044 機巫女の苦悩
機神殿にて、1人の少女がぶぅと頬をふくらませている。
その顔はとても美しいが、残念なことにとても不機嫌だ。
不機嫌どころの話ではないが、その怒りは目の前の女性に向けられていた。
「機巫女様、そのような顔をされては困ります」
「自分が何をしたのか、自分に聞いてみて」
機巫女、シアンティーシャテンは、アヴェロンとイゾルデのことをかなり気に入った。
神殿内で話の出来る人が出来たのだ。特に、相手を解析することなく普通に話ができる人が。
それなのに、目の前の女性は引き離した。
「……貴方は機巫女なのですよ、シアンティーシャテン様」
「だからといって、ここまで……」
女性は、アヴェロンもイゾルデも魔法関係の人だから、接触は控えたほうがいいと。
その意味が、シアンティーシャテンにはわからない。
「魔法とか、科学とか、一緒になってしまえばいいのに」
「……」
その言葉に、しかし女性は賛同しかねた。
科学には科学の、魔法には魔法の長所があるのは知っているが、どうしても科学の方面から見ればそれは理解のしがたいものがたくさんある。
特に昨日いた彼などは、それの頂点とも言えるだろう。
生命を吹き込む技術など、科学がどれだけ頑張ろうと決して成し遂げることの出来ない所業だ。
だからこそ、科学の限界を機巫女に感じさせてはいけないと思い、彼女は慌てて3人を引き離したのである。
その結果、これだけ不機嫌になってしまったのだから、割に合わない。
「シアンティーシャテン様」
「……」
彼女は、無視した。感情がそれだけでは収まらない。
差し出された食事にも手を付けず、そのままである。
「明日、来てくれるかな」
来ない。きっとこないだろうとシアンティーシャテンはわかっていたが、しかしそれでも彼女は希望を捨てない。
それよりも、あまり考えたくはないが彼がもうこないのではないかといらぬ考えも起こしてしまう。
この神殿に、魔法系のひとがそもそもくるなどほぼありえない状況だというのに。
希望は持ち続けているシアンティーシャテンだが、それでもそれを何度も捨てそうになる。
機巫女やめたい。切に思ってしまった彼女であった。
しかし、それは許されない。
機巫女は……聖巫女もだが……がそれをやめようとするのは、同年代または自分よりも下の巫女を、推薦しなければならない。
それとも、配偶者を作って跡継ぎを作るか。
機巫女はまだその意味がよくわかっていないが、聖巫女であるシルヴィーアマテノヴァルはそれに乗り出そうとしている。
ソレが成功するかはまた別の話だ。
アヴェロンには正式ではないものの、家族というものがある。
自分の店があるし、神殿で数十年住めといえばアヴェロンは断る。
彼は自分主体に生きていけるような人ではない。
イゾルデの感情も、シルフィールの気持ちも、ルカを取り巻く環境もなんとかしない限り、自分のことに眼を向けてもそれを行動に起こす気はないだろう。
「普通にお話したいだけなのに」
シアンティーシャテンは純粋に、魔導師と話がしたかっただけだった。
実際に時間は少ないが、できるだけ早く神殿を抜けださなければ、と虫の知らせが入る。
どこか、相手が遠いところに行ってしまうような気がした。




