040 それぞれの帰宅
タグとあらすじに「群像劇風」と追加しました。
「帰りましょう」
シルフィールは、ひと通り写真を撮り終わってホクホクとした顔のルカに、そう話しかけた。
時はすでに夕暮れ。空はオレンジ色のペンキが塗りたくられたように一色で、魔獣園はそろそろ閉園の時間だ。
「今日は外食に行きましょうか」
「はいっ!」
「何が食べたい?」
久しぶりの外食である。ルカが元気よく返事をすると、シルフィールも柔らかく表情を崩した。
「でも、王都の中心まで結構時間がかかるかも」
「渋滞はしていませんけど」
「ううん。今から帰宅ラッシュだから」
大通りを指さすと、続々と車が列をなしていくのが見えた。
王都に出稼ぎに来て王都から出て行く人々と、王都の外で働き夕暮れ時に帰ってくる人の量では、もちろん前者の方が多い。
しかし、それでも。
それ相応の数は、あるのだ。
「私はなんでもいいです!」
せっかくの休日だ。できればアヴェロンたちとも一緒に夕食を食べたかったが、わがままを言ってもいられない。
ルカは極力顔に出さないようにして笑顔を浮かべると、シルフィールの手をそっと握った。
シルフィールとつながっているところから、身体が暖かくなっていくのを感じた。
それは錯覚なのかもしれないが、それでも心はあたたまる。
幸せを手に入れるためには、それ相応の大小が必要だ。
ちゃんと分かっているからこそ、ルカは悩んでいたものに、決断をした。
「私、明日アヴェロンさんに言ってみます」
「決めたの?」
「……はい。1人の機人として、生きていきます」
機械人間と機人は違う。
前者は命を持たないが、後者は生命というものを持つことになる。
その違いをルカは、やっとわかったような気がしたのだ。
「機人……なら、役所に行って【魔械族】の申請をしてこないといけないかも?」
「ご迷惑をお掛けします」
「いいのいいの。気にしないで」
機械の成長には限界があるが、魔導の力を持って生命を与えていけば、成長に限界などなくなる。
ルカは【魔械族】、つまりサイボーグとして生き、金属すら成長する個体になるのだ。
シルフィールは、技術面での自分がすべきことは終わったかなとルカを感慨深い顔で見つめた。
同時に、正式な彼女の「親」になれることに、改めて喜びを感じられると安堵する。
ルカの握った手を握り返して、シルフィールは車を呼んだのだった。
「楽しかった」
「……私も。また来てって言われたし」
アヴェロンとイゾルデは、空がオレンジ色から紫へ変わるころに機神殿をあとにした。
神殿の入口には、機巫女であるシアンティーシャテンが一緒についていくと言わんばかりに駄々をこね、周りの巫女を困らせている。
神殿に来て分かったことが、アヴェロンにはあった。
シアンティーシャテンが、能力持ちだということだ。
見せられた科学的な技術を、強制的に脳へ取り込み解析してしまう能力。体質、それとも病気とも取れる能力を持っていることが判明し、アヴェロンは他の巫女たちが言っていたことがあながち嘘ではなかったことを理解した。
「その代わり、魔法的なことは解析できないから大丈夫っていうわけなのね。魔法薬の調合とか、すごくワクワクしながら見られてた」
「そういうことだ。魔紋獣器を見せたら、設計の仕方はわかるんだろうがどうやって動かすのかはわからないんだろうな」
ただ、ルカとシアンティーシャテンを鉢合わせしたらどうなるんだろう、とアヴェロンは思う。
両方共両方を解析しはじめるんじゃなかろうか。ルカはそのサイバードレスを、シアンティーシャテンはその存在そのものを。
それも面白いかもしれない、とアヴェロンは考えた上で、ふっと笑みをこぼしたのだった。




