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048 与えた【生命】

「機巫女様、はじめまして」


 きれいな人だ、とシアンティーシャテンはその人を一目見て思った。

 彼女の目の前に立って跪かないのは、彼女が完全な科学信仰ではないことを示しているが、それでも敬意はきちんと払っていることがわかる。

 

「様とかつけたら、見つかるから使わないで」

「はい」

「敬語も禁止」

「うん」


 見つかる、ということは誰かに追われているのだろうか。

 シルフィールはそこまで考えた上で、たしか機神殿は地形的には人を縛れないため、たしか中にいる人達が厳しいらしいことを思い出した。

 聖巫女のいる聖神殿は、ただっぴろい湖の中心にある島だ。

 だからこそ、縛ろうとしなくても外的は相当なことをしない限り来れないし、聖巫女は滅多なことどころか、外界に降りたことがないのだという。

 完全に風俗から離れた生活をしているのは、それが原因なのだろう。


「……工房の方に入りましょうか」

「うん!」


 イゾルデとシルフィールについていき、シアンティーシャテンは工房の中に入った。

 店内のアンティークショップ的雰囲気とは打って変わって、工房は科学的だ。

 人によって感じる雰囲気というものは違うが、シアンティーシャテンにとって彼女の馴染み深い光景がそこにはある。


 科学、というよりはアヴェロンの作業台が気になったのだろう。

 儀式台がいくつかあるアヴェロンの区域は、科学の場面しか見たことのない彼女にとって異様な光景だ。

 だが、興味は惹かれる。


「すごい、これなに?」


 興味津々な顔で質問する彼女に、説明をするのはイゾルデの役目だ。

 魔法のこと、魔導のこと。検索は出来れど実物を見ると理解できない彼女の為に、イゾルデはわかりやすく説明した。


「アヴェロン、これ使ってもいい?」

「俺がいない間は、自由にどうぞ」


 作業台にもランクは存在する。

 アヴェロンの作業台は、王都で出回っている作業台よりも3段階ほどランクが高いものだ。

 理由は簡単で、彼が【アリスタルニクス魔導皇国】から特注でもらったものだ。

 彼はまだ誰にも教えてないが、聖神殿からの贈り物である。


 魔法関係、魔導関係の作業台は一定回数作業が失敗すると負荷に耐え切れなくなって破壊されるが、この作業台はそれがない。

 それどころか、この作業台は自動調整機能が付いている。

 魔導の量、魔法の量を普段は誤差すら許されないが、この作業台にはそれが許される。

 それどころか、比率もちゃんと変えてくれるのだから、これ自体が最高ランクの魔武具とも言えるだろう。


「わぁい!」


 イゾルデは作業台を人差し指でゆっくりとなぞる。

 光景だけを見るととても妖艶な動作だが、魔武具との波長を合わせる、魔法師には必要な作業だ。


 ただ、普通はさっさとやるもので、こねくり回すようにはしない。


「シアンがきょとんってしてるでしょ、やめなさい」

「ちぇ」


 ちょっとまってて、と上階にイゾルデが道具を取りに行く間、シアンティーシャテンは目の前にいてシルフィールの手伝いをしているルカを見つめた。

 不思議な存在。タダの精巧な機械人間ロボットだと材料だけを見たらそうなるが、それは確かに「生きている」。

 プログラムされた生命ではなく、生物としての生命を彼女は持っている。

 それを確信できるのだが、しかし彼女に肉という部分はひとつもない。

 肌は普通の人間のように見えるが、合成樹脂。


「貴方は、何なの?」


 機巫女シアンティーシャテンは、目の前の少女にそう話しかけるしか、言葉が見つからなかった。

 

「私ですか? これはシルフィールさんが作ってくれた【身体】と、アヴェロンさんが与えてくれた【生命】なのですよ」


 誇らしげに両手を広げてシアンティーシャテンに見せるルカ。

 確かに、生きている。


 ここでシアンティーシャテンは、アヴェロンが扱う魔導の存在を思い出したのだった。


「生命を扱う。ってことは、アヴェロンさんは命を削ってるの?」


 その言葉に、一同が沈黙する。

 ちょうど下階に降りてきたイゾルデは、その異常な雰囲気に押し返される。


「……皆さん、気にならなかったの?」

 


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