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045 感情の誕生

「ちょっと用事ができた。アリスタルニクスに行ってこないといけないかもしれない」


 アヴェロンは工房に戻り、いったいなんの話が起こっていたのかわからない様子のイゾルデ、シルフィール、ルカを見つめた。

 アリスタルニクスとは、魔導皇国のことだ。


 機神殿を「所有」するプトレマイオス王国が科学の大国ならば、聖神殿を所有するアリスタルニクス魔導皇国はその名前の通り、魔法に優れた人々の集まる場所であり、アヴェロンの転移した場所でもある。


「聖巫女様に呼ばれたって聞いたけど」

「……そういうこと。イゾルデには悪いが、ちょっと完成が遅れる」


 いいよ気にしないで、ここに居を移すつもりでいたから。

 イゾルデは何でも内容にそう言葉を発したが、彼女が気にしていることは別だ。

  彼の理想が聖巫女だと、この前聞いたばかりである。

 戻ってこないのではないかと危惧しているのだが、アヴェロンはそんな彼女の考えを汲み取った上で首を振った。


「すぐに戻ってくる。……長くても3週間かな」


 本当は1週間滞在すれば戻るつもりでいるのだが、きっとシルヴィーアマテノヴァルなら駄々をこねるはずだ。

 アヴェロンは知っている。そして先日機巫女と出会って確信している。


 巫女の精神は、その年齢とはるかにそぐわないほど幼い。


「何か持っていかないとな。……これでいいか」


 アヴェロンはそばに置いた適当な魔武具を片手間で改造しながら、ルカを連れて上階へ。

 なぜ自分が呼ばれたのかよくわからない、困惑しているルカに数滴魔導を垂らして変化を聞く。


「どう?」

「……ええと、命、ですか?」

「いきなり流し込んでもルカが故障するだけだから、とりあえず今日から明日の出発にかけて量を増やしていくことにした」


 きちんとシルフィールから説明は受けていたし、先ほど彼女本人からも話をきいたアヴェロンは、とりあえず1日アレばなんとかなるだろうと考えているのだ。

 

「明日、俺が出発したらシルフィールと一緒に役所に行ってくれ」

「はい」


 多分、役所も困惑するだろうと予想している彼は、とりあえずちゃんと分かるように書類を一式用意出来ていた。

 シルフィールのサイン、アヴェロンのサイン。そして2人の「紋技師」の紋章が捺されてあるそれに、従わない役所はないだろう。


「どうしても許可されなさそうだったら、ヒュリオンを利用しろ」

「利用って、そんなこと」

「ヒュリオンならなんでもやってくれるさ」


 アヴェロンは、容赦がなかった。

 だからこそ、周りの人を容赦なく利用する。

 しかしそれは友人だからこそできることであって、アヴェロンは決して信用出来ない人にはものを頼みすらしない。


「暫くの間、魔紋獣器ビースト・アーゼスの注文はなしで頼む。まあ、来ることが少ないから大丈夫だろうが」


 順調にフラグを立てていくアヴェロン。それをわかってこそ彼女は準備をしなければならない。

 しかし、逆に魔法薬は売り出せそうだと彼女は思ってしまったのだった。


「【好き】っていう感覚、わかるようになった?」

「……はい」


 ルカは、自分に「心」という感覚が生まれたのを確かに感じた。

 思ったよりもいろいろな感覚がする。頭のなかが混乱し、そのあとに鮮明に喜びという感情が生まれる。


 条件反射ではなく、きちんと自分で感謝がわかる。

 感情が生まれた、その喜びが、きちんと表情が表現できる。


「……アヴェロンさん、ありがとうございます」

「きにしないで。……さ、また1時間後においで」


 このままでは、今日は徹夜確定である。

 しかしアヴェロンはなんとも思わなかったし、それをルカに悟らせることはなかった。


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