050 四神シリーズ
「やあ、なんだか久しぶりに思えるね」
「俺もだよ全く。……ああ、こっちだよ」
剣豪と魔紋技師が、握手を交わした。
両方を両方が懐かしむように顔をほころばせるのは、周りの人からみてもとても目障りのいいものだろう。
アヴェロンは、目の前の魔紋獣器《§α¢Яa》を見つめて、自分の《炎帝-3nT-》と突き合わせる。
「これが、《§α¢Яa》の完全体なのですね」
「そういうこと。まあ、性格は違うだろうが」
【初めまして。《§α¢Яa》と申します】
【どうも】
《§α¢Яa》は主のサポート特化型。ロザリオを守り、導くための啓発システムである。
対して、アヴェロンの《炎帝-3nT-》は違う。彼女は支援はすれど彼の命令を聞くわけではない。
《炎帝-3nT-》の正しいことをする。異論がある場合、すぐにそれを創造主に伝えることになっている。
それは、彼の今回引き連れている「四神シリーズ」すべての共通となっている。
一つ一つが、明確な自分の意思を持ったいきものなのだ。
魔紋獣器と人間の「契約」を体現した存在であり、普通の人々が望む「主従関係」ではないのが最大の特徴である。
「とりあえず、このまま5体積んで飛ぶ飛行機なんてないから、俺のチャーターしたので行こう」
「ほう」
旅客機に乗せたら、絶対に怒られるなと確信している。
そのため、事前に……というよりは昨日に、とある人の助けを借りたのだ。
【そんなことをせずとも、我のちからで飛んでいけば良い】
「《玄帝-GøTe!-》、君の力は湖を渡るときに使うから温存してくれ」
【ぐぬぬ】
響いたのは、老齢の荘厳なる声。
アヴェロンは困った様子も見せず、相談するようにそういうと《玄帝-GøTe!-》は納得いかなさそうな動作で殻に籠もる。
【爺さんは頑固だからな】
次は若い男の声だ。白虎をかたどった《白帝-βak†A-》は、ぐるると喉を鳴らしつつ甲羅を噛んで引きずっていた。
「賑やかですね」
「まあ、こんなときにしか連れて行かないからな」
【あとは有事ですね。強盗が押し入った時、人間よりもはるかに耐久力の高い私達の方が動きやすい】
説明するのは少女の声。
宙を漂っている青い龍である。
【他の3人がどうかは私には関係ありませんが、私は主であるアヴェロンを尊敬しています。なので私の命に変えましても】
「これ、性格を操作していないものなんだから恐ろしい」
《蒼帝-Soutei-》の考えは、彼女が創られて数年経った成長による決意である。
創造者は愛情を惜しみなく使ってそれを作り、作った方もまた主を愛する。
表には出さないが、他の四神も同じ。
彼にとっての四神は、シルフィールにとってのルカとそこまで変わっていない。
【私達には、特別な能力もあるのですが、それを見せる機会はないですかね】
特別製も特別製、魔紋獣器に同じものは一つとして存在しないが、特にこの4体は異質なのだ。
と、話しながら歩いているといつの間にか空港の端。
アヴェロンが手を挙げると、1人の男が駆け寄ってくるのがわかる。
「やあやあやあ」
ほう、とロザリオは目の前の男を見上げる。
2メートルに届きそうな身長、獰猛さを全面に押し出したような顔面。
腕にはわずかに鱗が浮かび上がっており、それよりも気になるのはところどころに見られる巨大な文様だ。
「剣豪ロザリオ・リンネ、出会えて光栄だよ」
嬉しそうに、その男はしっぽをびたんびたんと地面に叩きつけている。
突っ込みどころ満載だ、しかしロザリオが口を開く前に、アヴェロンは紹介を始める。
「ロザリオ、こっちが今回同行する友人。【!Nv¢+£】のセシルバ・イグゼキュディーヴァ。機動兵乗りだ」
「!?」
「インヴィクト。無敗っていう意味だ。よろしく頼む」




