。


「それでね。ワーウルフと直接戦った僕も討伐隊に参加することになったんだ」

「そうなのか。ニルはワーウルフと互角に戦ってたしな。戦力には十分じゃないか」

「あはは。ありがとう。それでね。ハヤトも討伐隊に参加しないかな? ハヤトもワーウルフと戦ったし、最後には追い払ってくれたわけだからね」


おっとそうきたか。


実際ワーウルフを追い払えたのにも心当たりがあった。

恐らく理由はタバコの煙だ。

森の中で出会ったワーウルフもそうだったが、タバコの煙に対してワーウルフは拒否反応を示すらしい。


今回俺を襲ったワーウルフも、俺が煙を吐きかけてから様子がおかしくなった。

背後にいた2体も恐らく投げつけたタバコに火が燃え移ったのだろう。


ただ今回は退いてくれたから良かったものの、逆上して襲われないとは限らない。俺が今生きていられるのは幸運に過ぎないのだ。


ただリシティとの約束。それだけが気がかりだった。

リットを見つけるために協力すると約束した。

今ここで討伐体に参加すれば、その約束を果たすことはできる。

しかしそれは即ち自ら危険に飛び込んで行くことに他ならない。

その事実が俺の決心を鈍らせていた。


「少し考えさせてくれないか……」

「そうだね。危険な話だ。ましてキミはこの世界に来たばかり。僕も無理強いをする気は無いよ」


そう言い残してニルは部屋から出て行った。

ルーナは相変わらずすやすやと寝息を立てていた。





村長の家から出た俺は、モヤモヤの残る気持ちを整理するためあてもなく歩いていた。


あんな騒ぎがあったのに被害があったのはごく一部のようだ。多くの家屋は何も変化がないように見えた。

火事も家々の距離があるからか、延焼は避けられたようだ。


昨日の後始末か、燃え残った木材なんかを運ぶ村人が、慌ただしく通り過ぎて行った。

さすがに何も影響がないと言うわけにはいかないようだ。


暫く歩いて昨日の現場へとたどり着く。

そこには村長や神父、教会からの応援部隊と思われる人間達が集まっていた。


「おお。ハヤト殿。目を覚まされたのか」


俺の姿に気づいた村長が駆け寄って来る。


「お陰様で。この通り無事でした」


俺は体を動かして無事なことをアピールした。

髭で隠れてわかりにくかったが、どうやら村長もホッとしてくれているようだ。


「所でこれは何の集まりですか?」

「それは私から説明するよ」


ノルン神父が背後から声をかけた。それに続いて教会の応援もぞろぞろとついて来る。

白の甲冑を纏った8人の男女。

厳つい風貌の男達が居並ぶ中、明らかに場違いに見えるブロンドのショートカットの女性。

するとその女性が一歩前に歩み出る。


身長は平均的な女性よりもやや高いくらいで、幼さが残る顔立ち。

しかし可愛いと形容するには凛々しさや厳格さが勝っているように見える。

むさ苦しい男達の中にあって、その威厳は誰よりも強かった。


ノルン神父が女性に俺を紹介する。


「キュイゼ。こちらが旅人のハヤト殿だ」

「初めまして。私は教会騎士団第8師団団長のキュイゼと申します」


綺麗なお辞儀にふわりと髪が揺れ、甘い香りが漂って来る。

若いのに丁寧だなとか思ってるあたり、俺も年をとったのかもしれない。

そんな温かい目を向けてるのは他の騎士達も同じで、厳つい男達が緩んだ顔でうら若き少女を見ている図は少し危険な香りがした。


「ハヤトです。よろしく。で、この方達は?」

「そうだったね。彼女達は教会から派遣されて来た騎士団だよ。元々は行方不明の子供達を捜索するために派遣されたんだがね。昨夜のワーウルフの襲来もあって、今は捜索隊ではなく討伐隊を編成しているんだ」


やはり教会からの助っ人だったか。そしてニルの言っていた討伐隊。

と言うことはここに幾人かの村人とニルが加わるわけだ。

そしてもし俺が参加するといえば、同じくであろう。


しかし見れば見るほどこの中に入って行く勇気が持てない。

騎士団団員はキュイゼを除けばその何れもが歴戦の猛者感を漂わせている。

そしておそらく参加メンバーだろう背後に控える村人達も、筋骨隆々のマッチョマンだ。大きな斧を片手で軽々操っていた。


どう考えても俺が入る隙はないように思えるのだが、一体ニルは俺に何を求めているのだろうか。


ただ現実問題、これだけのメンバーであったとしても、直に対峙した俺からすればワーウルフに勝てるのかは疑問だった。

それほど俺の抱いた恐怖心は大きかったみたいだ。

まあ俺の知っている常識とこの世界の常識は違うので、何ともいえないところだが。


すると神父が俺を見て、ニルと同じことを口にした。


「そこでなんだが。ハヤト殿もこの討伐隊に参加してくれないか?」

「ニルからも聞きましたが、俺が参加しても大して役に立ちませんよ。またいつ倒れるとも限らないですから」

「謙遜を。ニル殿はワーウルフを追い返したのはハヤト殿の功績だと言っておったぞ」

「それは……偶々ですよ。どこかから声が聞こえて来たと思ったら、その声に従うようにワーウルフ達が揃って逃げて行ったんですから」

「声?」


神父は俺の言葉が引っかかったのか、少し考えるような仕草をした。

しかしすぐに疑念を振り払うように首を振った。


「もし気が変わったのなら声をかけてください。子供達の捜索もあるので、出発は今日の正午ごろを考えています」

「分かりました。気が向いたら手伝わせてもらいます」


ノルン神父とキュイゼは俺に軽く挨拶すると再び他の騎士達の元へと戻って行った。


きっと俺に戦う力があれば進んで討伐隊にも志願したのだろう。

ただ俺自身が一番、その力がないことを自覚している。

無闇について行って足手まといになるくらいならはじめから行かないほうがいいのだ。


村長はそんな俺を心配そうな顔で見ていた。

きっと気を使ってくれているのだろう。たまたま立ち寄った村でこんな事に巻き込まれて、気の毒に思われているのかもしれない。

本当にこの村の人たちは優しいんだなと思う。

ただ今は、その優しさが俺には少し居心地が悪かった。


ふと見ると少し離れた所に数人の人が寝かされ、その周りを別の村人達が囲んでいた。

みな悲しげな表情を浮かべており、声をあげて泣いているものもいた。

俺は自然とその場へ足が動いた。


そこに寝かされていたのは昨日の襲撃で亡くなった村人達だった。

老若男女、数人の村人の遺体がそこに横たわっている。

両手はへそのあたりに組まれており、顔は拭き取られたのか汚れはなかった。

こう言うところはどこの世界でも同じなんだなと思った。

死者に敬意を払う、と言うことなのだろうか。


昔田舎の婆さんが亡くなった時、棺に納められた姿はこんなだった気がする。

婆さんはピクリとも動かず、ただ俺のよく見ていた穏やかな表情を浮かべていた。

その時、『ああ。人は亡くなるとこんな風になるんだな』とか無感動に考えていた。

けれど見知った人が本当にいなくなる場面は、そんな薄情な俺でも胸に重いものがのしかかったような、嫌な気持ちにさせられた。


不思議なもので、今は知らない人間を前にしていると言うのに、死者を見ていると心がズシリと重くなる。

そんな気持ちに息苦しさを感じる。


何の気なしに俺は目の前で寝ている男の亜人に静かに手を合わせた。

そして他の亡骸へと視線を移した。

一番端の遺体を目にした時、俺は両目を大きく見開いた。


力のない足取りでよろよろとその遺体に近づく。

遺体の前で立ち止まり、俺は膝をついた。


そこに横たわっていたのは1人の亜人の女の子だった。

俺のことをからかった女の子。弟を心配して涙を流した女の子。

そんなリシティの亡骸に俺は、そっと触れた。

まだ血色は残っているが、その体温は非常に冷たかった。

その事実は、リシティがもうこの世の人でないことを意味していた。


本当に不思議な感覚だった。

二言三言、言葉を交わしただけの存在だ。それもこの世界で会ったばかりの女の子。

なのに、こんなに息苦しく感じるのはなぜだろうか。


俺は無意識にリシティの体を抱き上げていた。

周囲の村人の視線を感じたが、その時の俺は全く気にはならなかった。

目から涙が溢れてくる。

ほとんど何も知らない子だったのに、少し話しただけの子だったのに、それだけでその子は俺の中で小さくはない存在になっていた。


体温の亡くなった体を俺はぎゅっと抱きしめた。

それが余計に辛いことだと自覚はしていても、そうすることしかできなかった。


もしあの時、俺がこの子を引き止めていれば、この子は死ななかったかもしれない。

もし俺に力があれば、この子を死なせずにすんだかもしれない。

もし俺が……。


一体何のために俺はこの世界にきたんだ。

俺は何をすればよかったんだ。

この子のために何ができたんだ。


そんな無駄な自問自答を繰り返しながら、結局は俺が無力な事を肯定しようとしているだけなのかもしれない。

そんなことに気づいて、自分が心底嫌になった。


すると1人の亜人が俺に声をかけてきた。


「ありがとうございます。娘のために泣いてくださって」

「リシティの……お母さんですか?」

「はい」


そこにはリシティと良く似た顔立ちの亜人がいた。

ノルン神父が兎人族と呼んでいたやつだろうか。リシティと同じウサギの耳が特徴的だった。


「約束してたんです。弟を探す手伝いをするって。ほんと、少し話しただけなんですけどね」

「いえ。それでもきっと、リシティはあなたと話せてよかったんだと思います。最後にあの子と話した時、喜んでましたから。本当は私が変わってあげられればよかったんですけどね。娘を犠牲にして、私だけ生き残ってしまいました」


そう言ってリシティの母は、力ない笑顔を浮かべて涙を拭った。

2人も同時に子を失ったのだ。

子供も家族もいない俺ですら、それがどれほど辛いことなのかは想像に難くなかった。


俺は抱き上げたリシティの亡骸をそっと元の位置に戻した。

そしてリシティの母に視線を向ける。


「リシティのお母さん。弟のリットは俺が必ず見つけます。だから、安心して待っていてください」

「ですが森に入るのは危険です。第一、あなたはたまたまこの村に立ち寄っただけの旅人。それなのにそんなお願いできませんよ」

「違いますよ。これは俺がやりたいと思ったからやるんです。それに、それがリシティとの約束ですからね。約束を破ったらリシティに怒られちゃいますよ」

「旅人さん……。ありがとうございます」


リシティの母は涙を必死にこらえながら俺に頭を下げた。

伏せたままわずかに漏れる嗚咽に、俺はワーウルフへの激情を強くし、それを無理やり押さえ込んだ。

それを爆発させるのは後にとっておこう。


俺はその足で再びノルン神父の元へと向かった。

そして自分の決心を口にした。


「私たちとしてはありがたいです。しかしハヤト殿の決心は、一体何故ですかな?」


自分から誘っておいて、参加すると言ったら意外と慎重だな。

ひょっとしてまだ俺を疑っているのだろうか。

まあワーウルフを追い返したなんて話の方が信じ難い。先ほど声が聞こえたと言ったこともあるだろうしな。

案外俺を討伐隊に誘ったのも、村に残さず目の届く範囲に起きたかったからかもしれない。


「昨日知り合った子がいたんです。女の子だったんですけどね。その子と約束したんですよ。弟を探してくるって。だから、いなくなった子達を連れ帰ってこなくちゃいけない。そのために討伐隊に参加したいんです」


ノルン神父はその言葉で察したのか、遺体が並べられた方向をチラッと見るとそれ以上何も言わなかった。

しかしキュイゼはそうはいかなかった。


「あなたはつい先日この村に訪れたと聞きます。なのに危険な討伐隊に付いていくとは一体どう言う風の吹き回しでしょうか。先ほどは嫌がっているように見えましたが」

「けれどはじめに誘ってきたのはあなた方の方だったと思いますけど」

「それは……そうですが」

「何もやましい事なんてないですよ。それに、俺が付いていった方が監視もできて都合がいいんじゃないですか?」

「何故それを?」


キュイゼの目つきが鋭くなる。

剣のつかに手をかけ、いつでも俺を殺せるような姿勢をとった。

周りの騎士達の空気もやや引き締まる。

ただノルン神父だけが、いつでも間に入れるよう構えた気がした。

しかし怯む必要もない。何となくだが、彼女が本当に俺を殺そうとしているように見えなかったからだ。

俺はキュイゼの瞳をまっすぐ見ながら言葉を続けた。


「キミに気を使う必要もないかな。まあワーウルフを追い返したなんて、簡単には信じられないだろうからな。ニルは本当に俺を頼ってくれたみたいだけど。教会の騎士達はハッキリ言って、俺を疑ってるんだろ? 誘拐事件があってすぐ現れた旅人。挙句その直後に村がワーウルフに襲われたが、運良く旅人は何事もなく助かった。確かに都合が良すぎる展開だ。裏で糸を引いている人間がいるとすれば、俺は一番怪しい立ち位置にいる人間だからな」

「分かってるじゃないですか。なら自分の罪を認めると言う事ですか?」

「もちろん認めない。俺は罪を背負ってるわけじゃないんでね。ただ約束を守りたいだけさ。弟を助けてやるって約束をね」

「約束? たかが約束に命をかけるとでも言うんですか?」

「今はそう言う気分なんだ」


俺の言葉にキュイゼは反応を示さなかった。ただ無言で剣を持つ手に力を込めていた。


周囲の村人達も、俺たちの様子を見て何事かと集まってくる。

いつの間にか俺とキュイゼを囲むように人だかりができていた。

その間に割って入ったのはノルン神父だった。


「キュイゼ殿。詮索はその辺にしておきなさい。ハヤト殿はそんな人物ではない。この私が保障しよう」

「あなたが保障したところでこの男が白だと証明されたわけではありません。本来ならこの男を拘束するのが一番なんですよ」

「しかしキュイゼ殿」

「五月蝿いです!」


どうやら逆上させてしまったらしい。

キュイゼは今にも俺に飛びかからんとするように、目に込める力を強くした。

そして俺との距離を詰める。

しかし次の瞬間、ノルン神父が俺とキュイゼの間に割って入った。


「キュイゼ! お前はいつもいつも、そうやって先走りするんじゃない。時には加減というものを覚えろ。でなきゃいつまでたっても成長なぞせんぞ!」

「なっ! でもそれは」

「言い訳は無用だ。頭に血が昇るたびに問題を起こすのはいい加減卒業しろ。疑うだけじゃ何も解決なんてしないんだ。少しは物事の本質を探ろうとしろ。ハヤト殿は約束のためだと言っているだろう!」

「……」


ノルン神父の言葉でキュイゼはシュンと大人しくなってしまった。目には涙を浮かべている。

しかし温厚そうに見えるノルン神父がこんなに怒るとは意外だった。

教会の人間だからこそ強行的なキュイゼの行動が目に余ったのかもしれない。

しかし続く言葉でその真相が語られる。


「はぁ。私は心配だよキュイゼ。もう少し理知的な娘に育ててきたつもりなのだがな。どこでこうなってしまったのか」

「……ごめんなさい。父上」


意外なことにキュイゼはノルン神父の娘だったようだ。

俺はノルン神父を見る。ハゲ頭が印象的な思慮深そうな人間だ。

一方キュイゼは自由闊達を絵に描いたような騒がしさがなんとなく滲み出ている。そして何よりその容姿は美しさと上品さ、可愛さを兼ね備えていた。

どうしてこの親からこれほど可憐な少女が生まれてきたのか。

まあノルン神父もイケメンなのだからおかしくはないのだが、いかんせん頭が……。


俺の視線の行方に気づいたのか、ノルン神父は頭をさすりながら照れ笑いを浮かべた。

その反応に俺は苦笑いを浮かべる。


「ありがとうございます。ノルン神父。まあ俺も疑われても仕方のない立場かと思うので。だから尚更、俺が同行することで疑いを晴らせればと思うんですが」

「うむ。その覚悟、しかと見届けさしてもらった。危険な行程になるかと思うが、くれぐれも無理はしないようにね」

「はい」

「ほら。キュイゼもお礼を言いなさい」

「……ありがとうございます」


ノルン神父に促されて渋々お礼を言う様は、この2人が親子である言葉を証明しているようだった。

師団長といってもまだ年相応の子供なんだな。周囲の人間が温かい目で見守る理由が分かった気がした。

まあ背後の騎士達には俺がキュイゼを泣かした悪者のように映ったのか、強烈な殺気がビンビン感じられたが。


とは言えこれでもう後には引けない。

正直感情の赴くままの決断が正しかったのかどうか、俺自身にも分からなかった。

本当はこんな足手まといはついていかないほうがいいとも思うし、無理に約束を果たす義理もない。

村に残ってのんびり待つか、次の襲来を考えて逃げるのも手だ。

だが関わってしまった以上他人事ではいられなかった。


人間ってのは不便な生き物だなとか思いながら、俺は青い空を見上げた。


「そうだ。出発まで後2時間程しかないから、急いで支度をしてくれ。ニル殿に頼めば装備を用立ててくれるだろう。また後でここに集合だ」

「はい。分かりました」


こうして俺は討伐隊に参加した。

ワーウルフの討伐と子供達の救出。不安は多いが、使命感もそれだけ強い。

その時の俺は、久々に心が高揚するのを感じていた。

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