062 エンジ・カエスト
「誰かと思えば、この前いた男じゃないか」
ロザリオの姿を見て、男ははっと鼻で笑う。
この前、男三人組で島にむかっていた中のひとりだ。とっくのとうに死んでいるのかと思っていたが、どうも生き延びていたらしい。
一人分の魔法量でここまで来れるわけがないと思っていたのだが、それは慢心であることくらい、理解できた。
「そうですね」
「神子様に突き飛ばされたのならともかく、他の人なら国もだまっていないぞ」
ロザリオは、そんな脅し文句をつきつけられても余裕の表情で笑っているだけだった。
そもそも、国単位で逮捕されるようなことをした覚えがないのだから、余裕でいられるのもわかるというものだろう。
「君1人に、国を動かせる力があるとは思えないけれども」
「……君も、前見た」
男はいきなりシルヴィーアマテノヴァルの隣に現れ、そのまま彼女の頭に手をやったアヴェロンをみて、ひどく顔を歪ませた。
巫女に手を出すとは、とそういう言葉を口を開いてぱくぱくさせていたが、それを声に出すことはなかった。
「巫女様に……!」
「はいはい」
軽くあしらうと、魅せつけるようにしてアヴェロンはシルヴィーアマテノヴァルの頭をなでた。
狂ったような目で怒りを示す男に、しかし彼は反省した素振りすら見せない。
「俺たちは参拝客だ」
「でも、聖神殿の巫女様に手を出したグループの管理者なのだろう?」
「それならおまえも……?!」
そこで、しかし男はアヴェロンに頭を撫でられたシルヴィーアマテノヴァルが、嫌がるどころかにへへと緩んだ笑顔を見せていることに気づいて、唖然とした。
聖巫女というのは、色恋沙汰には全く接点のない、むしろ男を近づけようともしない人々ではなかったのか。
現実を認めきれないからか、彼はキッとアヴェロンを睨みつける。
しかし、彼に罵声を上げる前に、男は気づいた。
彼の周りに、4匹の機械生命体が撮り回っているのを。
「魔紋獣器……」
「俺の子たちだ、きれいだろう?」
《蒼帝-Soutei-》、《炎帝-3nT-》、《白帝-βak†A-》、《玄帝-GøTe!-》。
プトレマイオスの国宝にアヴェロンは話しかけながら、男を見つめる。
どれもが、強力な兵器であることを知っているからこそ、何も出来ないのだ。
「ふん、こんな若造が、国宝の所有者なんて何かの脅しにもならん」
男は、身分証をこれみよがしにアヴェロンへ突き出す。
そこに書いてあった名前は、エンジ・カエスト。
「身分証を見せろ」
「プトレマイオス学者協会公認の魔法学者?」
「何がおかしい」
アヴェロンは、こらえきれずに吹き出してしまった。
どうも言えないが、こう自分に敵意を向ける人に反撃するのは楽しい。
相手の本性をむき出しにできる、それだけでも十分だ。
「いや、なんでもない……ははっ」
笑いすぎて息切れを起こした彼に対して、男はさらに怒りのボルテージを上げた。
自分がなぜ笑われているのか、分からない。
だが、少なくとも相手よりは、自分が優位に立っていると信じていたいのだ。
「《§α¢Яa》」
ロザリオが、不死鳥型魔紋獣器を変形させ巨大な剣へと変形させる。
攻撃はいつでも準備ができている。ほかの人が何かおかしな態度を起こせば、そのままぶった切るつもりなのだろう。
「この子たちは俺のものだからね、俺が持っていてもおかしくないだろう?」
アヴェロンの身分証には、金色の文字で「《魔》紋技師」と記されている。
それをエンジに見せるまで、あと数秒。




