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008 魔導崇拝と転生者

「そうだ、今回の機会がちょうどいいんだが、点検をしてくれないだろうか?」


 店主が、アヴェロンに2つの魔紋獣器ビーゼスを見せた。

 ひとつは猿のような姿をしているもので、もうひとつは獅子のような姿をしている。

 どちらも、アヴェロンがここ居酒屋「セイリュウ」の店主のために作ったオーダー品だ。


 それが妙にウケてか、今では王都一の人気店だ。

 どうしても魔紋獣器は値段が高い。そのため、それを店に取り込もうなんていう店はめったにないのだから。


「問題はなさそうだけれども。……うん、大丈夫大丈夫」


 それらを手に取り、アヴェロンは手から魔導を発動させる。

 今回使ったのは、解析の魔導だ。魔紋獣器ビーゼスの仕組みをわかっているアヴェロンだからこそ、できるものである。


 しかし、アヴェロン自身その魔導の仕組はわかっていない。

 アヴェロンは、魔法や魔導のことを「意志の力」だと認識している。

 怒りなどでも「魔」の力は強さを増すのだ、そう考えるのは当然ということかも知れない。


「また、いつでも何かあったら言ってくれ。……ええと」

「前も言っただろう、1機タダでもらった分。ふたり以上の時はおごると言っているだろう」


 店主も、アヴェロンの友人の一人である。

 こちらは逆に剣豪:ロザリオ・リンネのような特殊な役でもない、ただの王都民であるため本来アヴェロンとこう話をするのもかなわないだろう。

 ただ、数年前ロザリオとアヴェロンが出会った場所がここだった、ということが、ひとつの「縁」として彼を結びつけていた。


 名前はアレク・フルル。その姿は人と獣の間のような。

 狼の耳が頭に生えた、獣人である。正しくは【獣精族パクシー】という種族だ。


「でも、友人とかいつ来るかわからないし、来るときはパーティになるかもしれないんだぞ」

「その時はその時だって。……まあ、今日はもう閉店だから、明日もこいよな!」


 気前の良い言葉に促されるように、ロザリオとアヴェロンは店を出て行くことにする。

 さすがにロザリオも酔ったようだ、少々足元がおぼつかない。


「護符は、ちゃんと効いてるか?」

「おかげさまで。……やはりアヴェロンの魔導は素晴らしいですね」


 アヴェロンの使う力は魔法ではなく魔導だ。ロザリオはそう確信している。

 魔法と魔導が、どう違うのかというのはロザリオ自身わかっていなかったし、単に「魔導は不可能を可能にする」としかしらない。

 しかし、魔法も不可能を可能にできるものなのだ、だからこそロザリオたちは、よくわかっていないのだ。


「ところで、私には魔法と魔導の違いがよくわかりません」

「俺もよくわからないけど。……魔法は無機物で、魔導は有機物かなって思ってるよ」


 そんな説明にも、ロザリオは首を傾げるばかりだ。

 アヴェロンは柔らかい笑みをこぼしたまま、右手と左手から光を放つ。

 どちらも、ほんのりとした光で決して目に痛いわけではない。


「左が、魔法で右が魔導だ。違いがわかるか?」

「ええと、右のほうが何か、鼓動しているような印象を受けます」

「そういうこと」


 アヴェロンは頷き、両方の灯りを握りつぶすようにして消した。

 魔法は出力が常に一定だ。魔法力というものを磨けば、それだけ長い時間魔法を使っていられるし、訓練をすれば大きな出力で長時間の使用が可能だ。


 逆に魔導は、アヴェロン曰く「生きている」。使用者の感情の高揚で威力も激化するし、彼のように生命そのものを使用可能な人もいる。

 魔導というのは、この世界でも限られた人々にしか使えない特別なチカラなのだ。


「魔導と魔法って、同時に使えるものなのです?」

「いや……前世の能力がそのまま使えて、それがこの世界では【魔導】と呼ばれてただけだな……。前の世界では、【醒威エヴァル】と呼ばれていた」


 さすが転生者だ、とロザリオは彼を見る。

 現在、世界に人は50億。そのうち転生者は1千人と推測されていた。


 貴重な存在であり、さらにその人々全員が何らかの特殊な能力を持つと思われている中、ロザリオはアヴェロンと出会えたことを、誇りに思っているのだ。


 アヴェロンの友人には、転生者が多くいることも知っているが、彼がその他の人に会える可能性はかなり低いだろう。


「別に転生者は、崇拝の対象でもなんでもないからなぁ。ロザリオ、やめろよ」

「あっはい」


 なぜ心を読まれたのかと、ヒヤヒヤしつつロザリオは頷く。

 【魔導族アルセマキナ】でありながら、更に転生者であるアヴェロンは、人から見れば憧憬の対象ではもちろんあるし、命を吹き込むなんていう芸当は神にも等しいだろう。

 しかし、本人はそれをやめろという。謙遜をするし、ただの人間だと言っている。


 そんな人間だからこそ、私なんかにも話しかけてくれたのだろうと。

 ロザリオは、彼に感謝するしか方法がなかったのだ。

1話毎の文字数や更新頻度はどうでしょうか、ご要望お待ちしております。

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