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051 離陸

 機動兵。それは職業ではなく、この世界に存在する兵器の一つである。

 基本的に人型をしており、操縦者はコックピットに乗る搭乗型だ。

 正式名称は「機械駆動戦闘兵器」で、人々は「MCW」、または単に機動兵と読んでいる。


 しかし今年、すでに戦争は何十年としていない。国によっては百年単位で戦争を経験していない。

 平和ボケを防ぐため、また万一の時のためにプトレマイオス王国が提唱したのが、「機動兵」の競技運営だった。


「へえ、そこで10数年無敗だったんですか」


 1日に1人、多い日で5~6試合。それをほぼ最大数こなして彼は12年間無敗だった。

 その試合数、約2万1千。それを連戦であろうとも、何であろうとも彼は構わず勝利し続けてきたのだ。


「それだけではなく、どんな操縦方法の機動兵でもセシルバは完璧に操縦してきたし、乗り物だったら何でも操縦できる」


 今回、セシルバが2人と5匹の魔紋獣器ビースト・アーゼスのために借りてきたのは短距離離陸垂直着陸機である。

 短い距離で離陸を可能にし、かつ垂直にも離陸、着陸が可能な万能機だ。

 輸送機だというのに、変形して機動兵にもなれるというのだから科学力はわけのわからないところに行っているとしても間違いではないだろう。


「とりあえず、座っててくれ。時間は……5時間位だから」


 1人でこれを操縦するのか、とロザリオは面食らう。もし事故が起こっただらどうするのだろう、とも考えたが。


「途中からは自動操縦だから問題ないだろう。予備に《玄帝-GøTe!-》をつなげる」


 などとアヴェロンが話をしているため、彼は自分で自分を無理やり納得させることにした。

 《玄帝-GøTe!-》は補助脳として、万が一自動操縦が故障した際に彼が操縦する手はずになっている。


 助手席に《玄帝-GøTe!-》がセットされ、他の4匹も次々に乗り込む。

 今回、しかし人型になる予定はないためそこだけが彼の安心であった。


「トイレは後ろだ。それだけ」


 では発進、とセシルバは手を上げると、操縦桿に手をおいてエンジンを起動させた。









「シアンティーシャテンさんはこれからどうする?」


 アヴェロンたちが空へ舞ったころ、工房では女性陣たちが楽しくお話……はしていなかった。

 アヴェロンがいなくなった代わりに、イゾルデとルカは接客をして。

 シルフィールは設計をしているのだが、それをシアンティーシャテンは見学していたのだ。


「どうするって」

「機神殿には帰るの?」


 普段なら、そろそろ帰る時間だ。

 王都にいたところで3時間もしていると、彼女は飽きて神殿に帰ろうと普段なら思う。

 だが、今回はまるでそうは思わない。


 彼女の能力活動範囲は神殿の中だけで、この工房ではそれを発動することがない。

 ただの、科学に詳しい少女としてここに要られるため、シルフィールがイゾルデの魔紋獣器を作っているのを、何もえんりょせずに見ることができる。

 たまに、科学では絶対に置かないようなパーツを適当に組み合わせるのだから面白くないわけがない。


「あれ?」

「いいのよ。こうしないとアヴェロンのお仕事がなくなっちゃうから」

 

 どんな理由だ、ときょとんとしてしまうシアンティーシャテンだったが、よく考えればそうである。

 すべてが科学で終わるのだったら魔法や魔導は必要ない。

 ということは、必ず魔導要素があるように調整しているということなのだろうか。


「シルフィールさんは、アヴェロンとどんな関係なの?」

「……ただの仕事仲間って言われてるけど」


 ちょっとうなだれた感じのシルフィールをみて、すぐに彼女は何を考えているのかわかった。

 ……まあ、自分とは関係ないか、と思っていたシアンティーシャテンであった。


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