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052 飛行機内

「それにしても羨ましいよなぁ。聖巫女様だぞ聖巫女様。そんな彼女に『逢いたい』って頼まれるんだ。嫉妬するね。うん」


 セシルバは嫉妬心を冗談っぽくはなししながらも、決してソレを隠さない。

 セシルバとアヴェロンは結構付き合いが長い。というよりもそもそも転生してそう時間が経っていない頃に出会ったのだから当たり前である。

 アヴェロンの、この世界での生き方はセシルバなしでは今の形にならなかっただろうとかんがえる程度には、彼は長かった。


「ほぉー。ところで、セシルバさんは魔法サイドなのですか? それとも科学サイドなのですか?」

「俺はどっちでもないよ。魔法師であり、同時に機動兵乗りだからね」


 裏を返せば、どちらでもあるということだ。

 そもそも機動兵乗りであるが、彼自身はアリスタルニクス出身である。

 彼の種族は【龍人族ドラゴニュート】、その中でも魔竜種と呼ばれる種族だ。


 【龍】系統の人種は、皆一様に腕力が強い。

 同時に身体能力もトップクラスで、全種族で一番耐久力が高い種族とも言える。

 もちろん、魔法や魔導を使っていればその限りでもないが、生身ノミの場合ではダントツだろう。


 特にセシルバは魔竜種。まず無意識に魔法障壁が身体を覆っているため、科学武器はそこまで影響しないのだ。

 銃弾を打たれても、それをそらす程度のことは可能である。

 だからこそ、彼はそれを機動兵にも応用しようと考えていたのだ。

 結果、それは不可能だったのだが。


「それにしても聖巫女かぁ。写真に取ることすらされていないんだよな」

「そうですねぇ」

「でも美しいんだろうなぁ」

「そうですねー」


 頷くしかない。たしかに聖巫女は美しいし、実際をしらない彼らも、アレだけ女性に囲まれながらも全く反応しなかったアヴェロンが「理想の人」としょうしているのだ。

 美人でないはずがないのだ。実際に、絶世の美少女であるのだが。


「早く逢いたいな。で、どうやって神殿に行くのさ」

「俺は歩いて行く。ロザリオは《§α¢Яaサクラ》につかまって。セシルバは四神に乗せてもらえばいい」


 アヴェロンは簡単にそういったし、セシルバ自身も自分の魔法だけでなんとかなるわけではないことを知っているため、頷いた。


「絶対に、聖巫女に手を出すなよ」

「アヴェロンに言われなくてもそのつもりはないし、俺は好きな人が別にいるからね」


 飄々とそういい、彼は窓の外を覗いてお、と声を上げた。


「お、アリスタルニクスの端まできたぞ」

「首都までここから1時間か、そろそろだな」


 再び操縦桿を握り直すセシルバの顔は、どこか緊張した面持ちのようにも見える。

 湖に空からも進入は許されないため、航路を調整したいのだろう。


「《玄帝-GøTe!-》」

【あいよ】


 ゆっくりと旋回しそれは曲がる。

 機体はほとんど傾かず、搭乗者が不愉快になることはほぼない。


【アリスタルニクスに連絡は通してある】

「流石」


 明らかに、機体のなかの空気も変わった。

 空気中に入っている魔法の量が濃い。


「でも、こっちのほうがいい気持ちはします」

「だろうな」


 魔法力の回復量も、アリスタルニクスのほうが多いのだ。

 だからこそ、魔法を使う人々はこちらにくるし、魔紋獣器は王都よりもアリスタルニクスのほうが使いたがる人が多い。

 ただ、出回らない。


「ちょっと多めに持ってきてよかったかもしれない」

「商品持ってきたのか」

「持ってきた。ええと」


 トランクケースの中には、手のひらサイズにのるほどの球体や立方体がいくつもある。

 総数20。トランクが重くないわけがない。


「この10個は神殿に配る分。こっちが商売用」

「これ、魔紋獣器ビースト・アーゼス?」

「ああ、小型だけどな。作るのはたやすいし、これなら7桁いかない」


 そう答え、アヴェロンはトランクを閉めた。

 到着まで、あと少し。


 

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