063 困惑する人
王都。
「ルカちゃん、どうかな」
「だいぶこの身体にもなれてきました!」
ルカはうれしそうに、魔導で生き方を与えてもらった身体をくるっとターンさせた。
彼女を優しい目で見つめるのは、イゾルデだ。
しかし1回転したところで、彼女の顔は直ぐに曇る。
海の向こうを見つめるような顔だ。口に出したのは、やはりアヴェロンのことだった。
「アヴェロンさんは、大丈夫でしょうか?」
「彼のことだったら問題ないでしょ。……そんなことよりも、いやな予感がする」
イゾルデは彼に絶対的な信頼を置いていた。たった数ヶ月のつきあいではあったけれど、そのなかで彼の強さと優しさを、厳しさを知ることができたからである。
彼なら何とかしてくれる。人に信頼を投げっぱなしにすることは簡単だが、彼女はそのことについての代償も知っていた。
だからこそ、何かあったときはいつでも出発ができるように、準備は一式してあるのだ。
「……もし、アヴェロンさんが戻ってこなかったら、ルカ嫌です」
「それは私も嫌かも」
もし、アヴェロンがこんな小さな武具店よりも「聖神殿の方がいい」と言い出せばどうなるだろうか?
元々、彼は魔導側の人間で、彼の理想が聖巫女【シルヴィーアマテノヴァル】であることもイゾルデは知っている。
だからこそ、不安になる。彼はそんな人ではないと心の中で思っていたとしても、それは現実逃避にしかすぎないのだ。
「シルフィールはどう思っているんだろう……って」
イゾルデは雑談しているアヴェロンの作業台の逆側、機械側の作業台を見つめて一瞬面食らった。
そこにシルフィールは存在しておらず、代わりに居たのはシアンティーシャテンであったからだ。
今やっているのは設計だろうか、シルフィールは彼女に「武器の名前」と「図形」を書いたパネルを渡して、すでに設計をさせているのだ。
「シアン、できるの? それ」
「……難しいですけど、様は二つの形態に一つのパーツがそれぞれ役割を果たしながら、魔導的にも機械的にも動けるように駆動可能範囲を検出、組立するだけだから、大丈夫」
その言葉の、半分以上を理解できなかったイゾルデには、やっぱりシルフィールのやっていることってすごいんだ、としか感じることができない。
「直ぐに慣れそう」
「そんな、まだまだ」
イゾルデの言葉に、その歪な設計途中のホログラムを見せながらシアンティーシャテンは首を振る。
何というか、荒っぽさがある。機械的すぎて、円形にするパーツを殆ど使っていないのだ。
そのため、一つのたとえば円に収まらないなんてことは多々あったのだ。
「やっぱり、シルフィール姉さんの造形は綺麗」
ルカは、見本として隣に生成されたきれいな円柱に収まる「それ」を見つめて、ため息をつく。
円パーツをやはり使わないと、これはできないか。
「それにしても、今頃機神殿はどうなってるのやら」
「知らない」
シルフィールが戻ってきて、はふぅとため息をついた。
右手にはポータブル機器が乗せられており、機神殿の機巫女が入れ替わっただの、前機巫女は現在行方不明で王族政府も存在を秘匿しているだとかニュースが飛び交っている。
しかしシアンティーシャテンは無関心だ。もう私とは関係ないと恨めしくニュースを見つめていた。
それだけで、どれだけ彼女が機神殿での生活を嫌っていたか分かると言うものだ。
「どうでもいいよ。もう私と関係ない」
重々しい空気が工房内に漂う。
が、それが充満する前に1人の男が工房へ入ってきた。
高貴な雰囲気と、押さえ気味な服装をまとったのはヒュリオン・プトレマイオス。
「シアンティーシャテン様」
「もう様もいらない」
「シアンちゃん」
「うん」
彼が言い直す。
と、シアンは頷くと、満面の笑みを浮かべた。
「イゾルデさん、少し彼女を王城へ連れて行ってもいいですか?」
「……」
「変なことはしませんよ。ただ、父上が何か言いたいそうで」
本当は、王城が彼女へ「異名」を授けることにより、彼女を保護しようと考えているのだが、そんなことを「ゼファーヴェイン・ルカ」の4人が知る由もない。
イゾルデはあからさまに不安そうな顔をしたし、ルカも同様。シルフィールは偏見からしか彼をみれないため、信用はゼロである。
「姉も一緒なら、行く」
「……はい。イゾルデさんもお願いします」
勿論、よからぬことをするつもりもないためヒュリオンは自分に向けられている悪意におびえていた。
女性とはいえ、世界的に認められた「【機】紋技師」が1人と魔法薬の権威が1人いる。
勝てなさそう、とヒュリオンは的確に自分の力と彼女たちのを比べて、そう判断することができた。
男だから、とか偏見を持たず。
アヴェロンを主人公にした作品を執筆中。
2話完成しました、投稿はいつになるかわかりませんけれども




