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053 あふれる感情

「あ、来ましたね」


 少女は、着実に自分の待っていた存在がやってきた感覚がして自然と顔をほころばせた。

 本当に嬉しい事だ。ほとんど感じられなかった気配が、すぐそこまで。

 今日中には来るのだろうか、とシルヴィーアマテノヴァルはバンザイと両手を上げる。


「みなさん、宿泊の準備はできてます?」

「友人を2人つれてくるということなので、3人分用意しました!」


 シルヴィーアマテノヴァルだけではなく、アヴェロンはほかの巫女たちからも評価が高い。

 そのため、他の巫女たちもテンションがいつもよりも高く、神殿内ははキャッキャウフフと活気にあふれているのだ。


「聖巫女様、アヴェロン様と結ばれるといいですね」


 他の巫女たちは、シルヴィーアマテノヴァルが十数年巫女としての仕事を終わらせたのだからもういいのではないか、と考えている。

 ずっと暮らしてきた仲間であり、自分たちの姉妹でもある。だからこそ、機神殿の連中よりは自分たちの巫女にやさしい。


 機神殿のみんなも機巫女のことを思っているのだが、いかんせん態度が宜しくないのだ。


「早く逢いたいです。アヴェロン、たった3日ですよ!?」


 すぐ来てくれるとは思っていたが、こんなに来るとは思っていなかった。

 ただ、その反動分嬉しさは増す。早く会いたい、という気持ちが強くなってしまい、彼女は徐々に近づいてくるアヴェロンの気配の、近づいてくる方向をじっと見つめていた。


「……」


 ひとしきりはしゃいだあと、次は慎重に。

 シルヴィーアマテノヴァルは、アヴェロンの友人2人の気配を感じ取って、その様子をじっと見つめる。

 

 1人は魔法サイドの人。獰猛な雰囲気を出しこそすれど、どこか守られているような感覚がして威圧感がここまで届いてこない。魔力は十分に蓄えてあるが、ソレよりも身体能力のほうが高そうだ。


 1人科学サイドに属していながらも、魔法を扱えそう。ここまで届く圧倒的な存在感は【龍】系統の種族。こちらはかなり温厚そうだけど、何かのトリガーで暴走する可能性もある。


「……それにしても、人ではない気配がいくつもします」

「アヴェロン様がお作りになっている魔武具では?」

「そうかもですね。大きいのが5つに小さいのが20個ほど感知できます」


 すごい数だ、とシルヴィーアマテノヴァルは思った。

 危険度は低いが、それらの1個体1個体に、自分がもらった数倍、大型に至っては天文学的な数字の倍数で魔導が込められている。

 楽しみだ。早く逢いたい。

 いろいろな話を聞きたい。


 感情が溢れてシルヴィーアマテノヴァルは涙を流しそうになった。

 一度思ってしまうと、そこまで自分は彼のことを思っていたのかと不思議になる。

 でも、後悔はしない。自分が決めたものなのだから。


 難なく、この神殿にやってきた彼に話をかけたのはだれでもない自分なのだ。

 後悔はしていない、し、きちんともう聖巫女の交代ができる時でもある。

 ……アヴェロンが、ほしい。


「湖のそばまできましたね。これからどう渡るんでしょう」


 魔導だろう、と前の状態を考えながら彼女は予想した。

 ただ、それはアヴェロンにだけできることで、他の2人は出来ない。

 早く、早く。


 早く、来てほしい。


 他の巫女たちも、聖巫女がなぜそんなに涙を流しているのか、よくわかっていた。

 だからこそ、彼女に何もせず、静かに見つめ続ける。

 そもそも、この島に巫女たち目的でやってきていない人はいない。

 巫女たちに女性しかいないからと、身体目的の人も少なからずいる。

 有力者や権力者は、特にその傾向が強いのか1年になんどもやってくる。


 だからこそ、心の癒しになる男を欲しているのだ。

 でも、みんなをおいて自分だけ回避するのもいいのだろうか? ときっとシルヴィーアマテノヴァルは思っているから。

 彼女たちは、彼女の選択に任せるほか、ない。



 


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