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068 謁見の間

「よし、堅苦しい話も終わったし楽にしてくれ」


 シルヴィーアマテノヴァルの異名授与が終わり、プトレマイオス国王は終始ひざまずいたままのアヴェロンと彼女を見て、にかっと笑顔を見せる。


「ここは堅苦しくて仕方ない。王城を案内しながら話でもしようか」


 先ほどまで威厳ある壮年の雰囲気を漂わせていただけに、急な態度の変化に衝撃をうけているのは先ほど異名【聖魔姫スローン】の異名を授かったシルヴィーアマテノヴァルである。

 逆に、こんなことに慣れきっているアヴェロンはさっさと立ち上がると、「その前に」と国王へ近づき一本のステッキを差し出した。


「アリスタルニクスに言ったときに見つけたものです」

「……改造済みだな、流石」

「ただのステッキにするのは惜しかった芸術品だったので、つい」


 彼の差し出したものは、シルヴィーをつれて帰る途中で見つけた掘り出し物である。

 デビュー数年とたっていない新人が作り上げたもので、魔法と科学の融合を表しているのかステッキの本体は魔法的な装飾であり、その頂点にあるオブジェクトは科学的な装飾になっていた。

 投げ捨てられて売られていた、本当は1万にも届かないものだが、それ以上の価値はあるとアヴェロンは判断。

 その若者に表記の10倍を払い、名前を聞いてセシルバのオスプレイ内で改造していたのだ。


 そのデザインを国王は酷く気に入ったようで、ほうと受け取ると「完璧だ」と笑顔を浮かべた。


「魔武具としての能力は何がある?」

「脅威が迫ったときの自動迎撃と、毒物の自動浄化です」


 アヴェロンは、その科学的オブジェクトに魔導をかけた。

 いろいろとあるせいで国王は毎日息を抜けない。少しは気を緩めても大丈夫なように、そのオブジェクトに物理的な脅威に対する反射を付けたのだ。


 簡単に言えば、疑似的に魔紋獣器のような能力を付与したのである。もちろん、シルフィールが関わっていないため本来の能力にはほど遠いものになってしまったが。


「【浄化】は、【聖魔姫スローン】の魔導だな」

「はい」


 とりあえず、使用者の半径3メートル以内のすべての毒物を無効化。

 シルヴィーの魔導は【模倣】との説もあったが、実際は【契約結界】というものである。


 何かを制限する結界だ。そのため、契約さえできれば【模倣】も【浄化】も可能だ。

 だから、彼女はいちいち否定して無駄な時間を稼いだりはしない。


「杖と言うよりは、錫杖だな」

「そうですね」


 長さはあるていど、コントロールできる。

 調整の仕方を教え、アヴェロンは子供のようにはしゃぐ国王を優しく見つめていた。






「そろそろ、店を改築するそうだな」

「はい」

「改築する間、居住の場所に困らないのか?」


 魔機武具店【ゼファーヴェイン・ルカ】の改築は来週だ。

 すでにどの業者が改築をするのか決まっており、今はルカ・シルフィール・シアンティーシャテンとイゾルデが魔紋獣器などを梱包している最中である。

 セシルバやフルルも手伝いに来ているし、ロザリオは改築が終わった頃にもう一度アンドロメダにくるという。


「居住は、友人のホテルに宿泊する予定です」


 もちろん、アラガスビルだ。

 ちなみに改築の時、デザインに携わったのもユグドラシルである。


「そうか、では。私も完成したときは向かうことにしよう」


 アヴェロンはそこまで、自分の店を大きくする予定はない。

 デパートなど巨大な場所でやるよりも、アットホームにやった方がいい。


「それにしても、一つの店に異名持ちが4人か」


 元機巫女のシアンティーシャテンも、元聖巫女のシルヴィーアマテノヴァルも。

 そして魔法薬の権威、【技紋技師】に【魔紋技師】。

 店員5人中1人のぞいてすべて異名がつき、しかも全員が一国にとどまらない。

 どんな偶然が重なり合えば、こういう状態になるのだろうと。


 国王は、目の前にいる、息子と同い年の若者を見て頭を傾げる。

 目の前の転生者と出会えたから、自分も変われたのだと再度認識して、息を吐いた。


「先ほど、かなり機嫌がよくなかったんだが、アヴェロンとあってそれもなくなったようだ」


 愚痴のようにぽつりと呟く。

 それを見て、3人が思い浮かぶ人は合致して1人だった。


「エンジ・カエストという男なのだがな」

「まあ、気にしなくてもいいかと」


 しかし、アヴェロンは特に気にしていない。

 ああいう人は必ず存在するものだとわかっているからだ。


「……ああ、ここに入ろう」


 応接室の目の前で国王は立ち止まり、それに皆も追従する。

 結局、アヴェロンとシルヴィーアマテノヴァルが王城から出たのは、夜深くなってからだった。

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